ある晴れた寒い朝、ギルモア博士がベッドで冷たくなっていた。
穏やかな、安らかな顔だった。少しも苦しんだような跡はなく、寝ている最中に逝かれたのだった。
ボクは博士の死に顔を見ても、涙が流れることがなかった。
博士はもう充分に生きられたのだ。年を重ね、段々身体が不自由になっていく博士、物忘れがひどくなっていく博士。
反対に年を取らない、決して老いないボク達・・・
当たり前のことだ。ボク達は、かつて博士に改造されたサイボーグなのだから・・・
「ウウウッ!・・・ギルモア博士・・・博士・・・ウウウ!!」
小さな教会の裏手にある墓地で、ボク達9人は集まっていた。その中で博士の面倒を一生懸命に見ていたフランソワーズだけが泣いていた。
後の8人は泣けないのだった。泣く機能がないのだ。ボク達の中で泣ける機能を所持していたのは、比較的改造度の少ないフランソワーズだけだった。
「フランソワーズ・・・博士は、天寿をまっとうされたのだ・・・神のお召しなんだよ。」
棺に取りすがって号泣するフランソワーズに、アルベルトが声を掛ける。真っ赤に瞼を泣き腫らしたフランソワーズは、ジェットに手を借りてようやく立ち上がった。
今にも降り出しそうな空の下、神父さんの言葉が始まった。
「・・・」
「・・・」
ボク達はギルモア研究所に集まっていたが、誰も喋ろうとはしなかった。ボクの隣のフランソワーズが、ハンカチを握りしめながら、まだ低い嗚咽を洩らしていた。
「・・・で、ジョウ、この屋敷はどうするんだ?」
グレートが聞いてきた。007・・・グレートは今でも物真似ショウやスタンドアップコメディで、ロンドンやニューヨーク、ラスベガスのショウビジネスの第一線に立っている。
「売らないでおくよ。博士の思い出に浸りながら、守っていくさ。」
ギルモア研究所の発表した特許などの利益や、ボクのレーサー時代のお金で生きていくことは可能なはずだった。ボクはとっくにレースから足を洗っている。何十年もやる自信はあるが、他のレーサー同様、引退しなくては人に怪しまれてしまう。今は博士の代理として、月に1回くらい、東京で特許と資産を委託している事務所に行くだけの生活だった。
「あ~あ、レース生活に戻りたいなあ。」
002・・・ジェットが言う。彼もボクと同様、レース生活を引退し、その稼いだ賞金でマンハッタンに豪邸を構えていた。
「それは無理アル。ニューヨークに店でも出すアルから、ジェットに店やって欲しいアルよ。」
キセルをくゆらしながら、006・・・張々湖大人が言った。張大人は東京を中心に高級中華料理店を何店舗か経営していて、今や華僑の大物だった。
「せっかく日本に来たんだから、富士山でも見に行くか、な、ピュンマ?」
004・・・アルベルトがソファから立ち上がった。統合されたドイツで彼は今も長距離トラックのドライバーをしている。彼によれば、免許更新だけが苦手だそうだ。免許の写真が老けないからである。
「いや、すぐに国に帰らなくっちゃいけないんだ。残念だけど。」
008・・・ピュンマが物憂げに立ち上がった。彼は国の密漁監視官から国連機関に出向し、多忙な毎日らしい。
「オレも。」
005・・・大男のジェロニモも、やや申し訳なさそうに言った。どうしても外せない先住民族の会合がある、と付け加えるようにして言った。
「ウウ・・・何よ・・・何よ、みんなして・・・ギルモア博士が、私達のギルモア博士が、亡くなったというのに!」
「フランソワーズ・・・」
泣きながら彼女はボク達みんなを睨んでいた。
「みんな、冷たいのよ!!・・・早く、帰りなさいよっ!!」
「よさないか、みんなだって辛いんだ!!」
ボクが叱ると彼女は、涙をこぼしながら部屋を出て行った。
「ジョウ・・・すまんな。」
ジェットが言う。
ボクは手を振って、みんなを玄関まで送り出した。
博士が亡くなったのに悲しくない訳が無かった。みんな、その悲しみの表現の表し方に戸惑っているのだ。
「・・・おい、ジョウ!」
グレートがそっと耳打ちしてきた。
「フランソワーズを抱きしめてやれ、な!」
「え!・・・な、何を言うんだよ!!」
「そうアルよ。フランソワーズだって女の子アルよ。男が守って当然アル。」
張大人まで話に加わってきた。
「いいか、俺達みんな本当は50才くらいだけど、彼女の心は昔の少女のまんまなんだよ。・・・寂しい彼女の頼りはオマエだけなんだ!」
ボクはきっと耳まで赤くなっていただろう。
「じゃあ、ジョウ、またな!」
アルベルト達と握手して別れた。
ボク達3人・・・001ことイワンとフランソワーズとこのボクだけが、このだだっ広い屋敷に取り残されたのだった。
「ごめん・・・ごめんなさい、ジョウ・・・みんなだって悲しいのに、私ひどいこと言っちゃった・・・ウウ・・・ウウウウッ!」
部屋に様子を見に行くと、フランソワーズがベッドの上でまだ泣いていた。黒い喪服で泣き崩れていた彼女は、はかなげで美しかった。
003・・・フランソワーズは1時期、あるバレエ団のプリマドンナだったが、ボクやジェットと同じ理由でバレエを引退し、博士とイワンの面倒を見ていた。もちろん、ボクの面倒も見てもらっていたのだ。
「暗い部屋にいたら、だめだよ・・・」
電燈の紐を引っ張ろうとしたら、
「点けないで!!」
フランソワーズがいきなり、抱きついてきた。
「フ、フランソワーズ!!」
ボクは動揺していた。
「私の顔、今、涙でひどいの・・・見ないで、ジョウ!」
暗くたってボクの目には暗視装置がついているのだ。見えないことはなかったが、ボクは黙っていた。
「・・・フランソワーズ・・・」
ボクはそっとフランソワーズのあごを持ち上げて、キスをした。キスは涙の味がしていた。
・・・だけど・・・
ボクはキスをしながら思った。
・・・ここまでしか、できないのだ!
サイボーグのボク達はここまでしか許されていないのだ。「黒い幽霊団」も博士も、サイボーグ戦士に性機能までは装備することを考えていなかった。
・・・ずっと40年、このままなのだ・・・そしてこれからもずっと・・・脳の活動が止まるまで・・・このまま機械の身体で、老いることも恋することも許されず・・・
愛しいフランソワーズを腕の中に抱きながら、ボクは絶望するのだった。
<オタノシミノサイチュウ、ゴメンネ!>
不意にイワンの思念波がボク達を呼んだ。キャッとフランソワーズがボクから離れて、喪服の乱れを直す。
「・・・どうした、イワン?」
<カタカナモード、ハナシニクイノデヤメルカラ、マッテ・・・おほん、おほん、聞こえる?>
「ああ、大丈夫。」
<お2人さんに見てもらいたいものが、あるんだけど、研究室まで来てくれる?>
「今からかい?」
<大至急!・・・加速装置で!>
「判った、判った。」
ボクは、鏡に向かって急いで化粧を直すフランソワーズを急き立てて、研究室に向かった。
<お楽しみの最中、ごめんね。>
研究室ではイワンのベビーベッドがプカプカ浮いていた。
「こ、こら、イワン!!」
フランソワーズが真っ赤になって怒った。
「まあまあ・・・で、イワン、事件かい?」
スーパーベビーこと001・・・イワンは今でも昼寝する赤ちゃんのままだった。一応近所には、ボクとフランソワーズが夫婦で、イワンが子供、博士がフランソワーズの父、と触れこんでいた。
<違う、違う・・・世界は今も物騒だけど、今日の用件は違う。>
「黒い幽霊団」や「新黒い幽霊団」が滅んでどれ位だろうか。世界のどこかで、今も戦火が絶えることはないけど、ここ数年ボク達の出番はなかった。
<博士の最後の遺言があるんだ。>
「遺言!?」
ボクはフランソワーズと同時に声を発してしまった。
<ビデオレターだよ・・・見るかい?>
「うん!」
<じゃ、スクリーンを見て・・・>
大画面のスクリーンにノイズが走ると、すぐにビデオレターが再生された。
『ワシはもう長くない命じゃ・・・だが、今までの研究成果を、ここにまとめておいた。』
ギルモア博士がベッドの上でこちらを向いて喋っていた。ボクは懐かしさに心が打たれてしまっていた。フランソワーズも再び泣き出していた。
『これがワシの生体工学のすべてじゃ・・・これをキミ達に・・・ワシの子供達に送る。これで、少しは罪滅ぼしになるじゃろう・・・』
・・・何の事だ?罪滅ぼしって・・・
ボクには疑問だった。
『すまなかったと思ってる・・・キミ達には。誘拐同然に秘密基地に連れて行き、改造して、戦うだけの日々・・・青春をムダにさせた。本当に申し訳ない。・・・だが、これで少しは人間らしく、なれる。特にジョウとフランソワーズ・・・キミ達にはこの手術を是非、受けてもらいたい!』
・・・手術?
ボクはフランソワーズと目を合わせた。彼女もまだ理解できていないようだった。
『この手術でキミ達、ワシの子供達は・・・下品な言葉しか思いつかんが、性行為が出来るようになる。』
・・・!は、博士!!
『・・・もちろん、生殖行為ではない。子供も作ることは出来ない。いわば、擬似の性体験が出来るということなのだ。男性諸君には擬似ペニスを装着、君達のDNAから作り出した擬似精液を、ペニスから脳の命令で出せるようになる。・・・もっとも、補充しなくてはならんがな。・・・フランソワーズには・・・』
続く博士の言葉は何がなんだか理解出来なかった。と言うよりも、聞いていなかった。
・・・ボクはフランソワーズと愛し合うことができるのだ!・・・冷たい機械の身体であっても、大丈夫なのだ・・・
『・・・快感については、脳に電気信号を送って、楽しめることが出来る。特にフランソワーズは、新陳代謝を止めるだけだったので、いけるはずじゃ。』
フランソワーズが、ボクの手をぎゅっと握り締めてきた。
『ちなみに手術に関してはイワンが行う。イワンの起きている時に行ってくれ。・・・ここまで開発するのに、10年もかかったよ。本当に長くて、申し訳ない。・・・少し、喋り過ぎたようじゃな、疲れた・・・そろそろ寝かしてもらうよ。』
ビデオレターが停止して、真っ黒な画面になっていた。
「・・・」
「・・・」
ボク達は沈黙していた。
<・・・どーする?>
長い沈黙を破ったのは、空中に彷徨っているイワンだった。
「・・・イワン・・・今日でも手術受けられるかい!?」
<そう言うと思って、たっぷり昼寝しておいたんだヨ。フランソワーズは?>
「私も・・・」
フランソワーズは、目を伏せて小さい声で言った。心なしか顔が赤く火照っているようだった。
<小さくて、聞こえないヨ!>
「私も手術受けるって言ったの!・・・意地悪イワンのバカ!!」
<ハハハ。・・・まずはジョウからだ。まる1週間掛かる大手術だから、フランソワーズ、手伝ってくれ!>
「うん・・・判った。」
フランソワーズがはにかむように言った。
時空移民の司令官が、ボクを哀しそうな瞳で見ていた。
・・・待て、何故そんな悲しそうな目でボクを見る?
<あなた達が私の先祖なのです。>
・・・え?
そう言って彼は眩しい光と共にタイムマシンの中へ消えていった。
<や~い、や~い!!ママなしっ子!>
両親のいない子供ばかりの孤児院に場面が変わっていた。
<髪の毛、茶色!あいのこだ~い!>
眩しい光の中で、ボクがいじめられていた。子供のボクは、めそめそ泣くことしかしらないのだった。
<ワハハハハハハ!!>
突如として世界が暗転していた。その中で骸骨がボクを嘲笑していた。
<我々がいなくなっても人間の歴史は、戦争ばっかりだな、009!!>
「黒い幽霊団」のスカルマンだった。
・・・違う!少しずつだけど、人間はうまくいってるんだ!!
<挙句の果てに、その守った人間達から迫害されるサイボーグめ!性欲の煩悩にその身を焦すがいい!!ワハハハハ!>
突然、ボクは宇宙にいた。爆発する地下帝国ヨミの魔神象の中から脱出したのだった。
<ジョウ!!>
・・・ジェット!!
<ロケットのエネルギーがもう余り無いのさ。助けに来たのにざまあないや。>
手を取り合ったボク達は、大気圏へ向けて落ちて行った。
・・・ボクを離せ!君だけでも・・・
<僕らは約束したじゃないか、死ぬ時は一緒に・・・と。>
・・・だ、駄目だあ!ジェット、無駄死にしては・・・
<おっともう遅い、大気圏突入!>
ボク達2人を地獄の業火のような炎が取り囲んでいく。最後にジェットが言った。
<ジョウ!君はどこに落ちたい?>
身体が溶けるような崩壊感覚と共に、ボクは目を覚ました。自室のベッドで寝ていたのだ。
目の前には心配そうなフランソワーズがいて、ボクの手を握ってくれていた。
「フランソワーズ?!」
「よかった・・・ジョウ、うなされていたのよ。大丈夫?」
「ああ・・・今日はいつだい?」
フランソワーズは、きっちり葬儀の日から10日目を言った。
「フランソワーズ、君は?」
途端に耳まで赤くして、フランソワーズが目を伏せて言った。
「とっくに終わったわ。」
「あ・・・そう・・・イワンは?」
「・・・あ・・・疲れて寝てるわ。1ヶ月は寝たいって。」
「・・・そうか・・・」
ボクはまた、目をつぶった。
夜が訪れていた。窓の外から押し寄せる波の音だけが聞こえている。
ボクは空気の流れの変化に気づいた。向きなおると、フランソワーズはドアの所に妖精のように立っていた。
ボクはそのドレスを初めて見たのだった。裾が床すれすれまで届く白いシルクのガウンだった。
「フランソワーズ・・・」
ボクは咽喉がしきりに乾いてるような気がして、上手く言えなかった。
「とっても似合うよ・・・」
「・・・もう20年前も昔のよ。パリでどうしても買いたくなっちゃって・・・」
「妖精みたいにきれいだ・・・」
フランソワーズは裸足で絨毯の上を歩いてきた。
「・・・この日を夢見て、買ったの・・・」
ボクはぐいとフランソワーズを抱き寄せた。名前の知らない香水のいい匂いが、ほのかにボクの鼻をくすぐっていた。
「ジョウ・・・」
フランソワーズの美しい瞳が濡れていた。ボクはそっとくちづけした。閉じられたフランソワーズの目から、宝石のような涙が頬を伝わって流れ落ちていく。
「・・・最近、泣いてばっかりだね。」
「いやな・・・ジョウ・・・あっ!」
細い首筋にくちづけると、短くフランソワーズが叫んだ。首筋を味わいながら、震える肩に手を回すと白いシルクのガウンが絨毯に落ちていった。
「あ・・・照明を落として・・・」
「・・・嫌だ・・・」
瑞々しい肉体を黒の下着が隠していた。憎たらしいことにその下着がフランソワーズの最後の砦だったが、その砦突破を目指すことが返ってボクの心を燃やしているのだった。
「きれいなフランソワーズをいつまでも見ていたいんだ・・・」
「・・・意地悪なジョウ・・・」
ボクはもう1度フランソワーズの唇を奪った。
「・・・ベッドへ行こう・・・」
「うん・・・」
フランソワーズを両手に抱えて、ボクはベッドへ行った。甘くとろけそうな顔で、フランソワーズはボクを見つめていた。
「フランソワーズ・・・愛してる・・・」
「・・・私もよ、ジョウ・・・」
ベッドの中でフランソワーズの束ねていた髪が広がった。少し顔を持ち上げて、ボクはキスをされた。くちづけをしながら、ボクはフランソワーズの下着をまず上から脱がそうとする。
・・・チキショウ!もっと勉強しとくんだった!!
黒い下着に隠れているフランソワーズの胸がなかなか現れない。ボクは、その外し方さえ判らなかったのだ。
「・・・前からよ、ジョウ・・・」
ボクの悪戦苦闘に見かねたのか、助け舟を出してくれた。
「・・・え?・・・こ、こうかな?」
ホックが外れて、いつも夢想だけしていたフランソワーズの豊かな胸元が露わになった。美しい曲線を描く乳房。その頂点にはピンク色の突起が息づいていた。
「あんまり見ないで・・・恥ずかしいから・・・」
頬を染めながらフランソワーズが言う。ボクはたまらなくなって、それに顔を埋めた。
「・・・ああ・・・ジョ、ジョウ!!」
フランソワーズが切ない声を洩らした。ボクの鼻腔にフランソワーズの香りが一杯に広がった。どうしても乳首が舐めたくなり、ボクはそれを口に含んだ。
「んくっ!・・・あん・・・あっ・・・うんっ!」
空いた手の平でもう一方の乳房を触った。滑らかな感触にボクは興奮してしまう。
「・・・あ・・・あんっ!」
フランソワーズが小さく震える。舌で頂点を軽く突っつくと弓なりになってしまう。そのうちにボクは黒いパンティーまでが、邪魔に思えてきた。
「・・・脱がすよ・・・」
「はふっ・・・んっ・・・う、うん・・・でも、恥ずかしい・・・」
ボクはフランソワーズの逡巡を待てなくなっていた。手をかけて一気に降ろしてしまった。
フランソワーズの花芯が現れた。ボクは少し力を入れて抵抗するフランソワーズの両股を大きく広げてやった。
「い、いや!恥ずかしい、見ないで!!」
両手で自分の目を隠すフランソワーズには、構わずボクは花芯へ静かに口をつけた。
「ああっ!!・・・そ、そんなこと・・・」
ピンク色の花芯がボクの舌に触れた。透明な液体がじゅっと滲み出て、ボクはそれを舌ですくいながら味わった。
ぎゅっとフランソワーズがボクの頭を掴んだ。
「ジョウ!ああっ、ジョウ!!・・・んっ!!」
丸めた舌先がフランソワーズの花芯を攻撃する。可愛い突起が小さく尖って、ボクを挑発しているような気がした。花芯からその突起へ攻撃の目標を変更すると、次第にフランソワーズが甘い悲鳴をあげていく。舌だけでは物足りなくなって、花芯をそっと指で撫でてみた。
「んっ!・・・はあはあはあ・・・んくっ!!・・・私、私・・・おかしくなりそう!!あ、ああっ!・・・はあっ!!」
「・・・痛くないかい?」
「う、うん・・・大丈夫・・・あ・・・あっ!」
フランソワーズの声に安心して、ボクは舌全部で可愛らしい花芯を舐めあげた。とくとくと溢れる愛の蜜と泉。フランソワーズの花芯は、衰えを全く知らずに溢れ続けていた。
「私、おかしくなっちゃう!!ああっ!!」
フランソワーズが、遂にエビのように跳ね上がってしまった。
「ああっ!あん、あん、あんっ!!・・・んっ!」
びくびくと痙攣する美しい身体の探求にボクも夢中だった。
「フランソワーズ!!」
「・・・」
ボクはフランソワーズが心配になって、顔を覗きこんだ。
「はあはあはあ・・・」
急に大きくフランソワーズが呼吸を始めたので、ボクはびっくりした。
「大丈夫?」
「うん・・・うん・・・気持ちよかった・・・」
男にとってこの言葉が嬉しくないはずがない。だがボクは、既に猛り狂っているペニスのやり場を捜し求めていた。
「フランソワーズ・・・!!」
ボクは最後まで言い続けられなくて、絶句していた。
「・・・いいわ、来て・・・ジョウ・・・来て・・・」
フランソワーズが聖母の様に微笑んでいた。ボクはもうこれ以上、耐えられなかった。痛くなっているペニスを花芯に添えて、そのまま身体を押し込んでいった。
「うっ・・・」
ボクは抵抗する何かに喘いだ。
「あんっ!・・・あ、ああっ、ジョ、ジョウ!・・・あん・・・んっ!!」
フランソワーズがその美しい眉をひそめていた。苦痛とも何とも言えない表情をしていた。
「・・・痛くないかい?」
思わずもう1回尋ねると、フランソワーズは首を横に振った。ボクは、安心して腰を深く沈めた。
・・・気持ちいいな・・・お、女の人って、ステキだな・・・
ボクのペニス全体を窮屈な花芯が包み込んでいく。狭い愛の蜜に包まれたまま花芯の中で動くと、フランソワーズの甘い声が途切れ途切れに聞こえてきた。
「あああっ!・・・ジョウ!!・・・頭が変になりそうっ!!おかしくなりそう!・・・ここにいてえっ!!」
柔かな肌、真っ白な裸身をほのかに染めるフランソワーズ、美しく泣くその声・・・
「どこにもいかないよ、ここに・・・うっ・・・くっ・・・いるよ・・・」
「愛してるわっ、ジョウ!!」
「最高だよ・・・ボクも愛してるよ、フランソワーズ!!」
キスをした。フランソワーズにキスをした。舌が絡み合い、唾液の交換をした。
「あん!・・・ああっ!!・・・い、いいっ!!・・・私、感じちゃうっ!!」
愛しかった。この世界でボクは1番、フランソワーズを愛していた。今まで何度となく夢の中で想像していたことを、ボクはしていたのだ。
突く度に悶えるフランソワーズの閉じた瞳から、涙がこぼれていく。ボクは華奢なその肩に、首に、頬にくちづけた。
「ジョウ!ジョウ!!ああ・・・幸せよっ!私、幸せなのっ!・・・あ・・・あ・・・あんっ!!」
花芯がボクを離そうとしない。溶岩のたぎりが、そろそろペニスから全身に伝わって来ていた。
「フランソワーズ・・・ボクも幸せだよ・・・」
「いいっ・・・ああ・・・あん・・・あ・・・も、もう・・・私・・・私!!」
その声が、不意にボクを快感の高みへ連れて行った。
「あ・・・フランソワーズ!・・・あ!!」
「来てえ、ジョウ!!来てっ!!」
我慢出来なかった。ペニスから奔流が始まり、ボクはフランソワーズの身体の中に思いのたけを放っていた。
「うっ!!」
叫びながら、ボクはベッドに倒れこんでいた。
「はあはあはあはあ!!」
2人の呼吸が同調していた。目をつぶったままのフランソワーズの頬にキスをする。
「はあはあはあ・・・最高の・・・」
「え?・・・はあはあはあ・・・何?」
「・・・最高の初体験だったわ・・・」
「ギルモア博士に感謝しないとね!」
ボクはフランソワーズにもう1度キスをした。
翌朝、ボクが目を覚ますとフランソワーズはここにいなかった。服を着てダイニングルームに行くと、鼻歌を歌いながら朝食の準備をするフランソワーズがいた。
「・・・おはよう。」
「おはよう、ジョウ!ステキな朝よ。」
ひどくご機嫌なフランソワーズを見て、ボクは微笑んだ。
「・・・何よ、人の顔見て笑うなんて、失礼しちゃうわ。」
「ごめんごめん・・・君があんまりにもきれいだからさ。」
ボクは、コーヒーメーカーを持ったままのフランソワーズに近づいて抱きしめた。
「ジョウ・・・朝から冗談止めてよね。」
「君を抱きたい・・・」
ボクは朝から欲情していた。
「もう~」
そのくせ、可愛いフランソワーズは抵抗しないのだった。
半年後、また9人が勢ぞろいした。いや、もはや9人ではなくなっていた。
ジェットはブロンドの美人を、アルベルトはドイツ人女性の長距離ドライバーを、張大人は和服美人を、グレートはハリウッドの美人女優を、ピュンマは同じ祖国出身の黒人女性を、あのジェロニモですらそれぞれ先住民族の女性を同伴して来ていた。
「おめでとう、ジョウ!」
「・・・うちの店でやって欲しいアルよ、めでたい話は~」
「ぼやかないアル、って口癖移っちゃった・・・ともかくおめでとう!」
「お幸せにな、ジョー、フランソワーズ!!」
「あう・・・おめでとう!」
みんなの祝福を受け、純白のドレスに身を包んだフランソワーズが泣きながら笑っていた。
半年前にギルモア博士の葬儀をしたあの教会で、ボク達は結ばれたのだった。
ボクはみんなの顔を眺めた。全員があの後、イワンの手術を受けたのだった。そして、それぞれパートナーを連れて、お祝いに来てくれたのだった。
「ね、ねえ?」
フランソワーズがボクに聞いてきた。
「ジェットの姿が見えないんだけど?」
ボクはその疑問の答えを知っていた。黙って教会の裏手を指差してやった。
「え?・・・えっ?あっ?!」
フランソワーズがその方角を見て、絶句する。
ジェットが車椅子を押していた。その車椅子には、50才台後半位の男性が座っていた。
「・・・おめでとう、フランソワーズ・・・本当にきれいだね・・・」
老人が言った。
「・・・ジャン兄さん!!」
フランソワーズの兄、ジャンだった。ボク達00ナンバーサイボーグの唯一生存する肉親がフランソワーズの兄、ジャンだった。
「・・・お前は全然、年を取らないね・・・」
「・・・兄さん!!」
フランソワーズが屈んで、2人は抱き合った。再びフランソワーズは大粒の涙を流していた。
「花嫁には涙が似合わんよ・・・さ、笑っておくれ。」
ボク達が結婚式の招待状をみんなに送った時、ジェットがジャンの存在を思い出して連れて来てくれたのだった。
フランソワーズがこちらを見た。ボクはうなずいた。
<みんなのイジワル!!>
脳波通信機でフランソワーズが言ってきた。
「あ・・・鐘が鳴ってる!」
教会の鐘が鳴り始めた。ボクは耳を済ませていた。
・・・何人たりとも、一島嶼にはあらずして・・・故に問う事なかれ、誰がために鐘は鳴ると。そは汝がために鳴るなり・・・
古いイギリスの詩人の詩を口ずさむ。葬送の詩だが、博士もボク達もとても好きな詩だった。
そしてボクは、フランソワーズを両手で抱きしめた。
・・・ボク達の新婚旅行は世界1周になるはずだ・・・そう、みんなの結婚式に立ち会うのだから。
ボクは美しい花嫁にキスをした。
(了)
亭主後述……
故石ノ森章太郎センセに捧ぐ……
「天使」編や「神々との闘い」編が未完なのは残念です……
しかし、9人をそろそろ休ませてやってもいい頃でしょう?
タイトルの「誰がために……」はアニメの歌から頂きました。
「サイボーグ戦士、誰がために戦う?」という歌です。
そう言えば、誰がフランソワーズの声をあてたんでしょうか?(りくさんから教えて頂きました、杉山佳寿子さんです。)
この作品を書くために秋田書店版サイボーグ009を読みかえしましたが、
今読んでも面白いです。傑作ですね。未読の方は是非是非どうぞ。
文中にも触れましたが、009と002が落下する所は漫画史上屈指の名シーンですね。泣けます。
フランソワーズも気高く、凛として輝いてます。
ちなみに少年サンデーに連載されたサイボーグ009もいい味出してます。
新黒い幽霊団の話よりも、一般人とのエピソードがいいのです。
さて、私の思い入れが強いせいか、えっちい度は低めです。
純愛もの……な訳無いか、やっぱり。
なお、「あいのこ」という表現は差別用語だと思いますが、敢えて使用させて頂きました。
国際的な時代になりもはや死語ですし、昔この言葉を言われて傷ついた人が
いることを、私達は忘れてはなりませんから……