二流大学(にながれと読むのだ!)を卒業した俺は、就職氷河期の真っ只中、何とか小さなコンピューターソフト会社に潜り込むことができた。
しかし紐尾さんの仕込みがよかったせいだろうか、という甘い考えは早々に捨てることになった。
営業やSEを夢見ていた俺は、何と経理部に回されたのである。しかも、たった三人しかいない経理部であった。
経理畑一筋の課長と、社長の愛人らしい(だったらしい?)、会社の金庫番のような中年の女性と、俺の三人である。
そこで俺は慣れない数字と格闘することになった。
経理とは地味だけど大切な仕事、と妙に伸ばした爪をいつもヤスリで削る課長が、俺に訓示を垂れる毎日であり、しっかりやってね、とウィンクを送ってくる女性のセクハラに耐える毎日であった
新入社員にも臨時賞与が出るよ、という社長の甘い言葉には、やはり裏があった。
一ヶ月分の給料に毛がはえただけ、というのはまあいいとして、当然のごとく残業が俺を待っていたのである。
そんな中、ボーナスが出るぞ、と社長から呼び出しを食らった俺は、ウキウキ気分でその日はバリバリと仕事をこなした。ついでに営業やSEが、締めきりを過ぎて提出してくる伝票も処理してやった。
このご時世に、現金の入った臨時賞与の袋(世間的には薄いのだろうが、俺にとっては分厚いのだ!)を見ながら、いつしか課長や愛人の分までやっていると、咽喉が渇いてしまった。
生ぬるくなった缶ジュースを持って、時計を見ればもう十時である。
通常の三倍の速さで人の分まで片づけてやったためか、急に肩口にコリみたいなものを感じていた。
「もう帰ろう! 俺、よくやったよ、俺!!」
誰も返事などしてくれないオフィスの電気を消し、俺はカギを閉めて外に出た。
帰りながら携帯電話を見た。メールも留守電も入ってなかった。
試しに彼女に掛けてみたが、
「はい、藤崎詩織です。ただいま電話に出ることができません。メッセージをお願い……」
だった。
頭にきて、メッセージも残さずに切ってやった。
どうやら、俺はむしゃくしゃしていた。臨時賞与で懐は多少、暖かくなっているとはいえ、恋人に全然会えないのはちと悲しい。
詩織が時間がある時は、俺が決算や残業に追われていて、俺が暇な時は彼女が忙しいのだ。詩織は今、大手の商社に就職していて、仕事に燃える毎日だった。
きっと、会社でももてるんだろうなあ、と思ったら腹が立ち、俺は道端に落ちていた空き缶をカコンと蹴ってやった。空き缶は中身がまだ残っていたらしく、液体を振り撒きながら、腹立つことに俺のズボンを濡らしながら、電柱に当たって止まった。
ふと電柱に目が止まった。派手な水着の女性の写真ができたチラシが、貼り付けてあったのだ。
手を取って眺めてみると、そこには、「恋人気分で楽しもうよ! きらめき」という陳腐なコピーと電話番号が書いてある。
風俗の宣伝のチラシだった。
何かこう、ムラムラするものが体内に湧き起こっていた。
金曜日の晩、残業でへろへろ、飲みいく相手もいないわ、恋人には一ヶ月近く会えてないわ、おまけにせっかくの休みだっていうのに、明日、土曜日の予定もない。
空しい。空しすぎる。
俺はチラシに電話をして、住所を聞いていた。もちろん料金については、何度も念を押して尋ねた。
あんまり派手な店の造りではなかったが、それでもスナックのように重々しい木製のドアを押してやると、いきなりレジがあって、全然恐そうじゃないお兄さんがいた。
「いらっしゃいませ、ご指名のお客様ですか?」
「い、いえ、さっき電話した者ですが……」
どことなく俺の声は気弱だった。
「初めてのお客様ですね、どうぞ、こちらへ」
店の兄ちゃんは俺を待合い室に案内した。俺独りだけの部屋で、彼は俺に料金システムをざっと説明してくれた。
入場料の千円を払って、後は時間によって料金が違うそうである。お兄さんは早口だったが、丁寧に、礼儀正しく教えてくれた。
「女の子の写真見せてくれます?」
俺が聞くと、兄ちゃんは腕時計を眺め、
「もうすぐ終わっちゃうんですけど……どうぞ。この娘達ならすぐ入れます」
と、ややピンボケたポラロイドを数枚渡してくれた。そこで電話が鳴り、
「その中からお選び下さい」
と、受付に戻ってしまった。
りんか、あや、ひとみ。三人共、店内で写した水着姿で笑っている。
う~む、そこそこ可愛いが、いまいちタイプではなかった。
「う~む」
俺が呟いて思案していると、兄ちゃんが戻ってきた。更に手に一枚、ポラロイドを持っていた。
「お客さん、どうです? 決まりました?」
「う~ん……」
「じゃあ、この娘、どうです?いつも人気で指名でいっぱいなんですけど、今日最後のお客さんがドタキャンになってしまったので」
兄ちゃんがもう一枚ポラロイドを見せてくれた。
肩までの茶髪の子で、さっきの女の子達より、やや年上っぽいが、猫みたいな感じで可愛い。
水着もなかなか決まっていて、おっぱいも大きそうである。
しかも源氏名に笑ってしまった。
しおりちゃんである。
決まりだ。この子に決め。
兄ちゃんにそう言うと、時間を決めさせられて俺は六十分を選んだ。結局、総額で二枚使ったことになる。
「お客さん、ついてますよ……では、少々お待ち下さいね」
兄ちゃんは笑って、受付に引っ込んでいった。
しかし、これから遊んでくれるしおりちゃんの写真、どこかで見覚えがあるような気がする。一生懸命思い出そうとしても、記憶の扉の向こう、にあった。
魚の骨が咽喉に刺さっているような、変な感じとでも言えばいいのだろうか。何かが、何かが阻害していた。
「お待たせしました、しおりちゃんをお待ちのお客様、どうぞ、ご案内です」
兄ちゃんがそう案内してくれるのをしおに、俺は立ち上がった。もちろん、携帯の電源を切ってである。
詩織、スマン。でもお前もちょっと悪いんだぞ。
と、勝手に理屈をつけて、俺は兄ちゃんの後に続いた。
「どうも~はじめまして、しおりちゃんです~!」
ドアを開けて部屋に入ると、とうとうしおりちゃんが屈託のない声で現れた。
最初、部屋が暗くて顔が見えなかったが、近づいてくるにつれて、だんだん輪郭が見えてくるようになった。
ポラロイドの写真通り、茶髪の子で、今は豹柄の上下の下着姿だった。思った通り、スタイルは抜群である。
だが、開口一番、しおりちゃんは、
「あれえ? お客さん、初めてだよね?」
と、可愛い、やや高いアニメ声で、俺の顔を見た。
「え、う、うん、初めてだけど……」
「そうだよね……さ、洋服を脱いでこのカゴへどうぞ」
お互い、何かが引っ掛かってる。俺は汗で濡れたシャツとネクタイを放り込み、ズボンを脱いだ。
おっと、俺、もう勃起してるわ、でも風俗にきたんだからしょうがねえよな、当たり前だ。
全裸になった俺にバスタオルを渡してくれて、しおりちゃんは電話機を取った。
「しおりです、シャワー入ります……はい……さ、シャワー浴びよっか」
しおりちゃんに手を取られて、俺達は仲よくシャワールームに向かう。手をつないで、というのが、新鮮に感じられて、俺はときめいていた。
シャワールームの方が部屋より明るく、遂にしおりちゃんの顔がはっきりと見えた。その途端、俺はうっと短く叫んでいた。
しおりちゃんは、きらめき高校の同級生の朝日奈夕子だったのだ。
「あ!」
手にソープを塗って、俺の身体を洗おうとしたしおりちゃん……朝日奈さんも気がついたようだ。
「朝日奈……さん?」
「……え!……う、うん」
魚の骨がようやく取れた、そんな感じであった。
「洗うわよ」
「うん、お願いします」
沈黙のまま、しおりちゃんは俺の身体を洗ってくれた。ペニスを入念に洗うその手つきに俺が震えても、しおりちゃんは無言のままだった。
見下ろす俺の視界に、大きくなってしまったペニスとしおりちゃんの真剣な顔が交差しているのが、何となく奇妙だった。
「さ、戻ろうっか」
「う、うん」
入った時と同じく、手を引かれて個室へ戻っていく。その時、やっとしおりちゃんが口を開いた。
「あたしって気づいてた?」
「ううん、判らなかった。シャワーでやっと」
「そう。はい、どうぞ」
腰に巻いたバスタオルで身体を拭き、どうしたらいいかと待っていると、しおりちゃんが部屋に立て掛けてあったゴムのマットを床に引いていた。
「よくくるの、ヘルスに?」
「ううん、まだ二回目、かな」
「そう……働いてるんでしょ、二流大学出て?」
質問ばっかりされている。小さなソフトハウスに勤めていることを告げ、俺は朝日奈さんとの高校時代を思い出そうとした。
遊び好きの朝日奈さん。流行に目がない朝日奈さん。テストの成績が悪くって、一緒にカンニングペーパー作ったっけ。
卒業後は確か、三流短期大学にいってたはずだけど……後はよく覚えていない。その頃は、詩織に告白されたことに夢中で、つきあうことに夢中で。
朝日奈さんとも、高校生の最初の頃はよく遊んでいたよな。
「さあ、うつ伏せで寝てみて」
「あ、う、うん」
「藤崎さんだっけ、まだつきあってるの?」
俺はヒ、と叫びそうになった。いきなり暖かい液体が身体に塗られたのだ。
そのまま、しおりちゃん、ああ、もうややこしい、朝日奈さんが、それを伸ばし始めた。
「うん、一応」
「いいの、こんなとこ、きて?」
「……」
「ごめんごめん、せっかく遊びにきたのに、ごめんね」
朝日奈さんはこつんと自分の頭をこづいてみせた。片目をつぶり、てへっと笑った顔が可愛かった。
「じゃあ、にゅるにゅる、しようっか」
「にゅるにゅる? ……おお! う、うわ!!」
塗った液体はローションよ、そう朝日奈さんは説明して、背中に覆い被さってきた。その身体の柔らかいことと言ったら、ありゃしない。
ぬるぬる。ぬるぬる。
前後に動かして、すべる、すべっていく、朝日奈さんの身体。全身が乗っているはずなのに、重くない。
羽のように軽く、それでいて淫ら。
「重くない?」
「うん、大丈夫……あ、ああ!」
ねとねとしたローションが広がり、朝日奈さんの手が、うつ伏せになった俺の身体とマットの中に入ってきた。そのまま、ペニスを掴んで、またにゅるにゅる。
「うわあ、固~い、すっごい……ねえ、気持ちいいでしょう?」
「うん、気持ちいいや」
首筋に掛かる朝日奈さんの熱い吐息。背中に当たるたっぷりとした乳房。そしてペニス。
「うへへ、き、気持ちいい!」
「嬉しいな、そう言ってもらえると。さ、今度は仰向けよ」
ローションですべりやすくなっているために、仰向けになるのは難しい作業であった。よっこらしょ、っと何とかマットに掴まりながら、苦労して仰向けになった。
今度もまた朝日奈さんが乗ってくる。と、いきなり濡れたモノで俺の唇が塞がれた。
キスである。俺の口の中をうねうねと舌が動いていく。やっと自分の舌を合わせてそのままレロレロ。
「ん、ん、ん……へへ、キスしちゃったね」
俺を見る朝日奈さんの瞳が、濡れたように光っていた。
「藤崎さんに叱られちゃうね。えへへ。でも、もう一回していい?」
うなづく前に俺は朝日奈さんを抱き寄せた。そのまま彼女の口を吸い、何回も舌を絡める。
「ん、んっ、ん、んう!あ、ああ! だめ、まだ、だめえ!!」
形のいい乳房と股間に手を伸ばしたのだ。股間はローションのおかげで、すでに湿っていた。当然、指の侵入もスムーズである。
「感じやすいんだ」
およそ風俗で言う台詞ではないが、久々の再会である。これくらい言ったって、罰は当たらないだろうと思う。
「そう、とっても感じやすいの。ああ、あん、だめえ、そんなにしたら……あ、ああ!!」
忍ばせた指で、朝日奈さんの中を探る。愛液とローションがごっちゃで、場所もよく判らない大洪水である。
ふと俺は、これって演技なのかな、と思ってみた。
風俗嬢の演技かな、この感じ方。でもいいや、どっちでも。今を楽しめればいいんだ、例え演技であったとしても。
「あ、ああ! う、うまいのね……」
「そうかなあ」
「そうよ……藤崎さんもきっと感じる……あ、ごめん」
朝日奈さんは、いっけないとぺろっと舌を出していた。
「ついついお喋りだから、余計なことまで言っちゃうの、悪い癖なんだ。ごめんなさい」
「お喋りかあ、変わってないな、朝日奈さんは」
「……じゃ、あたしがしてあげる」
猫のように瞳を妖しく光らせて、朝日奈さんは、ぬるりとしながら身体をすべらせていった。ペニスをそっと掴んで手を動かす。ローションのせいもあって、もう敏感なことこの上ない。
「何だ~もう破裂しそうじゃないの」
「疲れてても、立っちゃうんだよ、逆に」
言い訳がましく俺が言うと、
「うふふ、頂きます」
朝日奈さんはすぽっと咥え込んだ。そしていきなり始まる強烈な吸い込み。バキュームフェラってやつだ。
ちゅぱ、ちゅぱ、次に頭を振ってちゅぽ、ちゅぽ。
「ああ、すげえ……すっげえ、気持ちいい……」
思わず感想を洩らしてしまうほどであった。
「もっとよくしてあげるね……」
悩ましく言う。バキュームが再開され、手の動きが加速した。
短いのに肉厚な舌がペニスに絡んでいく。ずぼまった唇が、ペニスの根元まで吸い、俺は締められていった。
やがて俺は我慢できない、と訴えた。ところが朝日奈さんは口を止めずに、逆に激しく吸い出す始末である。
「あ、ああ、俺、出ちゃうよ!」
「え、もう?……いいよ、いいから、いっていいの」
「うわあ!」
俺は悲鳴をあげながら、朝日奈さんの口の中へ放っていた。顔を上げた途端、ペニスを含んだままの彼女と視線が合っていた。
朝日奈さんは、にっこりと嬉しそうに微笑みながら、俺の射精を受けている。右手がペニスをしごき続けているせいで、快感が爆発的になっていった。
「ん……ん……んっ……」
口の中で溶けた、と思った。
「ん……うく……ん……」
まだ頭が上下する。おかげで最後の一滴まで取られて、俺は悶え狂った。
「ん、ん、ん……」
ようやく朝日奈さんが顔を上げ、俺を見て嬉しそうに笑った。
「すごい出たね~もしかして、溜まってた?」
まだペニスがそこにあるのを確認してから、
「ああ、結構溜まってたかも」
と言い返してから、俺は天井を仰いだ。そして、朝日奈さんが精液を吐き出したティッシュを捨てるのを見ながら、
「気持ちよかったよ~」
正直な感想を口にした。
その時、ピンとペニスが指先で弾かれた。
「い、痛いよ!」
「あ~また元気になってるよ。どうする? まだ頑張る?」
身体は正直であった。おまけに誘惑までされているのだ、ここで引き下がれば男ではないと思った。
「うん、でもその前に」
「あん」
今まで一方的に責められ続けていたのだ、今度は俺の方からというつもりだった。
ローションまみれの身体を引き寄せて下に敷く。その上に乗っかって、まずキス。
「うく、うんっ」
普通の女の子のような喘ぎ声だった。
舌をたっぷり絡めてひとしきりキスに没頭すると、それだけで朝日奈さんは感じてきているらしい。証拠という訳ではないが、彼女の両手が俺の首に巻きついてきた。
演技かな、とも思わない訳ではなかったが、耳を軽く噛んで、首筋に舌を這わせて、汗を吸い、そして濡れた股間を探るうちに、
「あっ、あっ、あっ」
という可愛いアニメチックな喘ぎ声が洩れてくれば、その気になった。
ローションと汗と愛液で濡れた腿の内側を撫で、花芯の中で息づく肉の突起にキス。そして潜らせた指で朝日奈さんの体内をじゃぶじゃぶと責めてやる。
「あ、いい、そこ気持ちいい、あ、ああっ!!」
俺にしがみつく裸身の熱さに俺は時間を立つのを忘れた。
「ね」
「ん?」
「……していいよ」
「何、聞こえないよ」
黙った朝日奈さんは俺を見つめ、意を決したように再び口を開いた。
「え、えっちしていいよ」
と言い切った。
瞬間、俺は騙されているのではないかと疑ってしまった。正直顔色もよく見えないし、壁の張り紙が本番の強要は罰金百万円と謳っているからである。
「そ、それは」
「平気。黙っているから。それに超気持ちいいし」
「で、でも」
我ながら優柔不断である。ただ朝日奈さんの台詞の中で「超」という単語に懐かしさを覚えた。
「ね、きて」
絞り出すような声とともに引き寄せられた。同時に両足が割られて、二人の性器が密着した。
これは事故だ、事故に等しいのだ。
自分にそう言い聞かせて、俺は朝日奈さんの両足に手を添えた。俺の気分を察したのか、彼女の手がこちらの背中に回して更にキスを求めてくる。
また舌を吸ってから、俺は耳元に囁いた。
「い、いくよ」
「うん、きて」
自分の声が震えているのを感じた。感じながらペニスの先端を近づけた。
「あっ」
とうとう朝日奈さんの中に入った。後はそのまま一気に突入すればいいだけだ。快感に歪む猫顔を抱きしめながら、俺は進もうとした。
「あんっ、ああんっ」
その時、その時だった。
いきなりジリリとけたたましいベルが鳴った。続いて部屋の電話が鳴った。
俺達はそのまま見つめ合っていたが、朝日奈さんはくすっと笑い出し、
「残念でした。時間切れよ」
一気に俺から離れて、タイマーのベルを切って、受話器を取って、
「はい、しおりです……はい、判りました、後はシャワーだけです。ええ」
そう言った後、妙に明るい声で、
「さ、シャワーいこう!」
俺の手を引いた。
シャワーを浴びる間、朝日奈さんは饒舌だった。いや特に今回だけが饒舌である訳でなく、普段からお喋りではあるが、とにかくあることないこといろいろなお話が続いた。
俺はさっきの続きが気になって仕方がなかったのだが、こっちから話すのも何だか億劫で、触れなかった。
いよいよ着替えて部屋を出ようとする段になった。
「よかったらまたきてよね。超待ってるから」
「あ、うん」
「ハイ、これ名刺」
源氏名がしおりと書かれた名刺をもらった。平日の五時からとずっといるよ、と朝日奈さんは明るく笑った。
「家には何と言ってるの?」
「スナックで働いてるって」
そうか、それは納得だ。
「お客様お帰りです」
と最後のコールをしたのを見て、いよいよ潮時だと思った。
「じゃまたね」
果たせないであろう約束と交して、部屋を出ようとすると、袖が掴まれた。
「ご飯食べない? 今日これで終わりなの」
「え、う、うん、いいけど」
「三十分くらい外で待っててくれる? すぐにいくから」
やった、店外デートの誘いだ。先輩に連れていかれたキャバクラだって、こんなに楽じゃなかったぞ。
外でしばらく待った後、いかにも「お水」といった格好の朝日奈さんが、待ち合わせ場所に現れた。
「待った?」
「ううん」
「そう、よかった。じゃあ、何食べよっか?」
言うなり、腕を組まれた。いい匂いの香水(どっちかと言えば強烈な)にクラッときたが、財布の中を思い出して俺は首を振った。
「使っちゃって、あんまり持ち合わせがないんだよ」
ついつい本音を吐いた。しかし朝日奈さんは、
「こっちから誘ったんだよ、任せてね」
そう言って俺を焼肉屋さんに引っ張った。
目玉が飛び出る程のビックリする値段をあっさりカードで支払った朝日奈さんは、また腕を絡めてきた。
「ご、ご馳走様」
「……ね、さっきの続きしない?」
「え?」
「いいから、続きしないって言ってるの」
「俺はもちろん」
「寸止めだったでしょ、さっき。ちょっと欲求不満気味なの」
ニッコリ笑って、それでも恥ずかしそうに言われてしまった。
異存はない。ある訳がない。満腹になって朝日奈さんを更に欲しくなった俺は、彼女を誘拐するようにラブホテルへと連れ込んだ。
部屋に入るなり、俺は朝日奈さんに挑んだ。シャワーも使わず、服も脱がず、激しいキスで彼女の口を犯してへなへなにさせてから、壁に向って立たせた彼女の下着だけを乱暴に脱がすと、そこはもうとっくに濡れていた。
「いや、恥ずかしいよお」
構わず鼻を押し込んで、股間の芳しい匂いを吸い、舌でそこをベトベトにしてやった。
「あ、あう、あん」
震えるようなアニメ声がまた劣情を高めるのだ。
「や、やあ、やだっ!!」
だがやめない。今日何人の男が舐めたのか、今まで何人の男が舐めたのか判らないそこは、濡れ、愛液を分泌し、美しいピンク色に輝いて俺を挑発している。
震えながら既に欲望で膨らんだ分身を取り出し、前触れもなく美しい亀裂に押し当てた。
「あ、ああっ!!」
弓のようにしなる身体。明るい茶髪を揺らして朝日奈さんが吠えた。
「あん、あんっ、す、すごいのっ!」
後ろから突く度に頭が壁に当たっている。それでも自ら腰を振り、押し当ててくる朝日奈さんは、俺よりも遥かに貪欲だと思った。
「あん、バックって気持ちいい、もう最高……」
「いつも」
俺は聞いてやった。
「え、ええ?」
「こんなことするの?」
「こ、こんなことって?」
「お店の後、お客とえっち……」
「……」
断続的に聞こえていた喘ぎ声がふと止まり、こちらを振り返った朝日奈さんの瞳が俺を見ている。
挑発的な瞳の色が不意に熱っぽくなったように見え、口が半開きになったかと思うと、
「バカ!」
後は言葉にならず、ただ喘ぎ声だけが唇から洩れ、再び壁に向って哭き出した。
上気した身体は桃色に染まり、時々崩れ込みそうになるのを必死になって支えながら、俺は突いた。
朝日奈さんが、
「あ、ああ、いくう! あん、いく、いっちゃう!!」
すぐに俺は引き抜いて、息も絶え絶えの彼女の口の中に放ってやった。さっきより精液は大量に出た。
次はバスルームでえっちに励むことにした。
寝そべった俺の上に朝日奈さんは圧し掛かってきて、置いてあったローションと(どうして置いてあるのかは謎だが)ボディシャンプーを潤沢に使って泡だらけになった。
「プロの技を見せてあげる」
とは言うものの、すぐに朝日奈さんは可愛い声で悶えるのだった。
その後店にいく度に、俺は朝日奈さんとえっちした。
「内緒だからね、絶対内緒だよ!」
俺にしがみつきながら、哭くその可愛さに俺は参ってしまった。
そのうち会社を辞めて朝日奈さんのアパートに転がり込んだ俺は、昼間は部屋の掃除や洗濯に勤しみ、夜は好きな映画のビデオやDVDを見るという生活になった。
言ってみれば、ヒモである。それ以外の何者でもない。
深夜、遅く帰ってくる朝日奈さんを満足いくまで抱く。つまり他の客と絶対に寝ない彼女は、愛撫だけでは欲求不満になってしまうということなのだ。
「そ、そんなにされたら、私、おかしくなっちゃうよぉ」
「こんなにビショビショ」
「恥ずかしいから言わないで、あ、あ、ま、またぁ」
俺はこんな生活に満足している。
ただし一つ気になるのが、詩織からの携帯電話である。毎日、毎晩掛かってくるのだ。
♪好きとか嫌いとか、最初に言い出したのは誰かしら♪
おっとまた携帯が鳴っている。居留守するのも疲れる今日この頃である。
(了)
亭主後述・・・
朝日奈さんは最初うるさくて、騒々しいだけの女の子だと思っていました。
しかし、彼女がスケートで転んで「パンツぐしょぐしょだよぉ」の台詞でイチコロになりました。(笑)
そんな朝日奈さんがもし~になったらという想定でお話を書いてみました。
また立ち上げて、遊びにいこうかな、きらめき高校へ。
そうすれば、こんな大人になってしまってからの「汚い話」なんて想像しなくていいから。(爆)