爽やかな朝。気持ちいい朝。
 こんな日は早速、おふとんをお日さまに当ててやって、せっせとお洗濯に精出すに限る。
 太陽の恵みをいっぱいに受ける作業の後、私は台所に立っていた。
 お弁当の本を眺めながら、これからの献立を考えるのだ。これがまた楽しかったりする。後片付けだけは面倒くさいが、お料理やお弁当を作るのは、とっても楽しい。
 男どもには判ってもらえない女の悦楽だ。いや、男達は判ろうとしないのかもしれない。
 本を読み読み、献立を決めると、台所からいろいろ取り出して、調理器具と一緒に並べていく。
 私の戦いが始まった。

「おはようございます。」
 一息つけて、お弁当がほとんど出来あがった頃、声がした。
「おはよう、いい朝ね、ロベルト。」
「・・・はい。」
 寝ぼけたような声だった。起きたばかりのロベルトは、まだ頭の中が寝ているようだった。彼の方を振り返ると、長い髪がボサボサで鳥の巣のように縮れている。寝グセで大爆発していた。
「昨夜遅くまで起きてたの?」
「はい、今日の試合のことを考えていたら、寝れなくなっちゃって。」
「ロベルトらしいわね。」
 コンロの火に注意だ。あんまり強火でも弱火でもいけない。
「翼はどうしました?」
「もう出かけたわよ。朝からいっぱい練習するって、元気よく出ていったわ。試合でへばらなきゃいいけど。」
「そうですか。」
 形や色づかいに注意したりして、ようやくお弁当箱に盛りつけが終わった。
「さあ、できたわ。あら、ロベルト、顔洗わないの?」
「ママさん・・・その・・・あの・・・」
 ロベルトがモジモジしている。かつて、名門FCサンパウロやブラジルナショナルチームのセンターフォワードを務めた割に、純な男なのだ。
 私は時計を見た。まだ10時だ。時間はかなりある。
「いつものヤツ、お願いします。」
「判ったわ、しょうがないわね。」
「すいません。」
 エプロンを椅子の上に置いた。
「あやまらなくていいの。私も嬉しいし。」
 ロベルトのところに近づいた。
「嬉しい?・・・そうなんですか?」
 ズボンを下まで下ろしながら、ロベルトが言う。
「私を女として見てくれてる、嬉しいのよ、そういうのって。」
 ひざまずいた姿勢で、ロベルトを見上げた。自然に頬が緩むのを感じてしまった。
「女だなんて、ママさんは美人です。」
 パンツからペニスが出てきた。すでに長く固くなっている。
「お世辞がじょうずね。」
 ペニスを2、3度握りしめ、動かした。手のひらに直接、熱い脈動と血管の鼓動がじんじん響いた。
「お世辞じゃないです。」
 返事する代わりに、口を大きく開けてロベルトの特大ペニスを含んだ。口に入れると、どんどんそれは大きくなり、やがて、私の口蓋を突き破らんばかりになっていく。
 苦しくて、1回口から離し、
「大きいのね~」
 今更ながら感嘆していた。もう、慣れっこになっているはずなのに、この大きさ、すごい。
 胸がときめいちゃうから、不思議。
「ママさんの口の中、最高です・・・うう・・・」
 先端から袋の部分まで舌で舐め回し、長さを味わう。何回も何回も舌が這って、ペニスがビショビショに濡れていった。
 てらてら唾液で濡れ光るようになると、指で軽くしごいて、私はその固さにうっとりしてしまうのだ。
 ペニスをロベルトのお腹にくっつけるようにして、裏側に顔を近づけて、袋の部分を唇で噛んでみる。
 はむ、はむっ、はむう、
 ぴくんと、ロベルトが痙攣した。
「あ、あ、ママさん、すごい・・・」
 私は更にロベルトを責めることにした。
 袋を噛むのをやめて、口に入れて吸い込む。ちゅうちゅうと子供がミルクを吸うように、思い切り吸ってみるのだ。
「おおう・・・おおう・・・」
 片方づつ、口に含み転がした。シワシワの袋が充分ふやけきったところで、ちゅぱ、顔を離した。
「どう?気持ちいいかしら?」
 ロベルトは答えず、ただ首を縦に振ってみせた。
「うふふ、じゃ、今度はこっちを頂きます。」
 ペニスを咥えた。大きくなっていたペニスを味わうように、ゆっくりと含む。
 くぷくぷと音をさせて、一生懸命しゃぶってあげた。口に吐き出される先走った薄い液が、ロベルトの感じてる気持ちよさを私に伝えた。
 吸い取り、吐き出し、手と指でしごく。咥えているロベルトのペニスがそのうち、本当に愛しく思えてきた。
「ん、ん、ん、ああん、ん、ああ、ん、お、おいしい、ロベルトの・・・ん、ん、ん・・・」
「うう・・・じゃ、ママさん、立って・・・」
 ロベルトが私を引っ張った。
 口からペニスが抜けた。残念だったけど、しょうがなく私も立ち上がる。
「ママさん、すてきです。」
 ロベルトにキスされた。そのうまさに、すぐに膝が笑い出しそうになってしまう。頭のてっぺんからつま先まで電気が走り抜けたようになり、危うく彼に支えられる始末だった。
 恋人のように燃えたぎった情熱のキスを受けて、私は濡れ、舌を絡ませるラテンのビートのキスを受けて、溶けた。
「ロ、ロベルトッ!!」
 そうやってずっとキスを続けたまま、私は流しに身体を向けさせられた。ロベルトの指が素早くスカートの中に入っていく。もう1つの手は、乳房を確かめていた。
 高まった、いや高めさせられた私の身体が、火照る。火照ってきいた。
「おっぱい、柔らかいです。」
 故国のお母さんのことでも思い出すのか、ロベルトは私の乳房をいじるのが好きだ。
 男はいつまでたっても子供で、可愛いものだ、と思った。
「ん、ん、ああん・・・はい、どうぞ。」
 ポロシャツとブラジャーをめくって、ロベルトの触りやすいようにしてやった。後ろから揉み続ける手に加えて、私の脇から彼のヒゲだらけの顔が出てきた。
 ちゅ、唇が私の乳首を含む。舌先でそこをペロペロと舐め取られ、背筋をゾクゾクとする快感が走っていった。
「あ・・・あ・・・あん・・・」
 声がかすれた。

 最近はロベルトのおかげで、恐ろしいほどに身体中の感度がよくなっている。もちろん、執拗なまでに愛撫されたせいだ。何回も愛されて、私の身体の隅々まで知られてしまったせいかもしれない。とにかく、主人のへたくそでおざなりの触り方とは、まったく違っていた。
 外国航路の船長を務める主人は、日本へ帰ってくるたびに、一応私を抱いてくれる。しかしそれは、もはや義務感によるもの以外の何物でもなかった。
 いいかげんな愛撫を受けて、醒めた目で天井を見ながら、鼻にかかった声を出す。それに満足したような、安心したような顔の主人は、挿入を開始するのだが、全然気持ちよくない。
 主人も私の上で、どこかの港町の情熱的で大胆な女達を空想しているようだった。
 それから数分間、律動が続き、主人は避妊具の中へことを終える。その後はおもむろにパイプかタバコをふかし、どっかと私から離れるのだ。私が後始末のためにシャワーを軽く浴びて出てくると、とっくに寝ていたりする。
 ここ何年かその繰り返しだった。

 ロベルトに半ば犯されるように抱かれた時、私は目が眩んでしまった。抵抗する私に手を伸ばしてくる彼。金切声で泣き叫ぶ私に懇願する彼。
 その瞳は、命の恩人(入水自殺をしようとしたロベルトを助けたのが、主人)を裏切ろうとする恐怖と欲望への葛藤に満ちていた。
 泣きながら私を凌辱するロベルトを、逆に抱きしめ、一緒に泣きながら悶えた私。
 日本の医療技術を持ってしても、もうサッカーができない身体のロベルトは、絶望しながら私を抱いた。犯されながら、私は快楽に喘いでしまったのだ。

 主人のせいだ、と思った。主人が悪いの、私はそう責任を転嫁していた。
 私をちゃんと愛してくれないから、主人が満足させてくれないから、若い男を私に近づけたから、いけないの。

 たくましい身体にしがみついて、絶叫しながら私はそう思った。

 次の晩は、火照った身体を押さえ切れず、私の方からロベルトの部屋に忍んでいった。
 翼が起きてこないか心配だったけれど、昼間のサッカーで疲れているのか、規則正しい寝息を聞き取りながら、そしてそれが破れないか不安になりながら、私は抱かれた。
 
 後ろからしゃがんだロベルトの顔が私の股間を覆う布に触れた。
「あ・・・ん・・・」
 お尻をむにっと、未開のジャングルを切り開くように押し開けられた。そこへ尖って高いロベルトの鼻が押し込まれた。
「や、やぁん・・・」
 鼻の頂きが亀裂を割って中へ入ってきた。ロベルトは、そのまま押し開いた私の中を揺さぶった。
「ん・・・ああん・・・あ・・・ああっ!」
 自分の下半身から、愛液が垂れているのが判った。そこを容赦なく高い鼻に蹂躙されているのが恥ずかしく、また気持ちいいのだった。
「あん、ロ、ロベルトッ!」
 踏ん張っていた腕がとうとう崩れてしまい、私は流しに顔を突っ込んで喘いだ。
 窓から明るい日の光が差し込み、青い空がガラス越しに見えた。

 昼間から、午前中から、私、なんてことしてるんだろう。

 大きい声が出せない。本当はもっと絶叫してしまいたいのに。
 派手に大きな声を出してしまって、よがりたい。

 ご近所の目が怖い。ただでさえ、日系3世のロベルトを家に泊める時から、不良外人でないことを証明するために、ご近所にちゃんと挨拶して回ってるのに。
 噂が立てられたら怖い。
 ロベルトと私の関係が、バレたら怖い。
 私はいいけど、翼が、翼が白い目でみんなから見られたら、辛い。
 なら、ロベルトと寝なければいい。そうすれば・・・

「あ!ああん!やぁ・・・」
 唇を噛んで、声を出すのを堪えた。濡れた舌が私の身体の奥底に侵入してきたのだ。
 ピチャピチャ、音を立てて、ロベルトが私を吸い、愛液を舐めている。だんだん、身体が流しに寄りかかって、私の身体が浮いていく。
 頭を流しの底につけそうになり、私は震えた。
「やあ、や、あ、ああ!」
 節くれだった指が突起を摘んだ。そのまま指はスムーズに体内に吸い込まれていき、リズミカルに動いている。
 舌と鼻は突起を責め続け、私はひたすらに喘いだ。喘ぎ続けた。
 指が中で上側に折れて、私の中の壁をなぞった。
「ああ、ママさんのここ、ザラザラしてます。」
「あ、あ、ああ!!」
 指が出入りを開始した。その抽送とともに訪れる快感が高まっていく。
 立ち上がったロベルトが私を抱き起こし、キスをした。私から舌を送り込み、口を吸った。彼の唇から奇妙な味がした。
 きっと、私の濡れた味なんだ、そう思うと身体が痺れた。 
 もうこんなに触られてしまったら、だめになっちゃう、でもして欲しい、そう思って、ロベルトのペニスを握り、促してみる。私の欲望に気づいたのか、挿入させたままの指が激しく動き、私を更に溶かした。
 ペニスがお尻に触れた。意地悪なロベルトは、まだ挿入してくれずに押し当てるだけだった。
「い、意地悪しないで、ね、ね、お願いだから。」
「何を意地悪するって言うんです?」
「ひ、ひどいわ、ロベルト・・・」
「はいはい、ママさんのお願いですから・・・そうれ。」
 腰を引き寄せて、流しにまた手を置いていく。お尻がギュッと広げられ、ロベルトは熱いキスを濡れきったそこに寄越すと、猛り狂ったペニスの先端を押し当てた。
「あ、当たってる・・・当たってるう・・・早く・・・」
「いきますよ、ママさん。」
「!あ・・・ああ・・・」
 一気にペニスが私の身体を貫いた。目が眩んで、私は大声を出しそうになった。精一杯、指を噛んで堪えた。
 ずぶずぶ、ロベルトが私にめりこんでいく感じが、陶酔感を与え、緩やかにしなやかな獣が動き出した。
「う、うう、んっ、あ・・・あっ、ああ・・・」
 声を出さない、そう誓って、指と唇を噛んではいたが、もう限界だった。
 チカチカと瞼の裏で点滅する光、それは快感だった。私を狂わせ、溶けさせ、翼を、主人を、ご近所への配慮をも忘れさせるロベルトの情熱なのかもしれなかった。
 私は遂に吠えた。咽喉の奥から愉悦の声を上げ、自ら腰を振ってロベルトに押し当てていた。
「あっ、あっ、あっ、ああ、ああっ!!いい、ロベルト、最高!!」
「ママさん、ママさん!」
 ロベルトの甘えたような声までもが愛しい。

 愛して!ロベルト、私を愛してっ!!
 もっと、もっと、もっとっ、愛して、激しくしてっ!

 緩急をつけ、ロベルトの腰が回転する。いつかのワールドカップの大会で、5人抜きだか10人抜きだかした、南米の天才サッカー選手のステップのように、華麗に淫らに彼は動いた。
 乾いた音と湿った音が交互に聞こえた。下着がぐっしょりと濡れ、冷たかったが、今はそれも熱い身体に心地いいのだ。
 私を突くリズムが変化した。
 灼熱のラテンのリズム、そう、サンバだ。柔らかい熱狂的舞踏のステップだった。微妙に変化していくそのリズム、さすがカリオカのロベルトだった。
 まったく違う攻撃のテンポが、ブラジルのサンバとサッカーを思い起こさせた。私はもう突かれて、喘ぐことしかできない。
 息も絶え絶えに、
「あん、ロベルト、いっちゃう、いっちゃうから!あん、いく、いく、いくう!!」
 私は達した。ガラス越しの青空を見ながら、射し込む日差しをいっぱいに浴びながら、達した。
 少しも罪悪感を感じずに、登りつめていた。どうしようもなく淫らな姿で、いった。

 ロベルトに抱き起こされ、今度は家族の食卓の上に乗せられた。
 あっ、ここは家族の食事を、そう思った時には、またペニスが体内を穿っていた。

 あ、あ、あ、す、すんごい、すんごい、ロベルト、いい、すごい!

 自分の足が跳ねているのが見えた。ロベルトの突きに合わせて、ぴょんぴょん揺れている。ああ、すごい格好、そう思ううちに時々、ロベルトのキスが内腿にされ、ヒゲの感触と熱い舌触りに震えてしまいそうになった。
 唇が重ねられて、夢中でロベルトを吸った。気づくと、私は彼の首に手をぎゅっと回し、跳ねていた足を彼に巻きつけていた。

 いい。
 気持ちいい。
 私、感じてる。
 また、いってしまいそう。

 ロベルトが耳元で、
「ママさん、いいですか?気持ちいいですか?」
 そう聞いてきた。歯を食いしばって、快感と戦う私は(実は戦ってなんかないのだが、快感に酔っているのだ)、返事をせずにロベルトにしがみついた。
 身体を合わせるのが深くなり、挿入の深度が増した。今までと違う角度で突かれ、気持ちがよくなり過ぎて、もうロベルトに抱きつくしかできない。
「ん!!あ、ああ、ま、また、いい!やん、いいっ!!」
「い、いきそうです・・・」
 真っ赤な顔のロベルトが呻いた。
「な、中・・・だめ、よ・・・だめよ・・・ああん、ん!ね、いきそうなの?」
「は、はい、ああ、もう出そうです・・・」
「一緒に、ねえ、一緒に・・・いこう?ねえ?・・・あ、あ、だめ、あっ、ああん!!」
 先に私は達してしまった。ロベルトは2、3回腰を突き込んだ後、ペニスを引き抜いた。
「う!」
 私とロベルトが同時に叫んだ。
 彼は私のお腹に射精しながら。私はその熱い感触に痙攣しながら。ぴくぴく震えながら。つま先まで痺れながら。
 お互いの口を貪りながら、私達は達した。罪作りなことに、家族の食卓の上で。一家団欒の象徴の上で。

 ウェットティッシュで汚れたお腹を拭って、ようやく身体を起こした。
 時計をぼんやり見ると、もうお弁当を翼に届けなくてはならなかった。きっと私は髪は乱れ、化粧は剥げ落ちているだろう。仕度を考えると憂鬱になったが、普段からショートにしているのが救いだった。ドライヤーでちょっとだけ乾かせばいいだけだ。
 あるいは、ロベルトに届けてもらおうかなとも思った。
「ロベルト?」
 いきなり強い力で抱きしめられた。
「ちょっと、ロベルト。もう終わりよ、そろそろ出かけなきゃ。」
「判ってます、でも少しだけこのまま。」
「あなたも試合を見にいく約束なんでしょう?遅れたら、翼がガッカリするわよ。」
 そうたしなめるように言ったが、私はロベルトの強い腕の中から逃げられなかった。
「ママさん・・・」
「ん?なあに?」
 年下の男に甘えられる、というのは決して悪い気分ではない。まるで、ハーレムクイーンだかハレルヤクインだかの陳腐な恋愛小説のヒロインになったみたいだった。
「サッカー選手はもうできそうにありません。」
 網膜剥離のことを言っているのだ。
「そう・・・」
「ブラジルに帰ろうかな、と思っています。」
「そうなの・・・翼達が聞いたら悲しむわね。」
 もちろん、私もだ。言わずもがなのことだ。
「翼に、ブラジルでサッカーを教えたいのです。」
 複雑な気分になった。
 大切な翼を異国にやるなんて。身体の半身が引き離されるようなものだ。
 だがそれが翼の将来にプラスになるなら、喜んで送り出してあげなくちゃいけない。
 幸い、ブラジルには日系の人が大勢いるし、何よりもロベルトがいるなら安心だった。すべては翼の意志次第なのだ。

 だけど、だけどそうなったら?
 外国航路の船長の主人が、たまにしか帰ってこない家。子供は、サッカー留学で遠い地球の反対側へ。恋人はそのコーチとして、同じくブラジルへ。

 私だけが、ここに、独りで、残ってるの?

 ぽつんと。
 独りぼっちで寂しく。
 昼はご近所の奥さんとバーゲンを漁りにいって、帰りに喫茶店でパフェやケーキをいっぱい食べて。
 たまに届くエアメールを抱きしめて、ベッドの上でかきくどくように泣き崩れて。
 誰からも愛されず。
 生きたまま、朽ち果てていく、私。

「ママさんも・・・」
 ふとロベルトが言った。
「え?」
 顔を上げた途端、瞳から涙がこぼれた。自分でも思いがけず、私は泣いていたのだ。
 顎を持たれて、ロベルトがキスをしてきた。目をつぶるとまた涙が頬を伝わっていった。
「ママさんも、ブラジルに連れていきたいのです。」
「え?」
「翼と一緒にいきましょう!」

 情熱の国、ブラジル。
 山の上の巨大なキリスト像、コパカパーナの美しい浜辺、陽気なカリオカ達。
 サンバに踊り狂う人々。ひいきのサッカーチームの試合結果をサカナにしてケンカする人々の国。
 そんなところに、しがらみのないところに、愛する子供と若い恋人と一緒にいけたら、どんなに素晴らしいだろう。

 でも、ロベルトはブラジルサッカーのスター選手だった。いや、今でも故国に戻れば英雄だろう。現役でなくって、コーチやフロント勤務になったとしても。
 たくさんの美女に囲まれ、誘惑されるその姿を想像した。そして年老いて捨てられ、祖国にも帰れず死んでいく私がそばにいた。

 テレビで見たサンバの光景が頭に幻のように浮かび、そして消えた。
 寂しく笑って、
「いけないわ。」
「大空キャプテンのことですか!」 
 恩人を裏切ろうとするものだから、ロベルトも真剣だった。
「確かにキャプテンはいい人!命の恩人!でも、ママさんに恋をしたんだ、一緒にブラジルにいって・・・」
「いけないわ、いけないの、ロベルト。」
「どうしてですか!」
 驚くロベルトの身体を押し返して、私はようやく自由になった。
「・・・これは火遊びなの。」
「マッチもライターも持ってません、放火なんてしません!真剣な愛なんです!」
「火遊びの意味が違うわ・・・そうね、かりそめの恋なの、私達は。」
 やっぱりかりそめの意味が通じず、ロベルトは首を振った。
 しかたなく言葉を選んで言ってみた。
「私は、主人を愛してるの。あなたのこと、好きだけど、愛してなんかいないの。」
「マ・・・ママさん・・・」
「いけないの、私。」
 激しい嗚咽と共にロベルトは泣き崩れて、食卓の上に突っ伏した。
 ロベルトの頭を撫でた。優しく撫でてやった。
 翼の試合が始まる時間になっても、ロベルトは私の膝の上で泣いていた。
 火遊びの結末は、得てしてこういうものだと判りきってるのに、人はどうしてこんな愚かなことをするんだろう。
 口の中に苦い味が湧き、私は唇を噛みしめた。

(了)

亭主後述・・・

 

年下の若い、精悍なお兄さんに迫られたら、女性読者の皆さんはどうなさいますか?(笑)
ついていく?遊びと割りきる?
・・・リバイバルの「キャプテン翼」を見てて、翼ママとロベルトの関係を妄想してしまいました。
日系3世とはいえ、ラテン民族の国で育ったロベルトなら、下宿先のママさんへ突撃すると思うのですが、そう思うの私だけ?
というか、あのママさんは、大空家内で放置プレイされてるんですかね?(爆)
マンガ版では、最後に弟が胎内に宿っている設定でしたから、一安心。あ、もちろん大空キャプテンの子供ですよ。(笑)どうやら、ブラジルには行かなかったようです。
ちょいといわくつきの作ですが、感想など頂ければ、嬉しいのであります。

火遊びの結末 ~キャプテン翼~