Alone again ~機動天使エンジェリックレイヤー~

 

 また虎太郎が、みさきちの方ばかり見ている。食い入るように、真剣に、そして微かに頬を染めて見ているのだった。
 トゲが胸に刺さってるような気がする。ちくり、ちくりと胸を刺し続けている。
 悔しい、と思った。腹が立った。もちろんみさきちになんかじゃない、みさきちだけを見つめてる虎太郎のことが、気に入らないのだった。
「あっ!」
 虎太郎が声を出した。その視線の指す方向を慌てて見ると、
・・・な~んだ、みさきちが、跳び箱の上に乗っただけじゃないの・・・
 運動オンチで小柄なみさきちが、跳び箱をうまく飛べずに、台の上に乗っかってしまっただけのことだった。
 それだけなのに、それだけのことなのに、虎太郎ったら、あんなに心配そうな顔しちゃってさ、あ~むかつく。腹が立つ。切なくなる。
 私が同じことしても、知らんぷりするに違いないのだ。ひょっとしたら、指差して腹抱えて大笑いするかもしんない。
「な~」
 みさきちがいつもの声を出して、跳び箱から降りた。失敗したせいか、顔が真っ赤だった。
 虎太郎の表情をちらと盗み見る。心配そうな顔。今にも駆け寄って、
「みさきち、大丈夫か!」
 って言い出しかねない。
 思わず私は虎太郎のそばにいって、コブラツイストを掛けていた。
「うぐえ~!!」
 虎太郎の身体がこんなに熱い。熱い。本当は私、コブラツイストや卍固めを掛ける度にどきどきしちゃってる。
 でも口からは、自然にこんな言葉が出ちゃうのだった。
「虎太郎ちゃん!みさきちが心配、ってか!!あ、ほれほれ!」
 ぎゅ、ぎゅってコブラで締め上げる。
・・・本当は、体操服から触れる素肌が熱くって、痛いくらいなのに・・・こんなに胸がばくばく苦しいのに・・・
「うぐえ!や、やめろ、珠代!」
・・・バカ!虎太郎のバカ!・・・
 ああ、本当は、あんな目で私のことを見て欲しいのに。みさきちを見るような目で私を見て欲しいのに。
「ほれ、ほれ、アバラ折りはどうじゃ~!!」
 調子に乗って、更に締めつけていると、
「な~」
 間の抜けた声がした。今度はみさきちが、苦しそうに喘ぐ虎太郎の顔を、心配そうに覗き込んでいるのだった。

「テテテ、おい、珠代、まだ痛いよ!」
 身体をコキコキさせながら虎太郎が言った。
「ドリー・ファンクJrのコブラの入り方には、私もまだ及ばないわね~」
 私がボケると、
「バカ、このおてんば娘!」
 怒られた。
「デヘヘヘ・・・」
 私はぺろっと舌を出して笑った。
 下校時、もうセミがやかましい。街路樹から、わんわんセミが鳴く音がしていた。
・・・久々の2人っきりの下校だもんね!・・・
 鳩子ちゃんや、みさきちがいないなんて久しぶり、かな。 
「おい、みさきちは?」
「何か、用事があるって。」
 ウソ。虎太郎と2人っきりになりたくって、こんなウソをついている。
 本当はみさきちは、私が用事を頼んで、先に帰ってもらったのだ。
「そっか~」
 残念そうな虎太郎。そんな顔しないでよ、バカ、こっちが辛くなっちゃうじゃない。
「なあ~」
 空を見上げながら、虎太郎が言う。
「ん~?」
「今度の大会さ、みさきちとヒカル、どこまで行くと思う?」
「虎太郎・・・」
「いいとこ行くと思うんだ、だってヒカル、すごいじゃん!」
「・・・」
「なあ、珠代もそう思うだろ?!」
 嬉しそうにはしゃぐ虎太郎。
・・・何、私といて、も話題はみさきちのことなの?みさきちだけしか、見えてないの、あんた!・・・
 バカ、と言い掛けて、やっとの思いで踏みとどまる。そして笑って、
「そうだね、応援してあげようね。」
「うん!」
 私の笑顔は引きつってはいないだろうか。本当に笑顔になっているだろうか。
 でもその心配は杞憂に終わった。虎太郎はにこにこ笑うだけで、私のことなんか見ていやしないのだから。
「ね、今日、虎太郎の家、行ってもいい?」
 思わずそんなことを言っていた。口から勝手に台詞がこぼれてしまうのだった。
「あん?何すんの?」
「用がなくちゃ、いけないのか、こらぁ~」
 今度はドラゴンスリーパーで虎太郎の首を締め上げた。ばたばた暴れる虎太郎の首から、男の人の匂いがしている。
 その匂いを吸い込むと頭がクラッとした。
・・・ああ、虎太郎の匂い・・・
 こうしている間にも更にスリーパーは決まっていき、やがて虎太郎は動かなくなっていった。

 半失神の虎太郎を引きずりながら、彼の家である空手道場に到着した。
 昔から見慣れているけど大きい門構えだ、私は思った。
「うう・・・」
 呻き声がした。どうやら目を覚ましたらしい。
「着いたよ、虎太郎・・・」
「・・・」
 返事がないので、顔を覗き込むと、
「・・・し、死んだ・・・」
「死んでないわよ、着いたわよ。」
「虎太郎ちゃん、大丈夫?」
 みさきちの声がした。ぎくっとして振り返ると、心配そうな顔でみさきちが立っていた。
「はい、珠代ちゃん、頼まれてたCD。」
 みさきちの小さい手が私に触れた。
「あ、明日、学校でもよかったのに。」
 用事を頼んだ手前、私はびくびくしていた。
「すぐ家に帰って取ってきたんよ。」
「あ、ありがとう・・・」
 みさきちオススメのCDを貸して、後で借りに行くから、って頼んだのは私。下校時、虎太郎と2人っきりになるためだったのに。
 大失敗、大失敗。もともとずるして、成功なんかするはずがないのだ。
「ううん、珠代ちゃんが早く聴きたいやろな、って思うて。」
・・・ううん、全然聴きたくないの、ホントは・・・
「それに、虎太郎ちゃんの道場で、空手を見せてもらう約束しとったから。」
 なんだ、全然だめじゃん、私の陰謀は。2人は、とっくに今日会う約束してたんだ。
「ありがとう、みさきち!ほら、しっかりしなさいよ、空手家さんっ!」
 私は、まだ座り込んだままの虎太郎の背中をバシッと叩いた。

 こつん、と石ころを蹴った。
 石ころが跳ねて、電柱に当って止まった。
 身体の中から、熱い何かが込み上げてきて、目からポトリと落ちた。私は泣いていた。

 家に帰らなくちゃいけないんだ、1人ぼっちで。
 晩御飯の買い物をしに、近くのマーケットに寄った。制服姿で買い物カゴを持っているのは、私だけだった。
 レジに並ぶと、前に並んでいる女の子とその母親が、なかよく手をつないでいた。子供と目が合うと、子供は恥ずかしそうに顔をお母さんに押し付けるのだった。そしてしばらくすると、また私の顔を見つめる。
 微笑むと笑い返してきた。可愛らしい子供だ。私に自慢げに持っている小さな人形を見せてくれた。
 この子もいずれエンジェリックレイヤーをするのかな、と思った。

 家に着くとお母さんが、鏡の前で出勤の支度に大忙しだった。
 夕方、出勤するお母さんはちらりと私を見ると、
「珠代、すまないね、食事お願いしていいの?」
「うん、つくっておく。」
 口紅を引いて、派手な服に着替えるお母さん。いわゆる夜の蝶に、私の知らない女になるのだった。
「あの・・・お義父さんは?」
 おずおずと聞くと、
「お酒飲んで寝てる。しばらく起きないと思うわ・・・じゃ、行ってきます。」
 いつもの答えが返ってきて、お母さんは出て行った。
「いってらっしゃい。」
 お母さんは、出がけに私の頬にチュッとしてから出て行った。
 安物の香水の匂いがした。

 小学生の頃、お母さんはお父さんと離婚した。理由は今でも知らないし、知ろうとも思わない。
 最初レジとかスーパーで働いていたお母さんが水商売に行くようになってから、暮らしががらっと変わった。
 まずは帰宅時間。真夜中のお帰りが当たり前。朝帰りも直にザラになった。
 寝込んだお母さんを見てから、学校に行くのがいつものことになっていた。おかげで家事、炊事を覚えるようになった。(ご飯作るの、今でも苦手だけど)
 そして、新しいお父さん。最初はカッコいいし(お母さんより若いし)、お金の羽振りもよくて嬉しかったが、何かの事業に失敗したらしく、最近では家でゴロゴロしている。そして、お母さんからおこずかいをもらって、パチンコに行くか、居酒屋に行くのが日課らしい。もう私ともあんまり口をきかなくなっていた。(プロレスやボクシングの中継を見る以外)
 お母さんが出た後、2人分食事を作って1人で食べて、部屋に戻る。これが私の毎日だった。
 酔っ払って寝てしまった義父がちゃんと食べてくれたのか、それは朝になれば判ることなのだ。

 予習復習と宿題を終えて、やっと自分の時間になる。買っておいたプロレス雑誌を読み終えると、もう寝る時間だった。
 明かりを消して、ベッドに入ってみる。ふと虎太郎は何をしてるのかな、と思うと、もう寝れそうにもなくなってきた。
・・・虎太郎・・・
 身体が熱くなってきた。パジャマの上から触ると、びくんと震えてしまった。
 自分の指を虎太郎のそれに見立てて、胸を揉みしだく。
「あっ・・・」
 声が洩れた。もっと大きくなあれとばかりに揉んでいく。
「あっ、ああ!」
 下半身に伸びていた指が、股間を探る。お風呂に入ってきれいにしたのに、もう汗をかいてしまっていた。
 足の間が熱い。虎太郎を考えると、ひどく熱い。
 パジャマ越しの感触が私を興奮させるのだった。
・・・みさきちにデレデレしちゃってサ!バカ、バカ!!・・・
 でも虎太郎が私を撫でている。ゆっくりと撫でてくれている。
 昼間、コブラツイストを掛けた時の触れ合った素肌の感触を思い出す。
・・・虎太郎!虎太郎!!・・・もっと激しくしていいんだよ!・・・
「んっ、ん、ん、あう!」
 くちゅ、くちゅ、って身体の底から音がしていく。尚も掻き回していると、ドアがノックもなしに開いた。
 入ってきた人影が、躊躇することなくベッドに潜り込んでくる。
 無言のまま、パジャマのボタンを外していく。私は虎太郎にされている気がして、一切の抵抗をしないのだ。
「ちゅ・・・」
 少しだけお酒くさい息が胸に掛かる。私はその吸いつく感じと、ヒゲのジョリジョリ感に、
「ああ・・・」
 吐息を洩らしていた。されるがままの私をいいことに、侵入者が、乳首を舌で舐め回し始めた。嬲られるその感覚が気持ちいい。
「はっ、はっ・・・」
 今度は侵入者がパジャマのズボン部分を脱がしていった。そして直接パンツの上から、指を当てる。
 つ~っと大事な部分を覆う布を、人差し指が刺激する。私の洩らす吐息に調子に乗った侵入者は、いきなり指を下着の横から入れてきた。
「あっ!あっ!ああっ!」
 快感に思わず侵入者に抱きついてしまった。体内に入り込んだ指がウネウネと動き、私の粘膜をなぞるのだった。
 くちゅ、くちゅ、指の動きに音がする。
・・・ああ、虎太郎、気持ちいいよぉ!・・・
 濡れてしまった私は快感に翻弄されている。侵入者にぎゅっと抱きつき、腰を押し当てると、更に快感が増していた。
 侵入者が自分の服を脱いだ。そしてそのまま、汗だらけの身体を重ねてきた。
「ああ、だめ!!」
 ずぶ、ずぶ、とても自分の音とは思えないこんな音。侵入者のあれが私を貫いたのだ。
「あ、ああ、あ!」
 乳首を吸われるともうがまんできない。私は声を上げて、侵入者のもたらす快楽の虜だった。
・・・違う、侵入者じゃない、虎太郎、虎太郎!!・・・
 最初の頃は泣いて抵抗した。いや、いやって暴れた。
・・・でも、でも、もう・・・あ、ああ、もう、今は・・・
 気持ちいい。もっとして欲しい。この背徳の快楽がたまらない。
「この淫乱な小娘が!」
 侵入者の吐き捨てるような言葉に私は達した。
「う、ううっ、あ、ああっ!!」
 ずぶり、ずぶり、汗まみれになって、私と侵入者、いや虎太郎が絡む。
 侵入者の責めは、いつ果てることなく続くのかと思えてしまう。
 私は声を上げて哭き続け、自分から腰を振った。すると突然、侵入者は呻き声を上げて、私の中へ放っていた。
・・・虎太郎、いいよ、いく!・・・
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
 息を荒くして、侵入者の瞳を見ていると、私の中に入ったままのあれが、びくんと震えた。熱い脈動にまた感じてしまうのだった。
「ああ・・・」
 そのまま侵入者が動き出した。2回戦目の始まりである。
 固いままのあれは衰えを知らず、突きまくってくる。じんじん身体もまた、痺れていくのだ。
・・・すごい・・・ああ、私、私・・・
 強烈に送り込まれる腰の動きがたまらない。だらだらと私の大切なところがあふれているような気がした。執拗に掻き回される私、こんなことされたら、私、私。
「あ、いいっ!!いい!」
 またいった。自分の指だけではとても味わえない快感なのだ。更に責め続けられと、もう周りが見えなくなっていく。
 しがみついて、私は本当に虎太郎にされてる気がして、気持ちいい。
 まだ薄い胸を摘まれ、こねくり回されて、侵入者が私の乳房を荒々しく撫で上げる。こりこりになった乳首がはっきり尖っているのが自覚できてしまうくらい。
・・・切ない、でも、いい。気持ちいい。もっと、もっと!ああ、虎太郎!・・・
 侵入者が私を抱きかかえるように貫く。熱い感触、恥ずかしいくらい足を広げさせられて、ただ身体をこすり合わすのだ。ただひたすらに。真剣に。
 何かを忘れるかのように。今だけ。
 はしたなく、身体を震わせて、時には指を噛みながら。時には侵入者に抱きついて。
・・・だって、だって、あっ、いい、そこが、いいんだもんっ!!・・・
「あん、やだっ、だめ、あ、あっ、あ、いい!!」
 ぎゅ、ぎゅ、精一杯抱きついて、身体に刺さったままのあれの感触に酔わされる。
 くらくらしてる。パッと周りが白く染まる。
 やがて首に回していた手が外れ、私の身体が放物線を描いてベッドに沈み込んでいった。
「う、うう!」
 まだ身体の上で私を犯すのに懸命な侵入者の何やら低い呻き声だけが、こだまのように響いている。それもやがて終わりを告げ、ドス黒い欲望が私のお腹の上に注がれるのだった。
「うう!」
 熱いほとばしりを受けて私は喘いだ。ネバネバするその体液を手で拭い集めて、
「・・・お義父さん・・・」
 とだけ私は呟いた。

 ドアが開く音がして、侵入者は荒い息とともに足を引きずるようにして出ていった。

 闇の世界に取り残された私は、こうして朝まで浅い眠りにつくのだ。
 虎太郎の夢を見たいと思いながら、決して見れはしないのに。
 この迷宮のような悪夢の世界から出たい、といつも思いながらも、毎晩義父を迎え入れているというのに。
「虎太郎・・・」
 決して醒めない悪夢の世界に、私は、いる。

(了)

亭主後述・・・


く、暗いかな?う、救いがない・・・
でも、アニメでは急にいい雰囲気になってしまったし、おまけに珠代の親父も出ちゃったし。
あの片思い路線で行って欲しかったのになあ。ま、いいか。
友人から「AV女優」という文庫本を借りました。何故AV女優になったのか、その生い立ちは、というインタビューなのですが・・・
興味深かったです。裕福な家庭の娘もいれば、現代にこんな貧困があったのか、というくらい貧しい家の娘もいました。
そして大概、父母の離婚を経験していて、義父が娘に悪さするというお決まりのパターン。

今回はどうしても虎太郎と絡めるシーンが浮かばないので、そこから創ってみました。(爆)
あ、どうしてエリオル学園に通えるか、などというツッコミはなしですぜ・・・
では、感想をどうぞ・・・