褐色の肌がひどく熱く感じられるのは、僕の肌が冷たいせいだろうか。
背中に回した腕が、僕を強く抱きしめるのは、シャクティが愛してくれているからだろうか。
瞳が潤み、口から可愛い声が洩れてくるのは、シャクティが感じてくれているせいだろうか。
少女特有の薄い皮膚の下に、こんなに熱い泉があるなんて。
シャクティの口を吸い、舌を潜らせる。たちまち彼女の舌が僕を求め、絡ませてくる。
一つに繋がった僕達。何回も身体を合わせてきたけれど、全然飽きない。今が至福の時だった。
「私、私……」
口を離すと彼女が恥らうように言う。
「子供が欲しいの」
「うん……僕も欲しいよ」
「マーベットさんが羨ましいの……あっ、ああっ、あっ!」
褐色の肌をかすかに染めて、シャクティが喘いだ。
シャクティの真っ平な胸に唇を当てて、その小さな頂きを吸う。やがて、わななきが訪れ、身体を震わせる。
こんなに乳房は小さいけれど、可愛いくらいに反応してくれるシャクティが愛しいのだ。
「カルルに弟か妹を作ってあげたいよね、シャクティ?」
僕の問いにますます赤くなったシャクティが、こくんとうなづく。大きく開いた瞳が僕を見つめるのだが、それも長くは続かない。
腰を振れば、
「あっ、ああ、ああっ!」
と叫び、僕にしがみつくからだ。
農作業やお金を稼ぐために従事した労働のおかげで、僕はパイロット時代よりかはたくましくなってきてるだろうか。
それに前より、シャクティが感じるようになった気がする。もっとも、彼女自身も夜の営みに慣れているんだろう。
「ウッソ、私、私、私、ああ、ああんっ!!」
シャクティがぐっと僕に抱きついてきた。更に体温が高くなっていた。
もうそろそろ達してくれるんだろうと思った。
「あ、いく、いく……ああっ!!」
潮時だった。もうシャクティが高まっている。
「ウッソ、ウッソ、いいのよ、ああ、すごい、いいの、ああ~!!」
「ぼ、僕もいきそう」
「いいの、中に、ああ、あ、早く!!」
最近のシャクティは拒まない。むしろ逆だった。僕ががまんできずに放とうとすると、しがみついてくる。
だから、思いきりシャクティの中に出してやる。子供を産め、とばかりに、射精してやる。
「うう!」
「あっ、ああっ、ウッソを感じてるの、私、あっ!!」
褐色の足が僕を挟むように絡みつく。こうすると腰の動きが同調して、僕の方も思いきり深くシャクティの身体の奥に注げるし、気持ちいいのだ。
シャクティは目をつぶって、痙攣しながら射精を味わっているみたいだった。
「ああ、ああ……あ……」
最後の一滴までシャクティの中に出し終えると、僕はベッドの上に横になる。
身体を起こしたシャクティのピンク色の唇がそっとペニスを口に含み、吸引作業が始まるのだった。
僕が無理矢理強制した訳じゃない。シャクティが自分から、やってくれるようになったのだ。
とにかく、僕はシャクティの奉仕に身悶えながら、幸福を感じる毎日だった。
安らかな眠りについたシャクティのおでこにキスをして、明かりを消した僕は家の外に出た。
寒風にも負けず、ワッパのエンジンを回す。春はもうそこまできてるというのに、夜はまだ長く、そして寒い。
犬小屋のフランダースが顔を見せたが、寒さに震えてまた小屋に戻っていった。そっちの方が都合がよかった。
取れたての、まだ土のついたままの作物を三つの麻袋に入れて、肩に引っ掛けたまま夜の道を走る。
目的地はすぐそこだった。
「こんばんは!」
ノックをすると、ドアが開いた。
「いらっしゃい」
未亡人のレーナ・ワーカーさんである。背の高い彼女は、そっと屈み込んで僕の耳元で囁いた。
「ごめんなさいね。子供達、まだ起きてるの」
「あ、そうなんですか。仕方ないですね」
申し訳なさそうに、レーナさんは僕を抱きしめ、頬にちゅっとくちづけをくれた。
レーナさんのいい匂いと暖かさが、寒さに冷えた僕の身体にしみた。小さくなっていたペニスがむくと持ち上げたが、子供達が起きているなら、今日は残念、できそうもない。
「じゃあ、これ食べて下さい」
「いつもすまないわね」
「いいんです」
ワッパに乗ろうとすると、レーナさんの手が僕の手を握った。
「ウッソ君……またきてくれるわね?」
妙に切ない瞳だった。
僕はレーナさんを上から下まで眺め、その柔らかくも暖かい身体を想像する。子供を二人産んでいてもきれいな身体の線だ。
乳房は大きく、時々僕は埋もれそうになる。そしてそこは、死んでしまった母親にも似た匂いがする。
股間の泉はとっくにビショビショで、僕が入っていくのを今か今かと待っているのだ。突っ込んでしまえば、眉根をひそめて、声を子供達に聞こえないように押し殺して喘いでくれる。
熟した果実のような身体は、ご主人のマチス・ワーカーさんを殺したこの僕の腕の中で、息も絶え絶えにして泣き叫ぶ。
欲しいの、もっと欲しいの、そう叫ぶのだ。
僕は僕で、大きな乳房に必死になって吸い付いていく。そして心の中で言うのだ、甘えるのだ。
お母さん、と。
「ええ、またきます」
妄想とはおさらばして、僕は返事をする。
今度は背伸びをした僕からレーナさんの唇に自分のそれを重ねて、ワッパを走らせることにした。
レーナさんとこんな関係になってしまったことを、悔いる気持ちなどはない。残された家族への憐れみではない。
むしろ、これは天国のマチスさんに対する贖罪でもあったし、僕はこうやって僕なりにレーナさんを慰めているのだ。
その証拠に、あの時のレーナさんは嬉しそうに泣いている。シーツをギュッと掴んで、仰け反ったかと思うと僕の背中に爪を立て、肩を噛んでくるくらいだ。
それくらい激しい人だ。シャクティに気づかれないかとヒヤヒヤするほどだった。
林を抜けると、次の小屋が見えてきた。
レーナさんとのことを妄想していたおかげで、あんまり寒くはなかったが頬を軽く叩いてみて、いやらしい顔をしてるはずの自分を修正した。
「どなた?」
ノックをした途端、警戒したような声が聞こえた。
「僕です、ウッソです」
「あら!」
声が裏返って、緑のパジャマにピンクのカーディガンを羽織ったマーベットさんが出てきた。
「遅かったのね」
そのくせ、マーベットさんは怒ってはいない。
「すいません。ワーカー家に寄ってきたので」
さあ、早く入ってと僕を招き入れてドアを閉じた。
マーベットさんは暖かいシチューをご馳走してくれた。僕がはふはふと息を吹いて、熱いシチューを食べるのを、頬づえを突いて嬉しそうに見ていた。
「もう寝てるんですか?」
「ええ、とっくに」
ゆりかごの中の赤ん坊を見てから、マーベットさんは振り返った。その瞳はもう妖しく濡れている。
「ごちそう様でした」
舌鼓を打ちながら、ナプキンで口を拭いていると、食器を下げてからマーベットさんが後ろから抱きついてきた。
「ああ、ウッソ、待ってたの」
「まだ、まだ早いですよ!」
マーベットさんに首筋を吸われて、僕は悲鳴を上げた。しばらくそのまま、抱きしめられていると、不意に匂いを嗅いでいた彼女が顔を上げた。
「匂いがするわ、シャクティの」
どっきりした。
僕とシャクティの生活のことは、もうとっくに知られている。しかしこう改めてはっきり言われてしまうと、焦ってしまうものである。
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、僕……」
マーベットさんは僕の意見を遮って、
「いやらしい、えっちな子ね」
「う、う、そ、そんな」
泣きたくなった。
えっちな子という指摘はその通りなのだが、マーベットさんに嫌われてしまうのはどこか悲しい。
「シャクティを抱いてきたのね、ウッソ」
「あ、い、いえ、ちが、違いま」
「私の目が見れないのが、ウソをついているその証拠よ」
参った。マーベットさんにはすべてがお見透しだった。
僕には、顔を上げて、きっと阿修羅のような顔をしているはずのマーベットさんの顔を見れるほどの勇気はないのだ。
「ウソよ」
「へ?」
恐る恐る上目遣いで、マーベットさんの顔を盗み見る。
驚いたことにマーベットさんはにっこりと笑っていた。穏やかな笑みを浮かべていた。
「うふふ、ちょっとあなた達が仲がいいから、妬いてみただけ」
「悪い冗談はやめて下さいよ」
またマーベットさんは笑い、イスに座った僕を抱きしめた。
かなりの長身で巨乳の身体が熱い。鼓動がやけにドクンドクンと大きく伝わってきていた。
「しよう。したいの、あたし」
「マーベットさん」
僕は顔を上げ、微笑んだままのマーベットさんの唇を吸った。
たちまち熱い呼吸が乱れ、僕とマーベットさんの舌が絡み合う。激しい熱情が起こり、僕は立ち上がった。
目を開けると、屈み込むマーベットさんの身体の向こうにゆりかごが見えた。その中で寝ている赤ん坊と、父親である今は亡き、オリファーさんのことが思い出されたが、僕は彼女を抱きしめる腕に力を込めた。
「ああ」
マーベットさんが色っぽく喘いだ。
同時に僕は、むせかえるような女の匂いに、目が眩み、身体がゾクゾクするのを感じた。
背徳の蜜の味、レーナ・ワーカーさんには感じなかった罪の意識に僕は震えたのだ。
大きな身体を抱え込み、僕はマーベットさんを後ろから貫き続ける。
深く突き込むとマーベットさんは天を仰いで大きな声を出す。ゆっくりと腰を捻るように浅く突くと、吐き出すような低い声が聞こえてくる。
やがて黒い肌は弛緩し、ぐったりとなる。しかしそれもつかの間のことで、再び頭が持ち上がって天井を仰ぎ見るのだ。
その繰り返しの果て、やがて僕達は絶頂を迎え、僕はマーベットさんの中へ放ち、彼女はベッドに崩れて、埋もれていく。
「ああ……はあはあ」
振り絞った声の凄艶さ。汗ばんだ黒い肌の美しさ。僕もその上に圧し掛かり、すべてを忘却する時だった。
だが、目を覚ましてしまったらしい赤ん坊が泣き出すと、マーベットさんは一気に母の顔になってベッドを出ていってしまう。
情欲に燃える黒いヴィーナスも、母性を失うことはないのだった。
「よちよち、お腹が空いたんですね」
ゆりかごから赤ん坊を取り上げ、胸に抱くその姿に吸い寄せられるように、僕もふらふらと立ち上がった。
全裸のまま、片方の乳房を赤ん坊に含ませる母親の姿が美しかった。このまま、絵にでも描きたい、写真に残したいと思った。
「よちよち」
赤ん坊を見る視線の優しさ。僕には向けない慈愛の顔。
何だか腹が立った。赤ん坊が憎たらしく思えた。
「ウッソ、何するの?」
マーベットさんが近づいた僕をたしなめるように言ったが、構わずに空いたほうの乳房に顔を埋める。
「あ……よしなさい、ウッソ」
いやだ。やめてやるもんか。
口にいっぱい溜まった唾液で乳首を吸う。途端に口の中に母乳の味が広がり、それをこくこくと吸っていく。
「あっ、ああっ、ウッソ、ウッソッ!!」
赤ん坊を抱いたままのマーベットさんが叫ぶ。その顔は、早くも火照り出していた。
何にも知らない赤ん坊が、無邪気に乳を吸っていた。
マーベットさんを二回も抱いてしまったので、予定がかなり遅くなってしまった。
僕は独り、闇の深いカサレリアの道を、ワッパを走らせていく。ハロはシャクティとカルルのところに預けたままだったので、ワッパのライトをハイビームにして、走らねばならなかった。
ウォレンとスージィ、マサリク一家とクランスキー姉妹の住む小屋が見えた。
律儀にもウォレンは、寝る時はマサリク一家と一緒の小屋に戻るらしい。マルチナは、まだ彼の好意を受け入れてないようだった。
ウーイッグに向かう街道を一つ折れ、最後の目的地である小屋の前に僕はワッパを止めた。
粗末な小さい小屋。ここの利点は、大きな地下室があることだった。
鍵をあけ、地下室を隠している本のない書架をどけて、僕は入口の前に立つ。
「ウッソです、入ります」
返事はなかったが、僕は入口を開いた。
地下に向かう階段は冷え切っている。僕はガタガタ震えながら、カビくさい空気の漂う一番下まで降りた。
ここの鍵はまた別のやつだった。かじかむ手に息を吹き掛けながら、重々しい扉を開く。
「こ、こないで」
か細い声が聞こえた。
「寒かったでしょう、お腹が空いたでしょう。食べ物を持ってきました」
だんだん暗がりに目が慣れてきて、ローソクを乗せた燭台を見つけることができたので、火を灯す。
ぼんやりとオレンジの炎が揺らめき、ベッドの上でうずくまっていた美しい女性の姿を照らし出していた。
ウーイッグの令嬢、カテジナさんである。
数ヶ月前、ウーイッグの街に買い出しにいった時、僕は路地裏で、粗末な身なりの目の見えない女の人が、石畳に座って物乞いをしているのを見た。
まさか、と最初は気にもとめずに、ザンスカールのベスパの空襲の爪痕も生々しいウーイッグの街で買い物を続けた。
なかなか復興しないウーイッグではあったけれど、やはり大きな街のせいか、人や物は徐々に集まりつつあった。
帰り道、さっきの物乞いが気になって、路地裏を覗いてみた。汚いハンカチだけが地面に引いてあり、女の姿は見当たらない。
「?・・・!」
かすかに悲鳴が聞こえた。一つ一つ路地裏を探して、僕はとうとう物乞いの姿を見つけた。一軒の焼けて倒壊しかけた家の中で、さっきの女が男達の集団に暴行を受けていた。
それだけなら、戦争後の街でよくある光景なのかもしれなかった。
僕はその場を立ち去ろうとした。男達に勝てそうもなかったからだった。が、僕は物乞いを犯す男達の声を聞いて唖然とした。
「こいつはよう、ベスパだったんだぜ!」
「ベスパの将校の女に成り下がって、戦争したんだとさあ!」
「ああ、やめて! ひどいことしないで!!」
全裸の物乞いが叫ぶ。男達の間から時々見える肌だけが白く美しく見えた。
その時、次の一言に、僕は戦慄した。
「ルースんとこのお嬢様が、目も見えなくなって、物乞いか、ええ!」
「やめて! やめなさい!! ああっ!」
カテジナ・ルースだ、べスパの狂乱の戦士がそこにいるのだ。
「やめないか! 警察だ!!」
僕が声を装って外で騒ぐと、顔を見合わせた男達は一瞬にして逃げ出していった。
そして崩れ掛けの屋敷にはぐったりとなったカテジナさんと、近づくのをためらう僕だけが取り残されていた。
「……お巡りさんですか? ありがとうございます、助けて頂いて……」
消えてしまいそうな声だった。
衣服を破かれたカテジナさんが顔をこちらに向けた。
胸元まではっきり見えているし、足が丸見えなのに、カテジナさんは平気のようだ。平気といえば、エンジェル・ハイロゥの上で戦った僕の顔を見ても、何ともないらしい。
カテジナさん、と呼びかけて僕は気づいた。
瞳だ。真ん丸に見開かれた瞳に光がない、生気がない。
恐らく失明してるのだ。
僕は黙って外套をカテジナさんの身体に掛け、立ち上がるのを促した。
羽根のように軽い身体だった。何とか冬を越したものの、きっと満足に食べ物も食べていないのだ。
痩せこけた頬が、ほこりで汚されていた。ハンカチで拭ってやると、
「ありがとうございます、こんなに親切にして頂いて」
何も言えなかった。何か言ったら、涙が出てしまいそうだった。
「あの、どうして何も喋って下さらないのです?」
僕はカテジナさんをワッパのところに連れていき、彼女を乗せたところで、
「暖かいところで、食事でもしませんか?」
と、ようやく口を開いた。
だが、カテジナさんは小首を傾げて、
「いえ、あんまり親切にして頂いても、ご恩をお返しできません。どうか……」
「食べにいきましょう!」
カテジナさんの言葉を遮って、僕はワッパを走らせた。
「ありがとうございます」
運転しているのを僕と気づかず、カテジナさんは後ろからぎゅっと抱きついてきた。
愛しさが込み上げてきて、泣きそうになるのをぐっと堪えた。
カサレリアの不法居住者、いわゆる僕達のことだ、が住んでいるこの辺りには、幾つもの小屋が点在していた。
僕の家がそうだし、マーベットさんやウォレンとクランスキー姉妹、マーカーさん達の家もそうだった。リガ・ミリティアの基地も、ある意味ではそうだった。
その中で一軒、地下に広い部屋を持っている小屋があった。旧世紀の時代からあるらしく、古い文献だと「人種問題の最終解決研究所」の一つ、ということだった。
その後、「政治犯収容所」になり、宇宙世紀になってから打ち捨てられたようだった。
偶然見つけた僕はそれに興味があり、戦争が終わってから文献を読み始めたのだが、まず第一に徹底的な掃除が必要だった。幾星霜の間の埃、汚れを丹念に落とし、小屋自体を磨き、電気、上下水道の点検をした。
両親と別れてから、覚えていた、そして自分で学んだ技術が役に立った、というところである。
シャクティにもなぜか言ってない小屋の存在を思い出したのは、理由があった。
今更、生きていたカテジナさんを、仲間のところには連れていけない。ウォレン、スージィ、エリシャさん、そしてマーベットさん。
仲間を、カテジナさん、ウーィッグのお嬢さんのカテジナ・ルースではなく、ベスパのクロノクルの女であるカテジナ・ルースに殺された。血祭りに上げられたのだ。
僕が許せても、他のみんなが許してくれるかどうか疑問だった。
僕が許せる? 許せるのか、ウッソ・エヴィン?
刺されて、殺される寸前までいって、兄貴分やお姉さん達を死に追いやられて。
「ここ、使って下さい。誰も知りませんから」
「え、で、でも……恵んで頂く理由がありません」
僕が急いで作った食事を貪るようにして食べたカテジナさんは、どこか不安そうに言った。
「いいんです、お節介な僕の精一杯の好意です。明日またきます」
カテジナさんは、シャクティのところへ帰る僕に何度も頭を下げた。しかし、別れ際に、
「警察の方ではないのですね? お名前を教えて下さい」
僕は詰まってしまったが、
「ハンゲルグ、ハンゲルグです」
偽名を思わず名乗ってしまった。
「ハンゲルグさん、それではお休みなさい」
「ええ、鍵は掛けておいて下さい。お休みなさい」
その晩、僕はシャクティを抱いた。いつもより激しく責めた。
息も絶え絶えにシャクティは、
「ウッソ、どうしたの? 心が乱れてる、ああ、あっ、ああ!!」
いつもより大きな声で僕にしがみつくのだった。
その声でカルルが目覚め、庭の犬小屋からフランダースの吠える声が聞こえたが、僕はシャクティを抱き続けた。
抱きながら、僕は泣いた。
シャクティに隠しごとをしている後ろめたさで。
マーベットさん達に対する後ろめたさで。
死んでいったオデロさんや、コニーさん達に申し訳なくて。
V2の光の翼に弾け飛んだカテジナさんの変わり果てた姿が、悲しくって。
「ああっ、私、だめえっ!!」
シャクティが、また僕の腕の中で叫んだ。
マーベットさんの家、レーナ・ワーカーさんの家、そして最後にカテジナさんのところ、という夜の定期訪問をしているうちに、とうとう僕の正体がカテジナさんにばれてしまった。
ある晩、僕が鳥の卵と野菜を持って、地下室にいくと、カテジナさんが、
「あなた……ウッソでしょう?」
と、ポツリと言った。
僕は覚悟を決めて、
「ええ、ウッソです。ウッソ・エヴィンです」
「ハンゲルグ、って聞き覚えがあったわ。ウッソのお父さんじゃないの」
カテジナさんはイスの上で言った。
「父の名前です。あ、鳥の卵と野菜は、仲間のところで採れたものですから……」
「ウッソ……どうして私を助けたの?」
冷たい抑揚のない声で、カテジナさんが続けた。
「もうあなたは、ウーィッグのカテジナ・ルースさんです、ベスパじゃないんです! 戦争は終わったんです」
「私いくわ」
僕の話を最後まで聞かずにカテジナさんは立ち上がった。
「いくって、どこへです? もう真夜中近いんですよ!」
バン、カテジナさんは僕の手を振り切った。
卵と野菜を包んだ袋が、床に落ちていく。卵はきっと割れてしまっただろう。
「ウッソに施しを受けるくらいなら、物乞いをやってた方がましよ! 離して、ウッソ!!」
激しい感情を顔に浮かべ、カテジナさんが言う。
エンジェル・ハイロゥの上で戦った時の、カテジナさんの悪鬼のような形相が思い出された。
私の手の中で戦え! 勝った方を、全身全霊を込めて愛してあげるよ!
クロノクルは、私の巣だった……私はもうクロノクルのところにいくしかないのよ……
まやかすなあ!!
何かがプツンと切れた。僕の中で切れた。
「僕は、クロノクルに勝ったんです! カテジナさん、僕を愛してくれないなんて、おかしいですよお!!」
カテジナさんの顔が脅えた。光のない瞳にも、恐怖の色が浮かんだ。
僕がそんなにイヤ、なのか。
それなら、ウーィッグの街で盗み撮りをする僕を軽蔑していればよかったし、空を見上げて物思いに耽っていればよかったのだ。
ベスパに加わる、なんて、なんて、しなければよかったのだ!!
「カテジナ・ルース!!」
僕は、逃げようとするカテジナさんの腕を掴んで、懐からスタンガンを取り出した。
その気配に、
「や、やめて、ああ!!!」
腕に押し当てたスタンガンのスイッチを入れた途端、カテジナさんの身体が床に崩れていった。
その後、僕は作業に取り掛かる。
まずは衣服を脱がして、ベッドの上に寝かせる。
手錠と足錠。これは、この地下室の清掃をした時に見つけたもので、まだ使えそうだった。
それをカテジナさんにはめて、僕はカテジナさんに視線を注いだ。
美しい姿と肌。
ああ、鼻を近づけて、匂いをかいでみたい。
花のような、愛しいカテジナさん。
急にズボンの中が痛くなった。僕は勃起していたのだ。
しかも獰猛なくらい、勃起していた。シャクティ、マーベットさん、レーナ・ワーカーさんのところで出していたのに、大きくなったのである。
気絶しているカテジナさんを見ながら、ペニスを握りしめるのだ。股間にある淡い金色の陰毛を見ながら、クロノクルが吸ったであろう乳房とその頂きを見ながら、しごくのだ。
「カテジナさあん! カテジナさあん!!」
僕はすぐに高まり、熱い思いを宙に放っていた。
「こ、こないで、ウッソ!!」
脅えたカテジナさんが顔をすくませていた。
そんなカテジナさんは、僕のカテジナさんではなかった。
「遅くなってしまいました、すいません、カテジナさん。すぐに食事を作りますから、待ってて下さい。カブのいいのが、手に入ったんです。おいしいんですよね、クリーム煮にすると」
だけど、カテジナさんは首を振ったまま、返事をしてくれなかった。
調理場に立って用意をしながら、
「雪も溶けてきましたけど、まだまだ寒いんです。風邪引かないで下さいね、カテジナさん」
僕が喋るだけのワンマンショーが終わり、熱したシチュー皿をベッドに持っていく。
「熱いから、ヤケドしないで下さい、カテジナさん」
嫌がっていたカテジナさんも、空腹には勝てないみたいだ。
ふうふう息を吹いて食べていく。手錠と足錠をカチャカチャ鳴らしながら、食べていく。
それを見て、僕は笑った。本当のことを言えば悲しいのだが、僕は笑った。
そうすることしか僕にはできなかった。
食べ終えたシチュー皿を受け取った時、不意に身体を起こしたカテジナさんが、僕の肩に噛みついてきた。
「痛い! 痛いよ、カテジナさん!」
「私をここから出すんだよ、ウッソ、早く!」
ギリギリ噛まれて、気が遠くなってしまいそうだった。
さすが、カテジナさんだった。牙を折られても何をされても、不屈の闘志を秘めているのだ。
「まったく……」
ポケットから取り出したスタンガンの光が一閃、カテジナさんは倒れていった。
そして裸に剥いたカテジナさんの身体を、沸かしたお湯に浸したタオルで拭きながら、きれいにしていく。
その後、いきりたったペニスを鎮めるべく、僕は自分を慰める。
清い肌を見ながら、きれいな金髪を見ながら、カテジナさんと絡む自分を夢想しながら。
僕は、僕は。
「はあはあ、カテジナさあん! カテジナさあん、きれいですよ、カテジナさあんっ!!」
僕は、こうやってカテジナさんに全身全霊を込めて愛されている。僕の方も、全身全霊の愛でそれに応えていく。
「カテジナさあん、ああっ、カテジナさあん!!」
すぐに高まり、僕の思いは白い形となって現れる。雪のように、愛は形となって放たれていくのだ。
これが僕の、僕の愛し方である。
(了)
亭主後述・・・
見ましたよ、機動戦士Vガンダム!
いいねえ、富野監督のテイストがあふれてて。
犬死にオンパレードに興奮してしまいました。(笑)
さて、あのエンディング。素晴らしいですねえ、よかったですねえ、最高でした。
繰り返し、何回も見てしまいましたけど、一回目は判らなかったけど、カテジナさんはシャクティに気づいているんでしょうねえ? そうでしょう?
だって嗚咽がかすかに洩れているんですもの。
……という訳で、こんな話を妄想しました。
ダメですよ、好きな異性を監禁、手錠を掛けてしまったら。嫌われちゃいますよ~(笑)