下駄箱の中に何かが見えた。手に取って眺めてみると、それは可愛らしい薄ピンク色の封筒であった。
いつも通りの例の手紙だ、と思って、俺は中の便箋を読んだ。しばらく文面を読んだ後、ため息を思い切り吐きつつ、諦め半分で指定された場所へ向かった。
途中、詩織を見かけた。
「あれ、部活は?」
尋ねられて焦った俺は、
「あ、あ、あ、後でいくよ」
と言うと、学園一番の美少女はにっこりと笑った。
テニスラケットをかざして、
「じゃあ、後でね」
甘い声で言いつつ去っていくその姿は、その辺のグラビアアイドルなんかよりも全然ステキだった。
詩織の残り香を肺いっぱいに吸い込んでから、俺は歩き出した。
俺と詩織は、同じテニス部に所属している。だが二人の関係は、まだまだと言ったところか。
何回か一緒に出かけたけれど、つきあうというところにまで至っていない。詩織はデートに応じてくれるが、肝心なところで逃げてしまうということだ。
テニス部の部活が忙しすぎるのだ……いや、これは俺の言い訳なのだろう。
もちろん自分自身の詰めの甘さにも腹が立つが、もう一つ頭にくることがあった。
それは、あの胸糞の悪い伊集院家のクリスマスパーティーのことだ。伊集院自身のことではなく、詩織にやられてしまったのだ。
寄りによって、詩織は、
「紹介したい娘がいるの」
とか言い出したのだ。
紹介してくれたのは、栗色の長い髪の毛のおとなしそうな女の子だった。名前を美樹原愛といった。
自分で言うのも何だが、どうやら俺のことを気に入ってくれているらしい。それはいいのだが、初めての邂逅以来、こちらを見る視線の熱さに正直戸惑ってもいた。
そして、俺と美樹原さんは……
とにかく、詩織の気持ちが不可解であった。
と言うか女心と秋の空だろうか。俺は今、詩織は俺のこと好きじゃないのかなと不思議になり、悩む年頃でもあった。
そのくせ、現在向かう先は、体育館の用具置き場なのである。下駄箱に置いてあった手紙の指定先だ。
俺はいい加減な男である。
詩織に心惹かれつつも、膨らみつつある欲望に身を任せ、足取りは軽やかになっていた。
だから、用具置き場のドアを叩く時にも躊躇しないでいた。
「ど、どうぞ」
細く消え入りそうな声が返ってきた。
「入るよ」
「どうぞ」
同じ返事である。
「開けるよ……って、!!」
だが用具置き場の中に入った俺は、自分の目を疑った。
上は体操着、しかし下はスッポンポンになった美樹原さんが、マットに寝そべって大きく足を広げていたのだ。
それだけではない。
大きく開いた足の間には……美樹原さんの愛犬ムクがいた。
どうやって校内に連れ込んだのか知らないが、ムクは、入ってきた俺に目をやることもなく、一生懸命二つの足の間に舌を這わせている。息を荒げて、ただひたすらに舐めていた。
やがて俺は、犬好きな少女の足の間に置いてあった小さな銀の皿に気づいた。
その中には金色の小さな小片が……これはバターの使いかけだ。美樹原さんはバターを持ってきて、剥き出しの股間に塗ってそれをムクに舐めさせているのだ。
「は、早く閉めて下さい、誰かに見られちゃいますっ!」
「あ、ああ」
いけない、このままにして誰かが通りかかりでもすれば、美樹原さんの恥ずかしい姿が見られてしまうではないか。
急いで扉を閉めて、熱っぽくこちらを見つめる美樹原さんの姿を眺めた。
「ム、ムクに舐めてもらっているの?」
「は、はい……」
小さな声でうなづくものの、気持ちいいのか、美樹原さんは顔を歪めている。見る見るうちに、白い顔が快感と羞恥にほんのり赤く染まっていく。
「気持ちいいの?」
今度は返事がなく、美樹原さんは首を縦に振るだけだった。ただ、この俺から視線を逸らさなかった。
「ザラザラした舌が気持ちいいの?」
畳み掛けて聞くと、美樹原さんはうなづくだけ。だが、それでは許してやらないと決めていた俺は、
「俺がくるまで我慢できなかったんだ? ね、そうでしょ、そうなんでしょう?」
「は、はい。そうです……我慢できなかったんです……私、私」
「だから先に始めちゃったんだ。ムクなんかに舐めさせてさ」
ムクに視線をやった。太腿の間の「彼」は舌を伸ばし、目の前のご馳走であるバターの残滓を一生懸命になって舐め取っている。
おおよそムクには判らないことだろう。ご主人様が発情し、息を荒げて快感に喘いでいることなど。知るはずもないことだろう、奴には。
「あっ、ああっ、ムッ、ムクッ!!」
我慢できずに、とうとう美樹原さんが大きな声を上げた。よくその姿を見てやろうと近づくと、足元に何かが触れた。結構大きいバスケットだ。恐らく彼女は、これに入れてムクを学校内に運び入れたのだ。
「クゥーン、クゥーン」
呼ばれたムクは、情けない、しかし憐れな鳴き声を出し、尻尾を振り出してせっせと美樹原さんの求めに応じていく。
「ああっ、あんっ、あ、ああ!!」
俺の手を強い力で握って、
「すごい、すごいんですぅ、ムクのザラザラがぁ!」
実は美樹原さんの悪癖を知っていた。と言うか、初めてえっちした時に、彼女が自白(この場合は告白かもしれないが)したのである。退屈しのぎに、ムクとの悪さを覚えたのだそうだ。
真っ最中の告白に俺は戸惑い、驚き、焦った。しかし逆に興奮したのも事実だった。初めてのえっちは、それで燃え、興奮したことを覚えている。
美樹原さんの変態じみた(いや変態そのものだ)告白。バター犬を飼って、それに愛撫させるという告白。
「じゃあ、俺は美樹原さんに口でしてもらおうかな」
焦らず、しかし急いでズボンからいきりたったペニスを取り出す。近くでしゃがむと、喘ぎ続けていた美樹原さんは、それでも首を持ち上げてパクッと咥え込んだ。
「う、暖かい……」
濡れて湿った口内の感覚に、膝が震えて崩れそうになった。
「大きいです、すっごく大きくなってます」
嬉しそうな、そして楽しそうな声に、俺も釣られてしまうのだ。下から聞こえるうわずった悩ましい声に反応して、口蓋を突き破らんとばかりに腰を振る。
その度に不思議動物大好き少女は、
「う、うぐっ、うく」
「この、変態!!」
「はい、私、私、私は変態なんですっ!」
俺もついつい興奮していく一方なのである。
「そうだね、本当に変態だ……本当の変態だ……ほら、もっとちゃんと舐めて」
「は、はい」
いじらしいくらい従順。可憐ななりをしていても変態。好雄が知ったら、どんな顔をするだろうと思った。
夢中で舌を使い、ムクの奉仕に身体をピクピクと痙攣させる、震わせる。時々ペニスを含み、ぴちゃぴちゃミルクを舐める子犬のように先っぽだけを吸うのだ。
「あ、あむっ、はあっ!!」
目を向ければ、美樹原さんは、ムクに舐めさせるだけではなく、自分で股間をさすってもいた。伸ばした指で掻き回し、自分で自分をいじっり、慰めている。
激しい指の動きに合わせて、聞こえてくる濡れた粘膜の音。
「あ、俺いきそう」
いきなり俺は叫んだ。不意に、身体の奥から昂ぶってきた熱い何かに促されるように叫んだ。
それを聞いた美樹原さんが言う。
「あ、ああん、いいです、いいですよぉ、早くいって下さい、早く、早くぅ!!」
急かされた。
「出してやる、口の中に出してやるからな!」
「あん、はい、はいっ、お願いします!!」
美樹原さんは乱れた声で懇願してきた。その声を聞いた途端、目の前に星が輝き、瞬いて、火花が散った。
「あ、いく」
「ん、あ、あ、ああ!!」
迷うことなく、不思議動物大好き少女の小さな口の中に注ぎ込む。ミルクをせがむ子犬のように、彼女は咽喉を鳴らして俺のを飲んだ。
ヒクヒク美樹原さんは痙攣している。ムクの舌と自分をで指遊びをしながら、同時に絶頂を迎えてしまったらしいのだ。
「ん、ん、んむ……」
「ああ、き、気持ちいい」
まだ温かい口に含まれる余韻に耽ったまま、俺が呟くと、
「クーン、クーン」
視線を下ろすとムクが情けなさそうに鳴いた。奴の口元は、バターの残りとご主人様の愛液で濡れていた。目が合うと、一度俺を睨んで、ウウと吼えた。
そしてすぐにご主人様の弛緩する身体を舐め出した。
どうしてか判らないが、俺はムクに(犬ごときにだ!)優越感を感じた。その犬に対する優越感は、ペニスを懸命にしゃぶり続ける美樹原さんの髪を優しく撫でさせるのだった。
「あ、あん、やん」
運動部用更衣室のシャワーから出てきたばかりの美樹原さんを抱き寄せると、体操着にブルマの彼女は嬉しそうな声を出した。
「やだ、そんなとこの匂いを嗅がないで下さい」
脇の下に鼻を持っていくと、恥ずかしそうな声が聞こえた。もちろんそこには汗の匂いなどはなく、ただコロンの香りがするだけだ。
それで充分だ、俺を再びその気にさせるには、それだけで充分なのだ。
まだ肉づきの薄い少女の、しかしやっぱり確かに膨らんでいる胸をまさぐる。柔らかく手に吸いつくような感触と、
「や、やぁん……あん、ああん」
という甘い声に、たちまち俺は催していくばかりだ。
美樹原さんが欲しい。
さっきはただ口でしてもらっただけだ。しかも、彼女の自慰行為の合間にしてもらっただけにすぎない。
キスをしながら、すばやく体操着の中に指を潜り込ませた。小さな頂きが固く尖って自己主張をしているのが、指に引っかかる。
「わぁ、美樹原さん……すごい、すごいや。こりこりって、ほら」
「恥ずかしい、恥ずかしいです」
「俺のも触ってみて」
「あ、あ、また……こんなに」
「美樹原さんこそ、こんなにさ」
「言わないで下さい」
恥ずかしそうな声ではあったが、足を少し広げて指の侵入の手助けをしてくれる。
「ほら」
「あ、あ、ああん!」
「ね?」
「あ、もう立ってられないですっ!」
「ね、欲しいでしょ?」
ここぞとばかりに意地悪に聞いてみる。
「え? あ、あんっ!」
体内に入った中指を掻き回し、親指でクリトリスを押す。途端に犬好き変態美少女が喚き出した。
「あっ! ああっ!! も、もう、は、早くぅ、欲しいですっ!!」
中指が愛液の洪水で溺れそうになった。この調子でいけば、まもなくふやけてしまうだろう。
「こんなにすぐ濡れちゃうんだったら、シャワー浴びる意味ないね?」
「そ、そんなことありません……ああっ!!」
折り曲げた第一間接だけでテニスラケットのガットを弾くようにする。その速さが愛撫の鍵なのだ。
「ああ、ああっ、やあっ、やあっ!!」
犬ごときに負けるもんか、と思った。どうしてそんなことを思ったのかは判らない。
嫉妬しているのかな、俺。ムクなんかにヤキモチ焼いてるのかな?
「は、早く下さい、お願いです」
ブルマだけ脱いで、でも片足に引っ掛かったままで懇願する美樹原さんの要望に応えてやる。即ち、可愛らしいお尻を持ち上げての挿入だった。
興奮しきったペニスが腹にくっついているのを苦心してなだめて、ゆっくりと美樹腹さんの中に入っていく。
「あ、あ、あ、あっ!」
奥深く中まで到達して、静かに律動を開始する。たちまち甘い声と悲鳴が入り混じって、
「あ、あん、ああ!」
という押し殺した歓喜の声。遂には殺し切れなくなって、高い声を上げ始めた。
中の襞が絡みつく感じ。それらは一斉に押し寄せて、俺を攻め立てて、苛むのだ。
少しペースを落として、また変化させる。そうでもしないと持ちそうにない、と思った。ほのかに背中に浮かんだ汗を吸い、かぐわしい体臭を吸うと、ますます我慢しにくくなっていくばかりだった。
一度出したっていうのに、これじゃまるで俺は根性なしの早漏だ。
「あっ、いい、いいのぉ! そこ、感じるのっ!!」
跳び箱に身体を支えてもらって思い切り叫び、時には理性を取り戻して、恥ずかしくなったらしく顔を台に埋めて。そしてまた顔を上げて一哭き、一吠え。
一刻も早く射精したいのをどうにか堪えて、今度はマットの上に美樹原さんを押し倒す。
抱きつこうとする手を制して、自分の膝を持たせた体位で、俺は一気に突入した。膝のバネを使って、何度も何度もピストンをするのだ。
「あっ、あっ、あっ!!」
短く断続的に悶える声が響き、やや大きいと思った。
「や、やあっ、あっ、あっ!!」
快感に歪む顔が可愛い、と思った。
可愛い?
美樹原さんが?
可愛いのか、俺?
脳裏で反復する刹那、俺も限界がきた。
いつも美樹原さんを所詮詩織の代用品だと思っていたのに、いや思っていたはずなのに、いつのまにか彼女を好きになっている自分に気づいた。
瞬間、耳元で、
「一緒にいこう」
と囁いて口を吸った後、真っ赤な顔の変態犬好き少女もコクとうなづいた。
「あ、いく、いきますっ、あ、あんっ!!」
「俺も、いき、うう」
美樹原さんの腹を汚すことになった。
運動に疲れ果てて美樹原さんの隣に倒れこむ。
「あの」
「ん?」
「気持ち、よかったです」
はにかみながら美樹原さんは言った。
「そう。それはよかった、あはは」
笑った後、俺は激しい痛みに泣くことになった。
なぜなら尻を噛まれたからである。
噛んだ相手は言うまでもなくムクだ。奴は低く唸りながら、もう一度噛もうとする機会を窺っているようだった。
「イ、イテテ」
「こら、ムク!」
美樹原さんに叱られればキャンと尻尾を垂らして殊勝にはなるものの、俺を見れば吠えようとする。
「ムク、謝りなさい!!」
「もういいよ、美樹原さん……」
「よくありません、こういうのは飼い主のしつけの問題ですから」
「イテテ」
「あ、大丈夫ですか?」
傷口を見てもらうと、美樹原さんはプッと吹き出した。
「何がおかしいの?」
「あ、ごめんなさい……歯型が残ってるから」
「え~」
「大丈夫です、狂犬病の予防注射は打ってますから」
いやそういう問題ではない。
傷口がしくしくと痛み出し、俺は本当に泣きたくなった。
(了)
亭主後述・・・
大分お待たせしました、みるとんさんの190万ヒットキリ番リクです。何と昨年11月末のことです。
本当に遅くなってすいません。お題は「美樹原さんを幸せに」だそうです。
なってますか!? なってるでしょう?(笑)
どうしても外せないのがムクなんです。絡めたかったのでこうなってしまいました。
また機会があれば、次はそろそろ紐尾閣下ですかね?(爆)