良薬口に苦し ~To Heart~

 身についてしまった習慣は、なかなかやめることが難しいと思う。

 それが甘い快楽を伴っていれば、尚更のこと。甘い甘い、背徳の快感。

 

 現に私は、机から離れることができない。机の角に股間を押し当てて、何度もこすりつけている。必死に声を洩らすまいと制服のスカーフを噛んでいる。

 どうしようもなくみっともない姿だ。恥ずかしい姿だ。

 時折、近くに聞こえる人の声にビクビク震えながら、でもやめられない秘密の行為。

「あっ、あっ、ああ……ふ、藤田さんっ」

 とうとう名前を呼んでしまった。私が股間を押し当てている机の持ち主の名前を。

「あん、ああん、ご、ごめんなさい」

 快感に酔いながら、藤田さんに謝る私。

 

 だって。だって。だって、いけないことしてるって判ってる。

 でも、やめられない、やめられない、やめられないんだもの、私。

 ごめんなさい、藤田さん、ごめんなさい、ああん。

 

 こうして、あそこを押しつけて、押し当てて、腰を振るの。

 藤田さんの机の角で。こうやって、こうやって、あん。

 

 机に書かれたいたずら書き(恐らくは神岸先輩と長岡先輩の似顔絵だろう)を見ながら。

 私を助けてくれた藤田さんを想いながら、慕いながら、ずっと考えながら。

 私は自分を慰める。

 ぐっしょり机の角と自分を濡らしながら、慰めて、高まっていくの。

 ああ、本当に、気持ち、いい……

 

「あ、いく、いきそうです、藤田さん……」

 一生懸命、スカーフを噛んで声が出ないようにする。でも一回じゃ、正直物足りない。高まったついでに、更に腰を振る。だって、もっと気持ちよくなりたい。

 制服の上から乳房を揉んで、固くなった乳首に指を絡めて、もっとこする。

 頭の中では、藤田さんにえっちなことをされる姿を想像していた。そうすれば、ほら、もう一回、

「またいっちゃう、ああ、いっちゃいそう……ああっ!」

 びくん、びくんって身体が痙攣した。弾みで後ろに仰け反りそうになる。

 荒々しい息遣いの後、目を開けて机の角を眺めてみた。

「やだっ、こんなに濡れてる」

 いそいそと私はハンカチでそれを拭こうとしたが、でも粘っこい私の痕跡は、なかなか取れないでいた。

 顔はきっと真っ赤になっているだろう。恥ずかしくて堪らない。

 でも、この悪戯をやめることなどできはしないのだ。

 

 藤田さんが、藤田先輩が好きだから。

……大好きです、藤田さん……

 

 何てはしたなくって、いやな女の子だろうと思った。えっちなことばっかりで頭がいっぱい。最低なんだろう思った。

「!」

 ふと階段で立ち止まった。

 あの、予感がしたのだ。私を襲うあの予感。

 不吉な予感。

 急にキーンという耳鳴りがして、視界が悪くなる。悪くなるというか、真っ白な世界がやってくる。

 そして身体が震えてうずくまる。他の人には貧血の症状と思えるだろう。でも、違う、違うの。

 能力。不可思議な能力が、私の中で集まって、暴走しようとしてる。

「助けて、藤田さん」

 

 助けて、助けて、助けて。

 このままだと、私、また突っ走ってしまう。

 最近、やっとこれとうまくつきあえるようになってきたっていうのに。

 

「助……けて」

 じっとりと身体にまとわりつく、悪い汗が気持ち悪い。

 呪文のように唱えた。私を救ってくれる人の名前を、何回も繰り返した。

「藤田さん……藤田さん……私を、助けて、藤田さん」

 このままだと私の能力は、私自身の意志と反して爆発しちゃう、みんなに迷惑を掛けてしまう。

 

 その時だった。肩にぽんと手が置かれた。

 見上げる私の視界に入ったのは、心配そうな顔の藤田さんだった。

「だ、大丈夫かい、琴音ちゃん?」

「ふ、藤田さんっ!」

 その胸の中に私は飛び込んだ。

「だ、大丈夫?」

 慌てる藤田さんの暖かい温もりに包まれて、私はひどく幸せだった。

 だんだんと耳鳴りが小さく、そして消えていく。冷汗も引いていくみたいだった。

 もう大丈夫、能力の暴走は止まったはず。でも黙って私は、藤田さんに抱かれておとなしくしていた。

 

 しばらくして目を開けると、相変わらず心配そうな藤田さんが、私を覗き込んでいる。

「琴音ちゃん?」

「……」

「返事してよ、暴走は止まったのかい?」

 ハイとうなづいたが、声は出せなかった。違うことを考えているからだ。

 そう、違うことを。

「ふ、藤田さん?」

 ようやく声を出すことができた。

「ん?」

「おクスリを」

 勇気を出して声を振り絞ってみた。

「ん? クスリ?」

「ハイ、おクスリを下さい」

 たちまち藤田さんの顔が赤くなっていくのが判った。

 一言、

「ん、判った」

 と言ってくれた。

 

「本当に大丈夫かな」

「だ、だ、大丈夫です……ん」

 そうかなと呟いて、それでも藤田さんは、スカートの中に入れていた手で下着を私の膝まで下ろした。

 協力してあげる私も踏ん張って、校舎の壁に手をついて、お尻を軽く浮かせてみた。

「わぁ、濡れてる」

 観察するような声が恥ずかしい。

「あんまり言わないで下さい……あんっ」

 鼻が触れたのだ。クンクンとまるで犬みたいに、藤田さんは私の中心を吸った。

「ん……すごい濡れてる。ひょっとして」

「ひょっとして、何です?」

 妙に胸がドキドキした。

「自分で、してた?」

 言わずもがなのことである。恥ずかしい、でも正直に接したい、誠実にいたいと思って、私はハイと返事をした。

「ハイ……しました」

 そっか、と一回私の中心にキスをしてから、藤田さんは立ち上がった。

 ああ、くる、藤田さんがくる、と思うと、胸が痛くなるくらいになる。私は藤田さんを欲していた。本当に欲していた。

 外でするというスリルもそれに拍車を掛けているようだった。こんなに恥ずかしいことを外でする、されるのが堪らないのだ。

 時折聞こえるサッカー部や野球部の練習の声。はしゃぐ学生達の声。

 でも、私はどうしようもなく淫らな期待に胸を振わせ、ときめかせている。喘いでいる。

 どうなってもいい、もうどうなってもいいのだ。

「藤田さんっ!」

「ん?」

「は、早くっ!!」

「早く、何?」

「……」

 言えないで黙ってしまった。

「琴音ちゃん、我慢できないんだね」

「……あ」

 固くなった藤田さんが当たったのだ。そのままきてくれると思ったら、私の期待は外れた。

 単に当てられただけ。焦らされているだけ。私の足の間に藤田さんは挟まれている。

「琴音ちゃん、もう少し辛抱してね」

「え?」

「ちょっと足を閉じてみて」

「えっと、こうですか?」

「そう、そんな感じ」

「よいしょ、んしょ」

 太腿の間に入った藤田さんが熱く、そして固く、太い。その感触に、ああというため息を吐く間もなく、やがて掴まれた腰を揺さぶられると、私は刺激されてしまう。

「へ、変な感じ……です、あっ、あっ」

「入ってないのに気持ちいいでしょ……うわ、琴音ちゃん、びしょびしょ」

「恥ずかしいから言わないで下さい……あん、あぁん」

 本当に変な感じだ。私の中に入ってきてる訳ではないのに、こすれて気持ちいい、よくなってしまう。

 腿を締めれば締めるほど、私に当たる。壁に対して踏ん張れば踏ん張るほど、快感が増していく。

 もう学生達の声も運動部の練習の声も聞こえない。

 ただ、身体に流れる脈の音と私の洩らす声、そして、苦しい訳もないのに苦しそうに聞こえる藤田さんのうなり声。

「あっ、あっ、あっ」

「もっと足を閉じて……腰を低くして、そう、そんな感じ」

 藤田さんは、モデルにポーズの指示をする画家のようだった。言われた通りにすると気持ちいい。どうしてこんなに知ってるんだろうと思った。

「あんっ、あっ」

「腿に濡れて下に伝わってるよ、琴音ちゃんがこんなにぐしょぐしょになるなんて」

「いや、いやっ」

 首を振って辱しめの言葉から逃げながらも、壁に踏ん張って腰を揺する私。

 ふと下を見ると、私の太腿の間から、藤田さんの先っぽが出たり隠れたりしてる。すごい、すごい、すごい、いやらしいの。

「言わないで下さい、言わないで、藤田さん」

「琴音ちゃん、こっち向いて」

 首を振り向けようとした途端、引き寄せられた。

 そしてキス。唇を奪われて、舌が入ってきて、私は吸われてしまった。

「ん、ん、くう、うう」

 必死になって吸い返した。唾がいっぱい溜まったお互いの舌を絡めて、吸い合った。

 舌には感じるところがあるのだろうか、それだけで私、このままいってしまう、ああ、いってしまいそう。

「ん、ん、ああ、ああっ!」

 再び壁に身体を預けさせられたかと思うと、左足がつってしまいになるくらい持ち上げられた。

「ふにふにだね」

「そ、そうですか? 恥ずかしいです」

 藤田さんは、しばらく私の腿の感触をしばらく楽しんだでから、

「琴音ちゃん、食べていい?」

「……ど、どうぞ」

「じゃ、遠慮なく」

「あ、あっ!!」

 藤田さんがやっときてくれた。

 壁に押しつけた私を押し開き、奥まで入ってきた。奥まで、奥まで、私の身体の底まで。

「あっ、あっ、あっ!!」

「気持ちいい?」

「は、はい、とってもいいです」

 くちゅくちゅと音がする。二人がくっついた箇所から、聞こえるそんな音。

 

 胸もいっぱい揉まれて、全身で藤田さんを感じて、また濡れて。

 ヒンヤリして顔に当たる壁の冷たい感じが、心地いいの。燃える身体を、下半身がうずく感じがいい。

 このまま感じさせて欲しい。

 

 耳鳴り、頭痛はもうどっかに去ってしまっていた。

 あれほど喋るのが好きで、私を焦らすのが好きだった藤田さんは黙っている。恐いくらいに寡黙だった。

 その分、私は後ろから貫かれ続けた。

「あっ、ああっ、あ、あん!!」

 悶え、喘ぎ、吠える。

 誰に聞かれようとも、見られようとも構わない。

 

 このまま、このまま、このまま、ああ、もっと、私を、藤田さん!!

 

「あ、いくう、いくう!!」

「う、琴音ちゃん、俺」

「きてっ、藤田さん、きてえ!!」

 ガンと一突き、私のお尻を深くして、藤田さんは離れた。

 壁に当たった私の顔に、藤田さんが押し当てられた。ぬるりとした生温かい感触は、二人の体液の混じったものだろう。

「おクスリを、下さい」

 藤田さんを口に含む。大きく膨れ上がった藤田さん。

 

 愛しい。

 愛しいです、藤田さん。こんなに大きくなって、本当に嬉しいです。

 

 咽喉いっぱいに迎え入れて、首を振る。手で周りを揉むのも忘れない。果たして藤田さんが膝を痙攣させて、ぶるぶる震わせて、私の頭を掴むのだった。

「ああ、出るよ」

「ん、んん、あい、あ!」

 大きな叫び声とともに、藤田さんが私の口に注いだ。貪るように私はそれを吸った。吸い続けた。

 やがて、放ち終えた藤田さんがため息を吐く。

 幸福感、ものすごい幸福感が口の中にあふれている。いっぱい、いっぱい、どろりと口の中にある。量が恐ろしいほど多くて。

 ちょっぴり苦く、でもそれが幸せ。目を閉じてそれを流し込み、また目の前の藤田さんを口にする。

「くすぐったいけど気持ち、いい」

 最後の最後まで残った藤田さんのクスリを私は飲んで、味わった。

「苦いです」

「良薬口に苦し、ってね」

「はい」

「どう? もうアレはどっかにいった?」

 心配そうな顔に戻る藤田さん。

「はい、おクスリのおかげで大丈夫です」

 私は微笑んだ。

 そして、もう一度藤田さんを含んだ。

「うう」

 呻く藤田さんが愛しくて、可愛くて、大好きで。

 再び固くなっていくのを感じながら、私はまた濡れているようだった。

 

(了)

 

琴音ちゃんって可愛いですよね。

PSのヴォイスもいじらしくて、可愛くて、切なくていい。

だからこそいじめたくなります。(笑)

で、ことわざの「良薬口に苦し」。本当に先人はいいことを言ったものです。(爆)