廊下の向こうから、ねえ、お金が欲しくないの、という囁き声が聞こえた。
お金は誰でも欲しいものである。
金持ちならいざ知らず、それ以外の者なら誰だって欲しい。わたしだって欲しい。分けて欲しいくらいだ。
まして楽に稼げるからとかお小遣い欲しいでしょ、なんて追い打ちが掛けられれば尚更のこと。
「ええ、でも……」
なんて小さくも消え入りそうな声が否定的な意見を述べるに当たっては、天からわたしに権利が与えられたと思っていいだろう。
と言うか、いくしかない。いくしかないのだ。わたしは輝きたい。
ひなびた湯の鷺温泉にいる限り、お金の使い道なんてそうそうないのだが、あっても困ることはないものだ。
それにいつか東京に戻ることもあるかもしれない。そしたら考ちゃんと……
「その話、乗った!!」
廊下に飛び出ると、そこにはギョッとした顔の巴姉さんとなこちがいた。
「本当は、緒花ちゃんには向かないと思うんだけどねえ」
夜の淡い月光に照らされた巴姉さんがため息混じりに言った。薄い化粧に一筋のルージュが艶めかしく、いつもの明るい雰囲気とは違うようだった。
「そんなことないです、当たって砕けろって言うじゃないですか!」
「シーッ、女将さんに言ったら、半殺しだからね」
怖い顔の巴姉さんに、わたしは慌てて手で自分の口を塞いだ。
「ま、東京の女子高生だったんだから、怖いものなんかないか。アハハ。にしてもそのチャイナドレス、スリットを入れたね。よく似合ってる」
誉められて悪い気はしなかった。
「えへへ、巴姉さんこそ、その制服、バッチリですよ」
月光の下でなら、と余計なことは言ったりしないのだ。
「私達の時は、こんなにスカートの丈が長くなかったなぁ……風が吹いたら見えちゃうかも」
巴姉さんの女子高生スタイルはわたしがプロデュースしたのだ、かなりの自信作である。
「はは、少し短すぎますかね」
「座ったら中が見えちゃうかもね。まあ、それくらいの方が喜ばれるんだけど……にしても」
「にしても」
わたしと巴姉さんは同時に声を出し、後ろを振り返った。
「そのおっぱい、目障りなんだけど」
今度は声がシンクロした。
「そ、そんなに言わないで下さい」
紫のドレスの胸のところがパックリ割れていて、隠しきれない大きな乳房の谷間が露わである。腰はきゅっと締まっていて、わたしよりも遥かにスタイルがいいなこちが恥ずかしそうな声で言う。
「……ったくホルスタインじゃないんだから」
「ひどい!」
「あ、なこちが泣いた」
「泣いてません」
「ほれほれ、あんた達仕事、仕事」
トウのたった何ちゃって女子高生と気弱な巨乳ホルスタイン、そして怖いものなしチャイナドレスのお笑い3人組のデビュー戦である。
ぎゅっと唇を噛んで、時折笑い声が聞こえてくる喜翆荘の離れを見上げた。
所謂、野球拳というものを初めて目撃した。
巴姉さんは、じゃんけんに弱いのかそれともワザと負けるのか、せっかくわたしがプロデュースしてあげたセーラー服をどんどん脱いでいくのだった。
ルーズソックスを脱ぐ仕草にお酒の入ったお客達は、大きな歓声を上げて喜んでいる。
お酒と言えば、この5人組の中年男性のお客達が空けたビール瓶の数は凄まじいものがあった。20本数えて面倒になってやめた頃、不意に野球拳が始まったのだ。
わたしもなこちも目を丸くして、巴姉さんとお客さんを見るだけである。
お酌するのも忘れて、
「いや~ん、お客さん、じゃんけん、強~い」
とか、
「また負けちゃった」
とか言ってセーラーのスカーフを脱ぎ捨てる色っぽい巴姉さんを見ていると、普段のおしゃべりな彼女の姿は想像できなかった。
不意に、頭の禿げたお客さんの手がわたしの腿を撫でた。びっくりして、
「きゃ」
と叫ぶと、大分お酒の入ったお客さんはにやりといやらしい笑いを浮かべて、
「君可愛いね~きれいな肌して、真っ白じゃないか」
「あ、あ、そうですか、ありがとうございます」
そうなのだ、密かにお肌には自信があるのだ。ましてわたしは若く、毎晩、温泉に浸かってもいる。
お愛想でも嬉しくてお酌をしてあげた。その途中、再び、ごつい手がチャイナドレスの中に伸びてくる。びくん、と身体が震えた。
「ちょ、ちょっとお客さん」
「若い娘はいいねえ」
わたしの抗議など聞いちゃいない。それどころか、なこちを見て、
「あっちの子はおっぱいが大きそうだ」
それを聞いてカチンときた。
ちなみに、なこちは紫のドレスの谷間に顔を埋められていて、さぞかし困っていると思ったら、意外にもとろんとした顔をしてた。
まんざら嫌そうではないのだった。しかも腹立つことに、なこちは千円札を数枚握っていた。
負けちゃいられないと思って、
「おっぱいだけが、女のすべてじゃないんですよ」
と言って、身体をお客さんにぐいぐい押しつけてやった。
「柔らかいなぁ、きみは」
「あっ、あっ」
チャイナドレスの中の指が太腿の内側に触れたのだ。
「感じやすそうだねえ」
「あ、そこは」
お客さんを押し返そうとしたけど駄目だった。意外と逞しい感じの腕がわたしを捕まえて離さなかった。
そしていきなりお酒の匂いが強くなったかと思うと、キスをされてしまったのだ。
アルコールの嫌な匂い、母がいつもさせていたお酒の匂い、お客さんの体臭、その他いろんな気持ちが合さって、わたしはくらっと崩れそうになった。
「ん、ん、ん」
お客さんの舌がわたしの口の中を舐め回している。ヌラヌラして気持ち悪いはずなのに嫌じゃない。
むしろ……心地いい。
初めて会ったおじさんに触られて、弄られて、身体が先に悦んでいるのだ、と思った。あの女と同じだ。
わたしの中に流れる母と同じ淫らな血がそうさせているのだ、とかすかに思った。
指がとうとう身体の中心に触れた。下着の上から2回、3回、撫でてくる。
「あん、ダメッ、ダメェ」
でもお客さんは離してくれなかった。逃げようとしても捕まえられたまま、わたしを逃がしてくれはしない。
膝の上で抱きすくめられたまま、突然荒々しく手が身体を探り出した。
「お客さん、それ以上は!」
しかしその後が続けられない。
あちこちを触られて身体の力が抜けたせいと、巴姉さんとなこちを見たからだった。
なこちは……ドレスの前から溢れ出た乳房をお客さんに吸われていた。小さな声であんあん言っていた。
巴姉さんは……セーラーの胸をはだけて上半身を露わにして座っている。そして2人のお客さんを両側に従えて、アレを交互に吸っていた!
不意にわたしを見て、一瞬ウインク。黙って流れに身を任せなさいというアイコンタクトなのだろうか。
ちゅぱ、ちゅぱ、いやらしい。本当にいやらしい。
でも、すごい。すごい、きれいな巴姉さん。泣きぼくろが色っぽくてきれい。
ピンク色の乳首をつんつんと尖らせて、夢中で口を使っている。2人の男の人も気持ちよさそうだ。
そうだ、なこちは?
なこちは男の人の浴衣を開いてアレを一生懸命に握っていた。そしてお客さんの胸を吸っている。
みんな、受身じゃない。むしろ能動的にお客さんを喜ばせている。一方のわたしはただお客さんに弄られているだけ?
そんなの嫌だ! わたしだってみんなに負けたくない!!
わたしだって、輝きたいもの。
お尻の下に当たる固いもの、きっとアレだ。わたしは浴衣の中に手を突っ込んで、アレに触ってみた。
固い、熱い、大きい!
「お、き、気持ちいい」
お客さんの賞賛が正直嬉しかった。
「も、もっと力入れて動かしてみて」
「は、はい」
お客さんがわたしで興奮してくれるのが心地いい。
「おじさんも頑張っちゃおうかなあ」
下着の中に手が入った。
ダメ、感じちゃうかもしれない、ううん、気持ちいいの、感じちゃう!
お客さんに身体の奥を探られてる感じ、指でツンツンされてる感じに、ため息が出る。そしてまた口を吸われちゃった。
じゅんってくるこの感じは、そう、ベッドの中で時々味わっている。みんちには悟られないよう声を押し殺して、布団を噛んで我慢するあの感じだ。
「うぉ、狭い、狭い。本当にきついわ」
驚嘆の声が聞こえてきて、恥ずかしさの余り、握っていたアレをしごいてやった。手の中でますますアレは硬度を増していく。
一方でお客さんの指が奥まで入り、動く動く。私の中を掻き回す。下着はとうとう降ろされてしまい、クリトリスにも触れられてしまった。
わたしは喘ぐのだった。眼も眩む快感に震えていた。正直、考ちゃんと比べたら上手。
「あ、ああっ、あ、そこ」
「わぁ、びしょびしょだ、この娘」
口と指だけじゃなく、言葉でも嬲られるわたし。何にも知らなかったわたし、こんなことされて、あんなことされて。
薄く眼を明ければ、巴姉さんもなこちもお客さん達に抱かれている。
セーラー服を半分脱いだ巴姉さんは、お客さんに跨って、自分から腰を振っていた。
なこちは後ろから貫かれていて、巨乳をゆっさゆっさ揺らしている。もう1人の男性がその唇にアレを突っ込んで腰を振っていた。
あれ、男性があと1人と思ったところで、不意に顔にもう1人の男の人のアレが近づいてきた。
「んっ、むぐっ、ん」
アレが濡れているのは誰の唾だろうか、などとそんなことは考えに耽る余裕はなく、わたしは2人を見習って唇を使ってみた。
先端部分だけを含み、舌先で舐め舐めしてみる。すぼめた唇で狭くした唇で刺激を加える。
あんまり経験のないわたしのフェラチオだが、お客さんの感想はどうだろうか。
見上げようとした瞬間、畳にひっくり返されていた。
「そろそろいい頃かな」
何がいい頃、と思う間もなく、足を大きく広げられていく。恥ずかしくなって膝を閉じようとしても、間に入ってきたお客さんの腰が邪魔してできなかった。
叫ぶこともできない、口の中にアレが入ってきたから。
急に怖くなってきたけど、柱にすがって、立ったまま、バックで攻められてるなこちの姿に視線が吸い寄せられていて、一瞬、自分の置かれた状況を忘れた。
揺れる、揺れる、なこちの乳が柔らかくも不規則な軌道を描いて……あっ!
人のことをどうこう言っている場合ではない。お客さんが入ってきたのだ、わたしの中へ。
「あっ、あっ、あっ」
わたしはしがみついていた。逞しい中年男性の身体に思い切りしがみついていた。足を絡めて思い切り抱きついて、あんあん、叫んでしまうのだった。
「若いだけあって、よく締めつけてくるなあ」
それでも口の中のアレが出ていったから、しばらくの間、お客さんの下で甘えることに没頭しちゃう。
そのうち、身体中が熱くなって、周りが真っ白になって、何も見えなくなった。
「あーっ!! あーっ!!」
わたしは叫んでいた。吼えていた。
「お、お客さん、そこっ、わたし、おかしく、おかしく、なっちゃう!!」
お客さんがわたしを激しく突く。突く、突かれるわたし。哭くわたし。
今まで知らなかった、こんなに気持ちいいSEX。
「いいんだよ、達してくれて」
そう言われて口を吸われて、舌を絡めた後、わたしは真っ白な世界の中で絶頂に達した。
「いくっ、いくぅ!」
その後はあんまり覚えていない。ただ気づいたら、今度は後ろからされていた。
さっきのお客さんとは違う、と思った。アレが違うと快感も違うんだ、と思っただけ。
なこちが目の前にいる。同じように後ろからされていて、眼を潤ませて、小さい声であんあん言っている。
「な、なこち、可愛い」
その声でなこちがわたしを見た。潤んだ瞳で見つめられると、思わず顔を近づけて、
「可愛い」
もう一度言った。
「ん、ん、んっ」
なこちに唇を奪われたのだ。2人とも男の人に抱かれているのに、舌で繋がっていた。
「お、気分出してるね」
お客さんが興奮したのか、2人とも身体が揺れ出した。わたしたちはキスを続けることに必死になる。
なこちの口は甘く、それでいて苦い味もした。既に男の人のエキスが口に出されたようだ。普通に、いや喜んで飲んだ彼女のことを想像すると、また頭がピンク色に染まってしまいそうだ。
「ほれほれ、みんな一緒になろう」
違う声がして、今度は巴姉さんが顔を突き出してきた。3人とも同じ格好でされているのだ。
「あ、あ、あ!」
「い、いい、ああっ」
わたしも、
「あ、いきそう、だめえっ!」
3人同時にいった。わたしは巴姉さんとキスをして、横から入ってくるなこちと一緒に唇を吸いながら、いった。わたし達は、暖かい男の人の精液を浴びて、またいった。
小休止をした後、8人で温泉に忍んだ。そこでまた延長戦を始まった。
お湯に浸かりながら、別のお客さんのアレをしゃぶっていると、身体中を他の人から触られてしまう。
もう何回達したのか判らないけど、乳房や股間を弄られていると、またジュンってなってしまうのだ。つくづく母の血が流れているという気がしたが、他の2人も同じようだった。
女ならみんなそうなのかもしれないな、と思ってしまう。
それでもチュパチュパ吸っていると、「出るよ」なんて声が聞こえて、頭を押えられて、精液を顔に浴びせられた。
「あ、あ、すごい量……」
呆れながら感心しながら大量の精液を受けるわたし。髪にも掛かってしまったが、後で洗えばいいのだ。大きいままのアレを口に含み、きれいにしてやった。
そうしている間にも、巴姉さんもなこちも立ちバックでされている。あんあん言ってむせび泣いている。
わたしも早く欲しいと思った。あれだけいかされても、されてしまっても、身体の奥がじんじん疼いてた。男の人の肌を、アレを欲している、と思った。
「ね、きて下さい」
わたしはアレを持ったまま、後ろを振り返って誘った。お尻を高くあげて、自分で自分を開いて、べっとり濡れているのを見せつけて、アレを欲しいとねだった。
そそり返ったアレをしごきながら、お客さんが近づいてくる。
わたしは今輝いている、と自分を濡らしながら、そう思った。
「ボツです。ボツに決まってます」
ぼそりと緒花は呟き、手にした原稿をいきなり引き裂こうとする。
「えっちです。えっち過ぎです、喜翠荘はこんなヘンタイ旅館じゃありません!」
私はせっかく書き上げた原稿をダメにされては困ると、奪い返そうとした。
「だからこれはフィクションだって、ちょっと、原稿なんだから、大切に」
だが青筋を立てて怒る少女は、抵抗し、私から逃げよう逃げようとする。ドジな子の割に運動神経がよく、ニブい私には捕まえきれない。
「みんちも出てこないし、こんなえっちなの、ダメェ!!」
窓側に立った緒花がそう叫ぶ。別にPC内にデータがあるから破られてもいいのだが、印刷や推敲、その他の手間を考えると失う訳にはいかない。
少女らしい潔癖感と言えばそれまでだが、東京の高校生ならこれくらい平気ではないのか、と疑問に思う。
それでもようやく捕まえたが、緒花は揉み合ううちに私の指を噛み、その反動で少女の手から原稿が空に浮いた。
運が悪いとはこのことか、原稿は綴じていないために、ひらひらと舞っていく。
「し、しまった」
階下を見下ろすと、間の悪いことに女将がそこにいるではないか!
「お、女将! 自分で拾いますから」
しかしもう遅かった。女将は一枚拾い上げると、チラと読むと、鬼の顔をして私を見上げるのだった。
「次郎丸先生、今からよろしいですか」
氷の如く、刃の如く、冷たい声が問いではなく、半ば強制的だった。
「は、はぃ」
私の声は小さく震えている。傍らでは、身を隠した緒花が小さくゴメンナサイをしていた。
(了)
亭主後述・・・
何となく見ていた「花咲くいろは」、丁寧な作風だと思っていました。
しかしよく考えると設定がエロいことに気づきました。女子高生が日本旅館の仲居さん?
これだけで充分なエロいです。緒花じゃないけど鼻血が出ちゃいそう。(笑)
後、次郎丸先生、頑張って下さいね!!