アクシズの夜、或いは棄てられた女の物語 ~機動戦士ガンダムZZ~


 今、一枚の写真が脳裏に浮んでいる。
 人工の湖水の前で、口元に笑みを浮かべた金髪でハンサムな男と、その脇に寄り添うようにしてつつましく恥じらいながらも、嬉しそうな少女・・・私だ。

 首を振って想いを振り払う。邪念は戦闘に禁物だ。まして私は今、じっと獲物が来るのを待っているのだ。
 だが一度亡霊のように甦った追憶は、私から離れようとはしないのだった・・・

 私は人の気配に耳を澄ました。
・・・いる?・・・誰かが部屋にいる・・・
 この感覚は決して間違ってはいない。自分とは違う他の誰かが、私の部屋に来ている。備えつけの時計を眺めると、針がもうアクシズ時間では夜中の2時を指していた。
 ブルッと身体が怖さで震えた。今夜に限って、護身用の拳銃が遠かった。
・・・だが、侵入者の気配には、殺意や危害を加えようとする剣呑なものがなかった。むしろ、私を暖かくしてくれる何か、が感じ取れた。
「・・・誰か?そこにいるのは誰か?」
 精一杯の勇気を振り絞って、物言わぬ闇に問う。
「・・・これは、驚かして申訳ない・・・私です。シャア・アズナブルです。」
 遥か遠くの彼方から聞こえて来るような声。私はほっとため息を吐いた。まぎれもなく大佐の声だった。身体を起こしてベッドサイドの薄暗い明かりを点けると、ドアに寄りかかったままの大佐がこちらを見ていた。
 私は急に恥ずかしくなった。大佐にパジャマ姿を見られているのも理由の一つだが、真夜中にこうして2人っきりでいるのが、どうしようもなく息が詰まりそうだったのだ。
「・・・どうかされて、大佐?」
 沈黙に耐えかねて私は大佐に問う。腕組みを解いた大佐がゆっくりと私の側にやってきた。ほのかにアルコールの匂いがしているようだった。
「・・・大佐・・・お酒を飲まれているのか?」
 急に怒りを覚えた。
・・・真夜中にレディの部屋に来て、しかもお酒を飲んでくるとは・・・
「・・・できんのです。」
「?・・・今、何と?」
「もう我慢ができん、と言ったのです!」
「えっ?・・・き、きゃあっ!!」
 突然、大佐が私の上に覆い被さってきたのだ。私は必死になって力を込めて抗った。だが、抵抗などものともせずに、大佐は私をベッドの中から引きずり出してしまうのだった。
「いや、やめてっ!・・・た、大佐、やめてえっ!!」
 ばたばた暴れる。
「・・・きれいだ・・・」
 大佐が耳元で呟きながら私の首筋に唇をつける。その瞬間、不思議にも力が身体からスーッと抜けていった。まるで溶けたようにふにゃふにゃとしてしまっていた。
「きれいだよ、ハマーン・・・」
 大佐の蒼い瞳が私を見ていた。美しい瞳の中に私が映っているような気がしていた。
「・・・た・・・大佐・・・シャア大佐・・・」
 かよわく私は呟く。
「・・・ハマーン・・・愛しているよ・・・」
 大佐が私に唇を重ねてきた。私は目をつぶった。何故か涙が流れて頬に伝わるのを感じていた。
 この瞬間、私は一生の恋に落ちた。それはこの身をも焦がす、情熱の恋であった。

「・・・大佐・・・大佐ぁ・・・怖い・・・私、怖いっ!!」
 大佐にぎゅっとしがみつく。私の薄い胸をちゅっちゅっと吸っていた大佐が、顔を上げて微笑んだ。
「・・・大丈夫さ、怖くないんだから・・・」
 身体中が熱い。熱を持っているかのようだ。まして、大佐に裸身を見られているかと思うと、死にそうに恥ずかしかった。
 乳首が痛いほどに尖っていた。大佐に嬲られる度に電気が走ったようにびくびく震えてしまうのだった。 
「あん・・・あ・・・あ・・・そ、そこはっ!!」
 大佐の指先が私の股間に伸びてきたのだ。恐怖感に足を閉じようとするが、手が器用に私の腿をこじ開けてくるのだった。
「いい娘だから、力を抜いて。」
「・・・でも、でも、怖い・・・」
 泣きそうなくらい、か細い私の声。大佐はまたキスをすると優しく言った。
「大丈夫だから、私を信じて・・・」
「は、はい・・・」
 指の先端が私の秘所に触れた。くうんと私は身体を震わせながら大佐に抱きつくと、それを待っていたかのように優しいキス。そしてまた指先が徐々に奥に入っていく。
「・・・痛くないかい?」
 返事をしない代わりに首を縦に振る私。奇妙な感覚に私は支配されていた。このまま、強引に続けて欲しい私と、もう止めて欲しい私の二人がいた。
「あ・・・あ・・・ああっ・・・あん!」
 秘所の中に指が入っていくとともに、敏感な突起が触られたのだ。胸の時とは違った電気が全身に流れているようだ。
「濡れてるよ、ここ。」
「あ・・・いや・・・いや・・・恥ずかしい・・・」
 大佐の卑猥な言葉。
「耳を噛むよ。」
「あうんっ!・・・あ、あ、あ、あ、あっ!」
「ハマーンの匂いが一杯するよ。」
「あんっ、だ、だ、だ、だめえっ!」
 1段と声が高くなる。私は感じていた。大佐の全てを受けとめようとしていた。
「・・・あ?・・・え?」
 身体が起こされた。大佐が私の背後に回り、貧弱な胸を撫でながらまたもや秘所に指が侵入してくるのだった。
「ここは気持ちいいかい?」
 乳首を摘みあげながら、敏感な突起をこすりあげる大佐。
「はぁん、あん、あん、あ、ああ・・・か、感じます・・・」
「ハマーンは、処女のくせに感じやすい娘だ・・・」
「・・・そ、そんなこと・・・ぁ、ぁ、あんっ!!」
 大佐が乱暴に敏感な突起を摘む。その動きで私は返事が出来なくなってしまった。
 ぬちゃ、ねちゃ、ちゅく、
「ほうら、ハマーンのいやらしい音・・・」
「言わないで!・・・あう、はぁん、あん、あ!」
 何やら湿った音が私の秘所から聞こえてくるのだ。恥ずかしさといやらしさと快感とで、私はもう死にそうなくらい喘いでいた。
「あっ?!」
 お尻に妙な感覚が触れた。熱くて、固くて、私を刺激する固いもの、それは大佐の欲望の塊だった。
「触ってみるんだ。」
 無言のまま大佐の欲望の塊に触れる。体温より遥かに熱い。しかも私の手の中でぴくぴく震えていた。
「ハマーンがいけないんだよ・・・私をこんなにして・・・」
「そ、そんな・・・」
「ふっ、可愛い女だな、ハマーンは・・・」
 大佐が私をベッドに横たえた。不思議な感じだった。
・・・女になるのだ・・・私は、これからジオン・ズム・ダイクンの忘れ形見であり、『赤い彗星』にして、父であるアクシズの指導者マハラジャ・カーンの右腕たるシャア・アズナブルに抱かれるのだ・・・
 大佐が私の秘所をペロッと舐めた。内臓に触れられているような錯覚を覚えた。シャンデリアを見ながら、私はその時を待った。
「・・・いくよ。」
 来た。シャア大佐が来た。私の秘所に灼熱の痛みが来た。唇をかみ、苦痛に耐えながら愛しい大佐の顔を見上げる。時折、痛さで目が霞んだが私はまっすぐに大佐の瞳を見ていた。
「う・・・うんっ、う、う、う・・・」
 私を見下ろしながらぐ、ぐ、と身体を沈めてくる大佐。そして欲望の塊をすべて私の体内に入れてしまうと、また唇が吸われていた。必死になって吸い返す私に大佐が甘く囁くのだった。
「・・・痛いかい?」
 無言で首を横に振った。
・・・破瓜の痛みなど・・・こんな・・・こんなものか・・・フラナガンの実験の痛みに比べたら・・・こんなものなど・・・
 耐えられると思った。まして愛しい人に愛されているのだ。
 大佐が動き始めた。体内で欲望の塊が動いていた。
「はう、はう、はううっ!・・・あ、あ、あ、あ、あ、はぁんっ!!」
「すごい、すごい、しめつけだ・・・す、すてきだよ・・・」
 鈍い痛みとともに『ヘンな』感じがしている。汗ばんだ身体の奥底から、何かが別のものが私に訴えかけている気がした。たまらなくなって私は大佐に呼び掛けていた。
「た、大佐ぁ!・・・私どうなってますう?・・・あ、あ、あ、あ、ああん、頭がヘンになりそうですっ!」
「気持ちよくなってきたね、ハマーン・・・嬉しいよ。」
 満足そうに笑う大佐が小刻みに私を突く、突く、突く。鈍い痛み、私の破瓜の痛みをまるで打ち消すかのように快感が小爆発していた。大佐の身体に私は必死になって抱きついている。少しでも離れてしまえば、自分を見失いそうな感じだ。
 湿った音がじゅくじゅくとしている。
・・・ああ、私は間違いなく大佐と一つになっているのだ・・・
 そう思った途端に快感の渦が起きた。ぐわんぐわんと体内の奥底を貫かれる度に悲鳴を上げた。泣いた。喘いだ。
「あう、あ、ああんっ、あ、あ・・・はうっ!!」
 みっともない声。だけど気持ちがいい。
「大佐、大佐、離さないでえ!!」
 色欲に狂い始めた牝の声。だけど気持ちがいい。
「あ、ああ!ん、ん、ん、はぁん、大佐ぁ!!」
 よがり声。だけど私は大佐に愛されている。
「すてきだよ、ハマーン!」
 大佐がくちづけをする。
・・・たくましい肩、胸、腕、腰、凛々しいその姿・・・甘く囁くその声・・・私は、英雄に捧げられた哀れないけにえなのだ・・・迷うことなどない・・・
「あん、大佐ぁ、大佐ぁ、ああん、あ、あ、私・・・あん、私・・・はぁんっ!!」
 私は強く大佐を抱きしめた。途端に大佐は、うっと低く呻いて私の中へ精を放っていた。体内を打つ大佐の愛情を感じながら、私は陶酔と悦楽に浸っていた。

「ハマーン・・・」
 私は身体を起こして隣で寄り添っている大佐にくちづけした。破瓜の痛みなどとっくに過ぎ去っている。ベッドに私のしるしが点々と残ってはいたが、後悔などしていなかった。
「・・・何も言わないで・・・大佐・・・」
「・・・いや、言わせてもらおう・・・私を軽蔑しているだろうな?」
「どうして、そんなことを・・・軽蔑なんて、とんでもありません!」
 悔しくて涙が出てきた。
・・・ひどいことを・・・何てひどいことを言うのだろうか・・・
「・・・ふふ・・・酒の勢いに任せて、まだ年端も行かぬ少女を無理矢理犯すなど・・・唾棄すべき男なのだよ、私は。」
「そんなことはありません、大佐はジオンの、アクシズの英雄なのです!・・・大佐がしっかりして下さなければ、私は・・・私達は、未来永劫に渡ってこの暗黒の宇宙をさまようだけなのですっ!!・・・」
 青く純粋な子供の叫びと怒り。
「・・・強い娘だな、ハマーンは・・・」
 優しく私を抱きしめ、くちづけをする大佐。その手が再び秘所を探り当てると、私はまた牝の声で鳴き始めるのだった・・・

 昼、大佐は姫君を守る騎士のように振舞っていた。
 1枚きりのアクシズ内の公園で撮影した写真。それが私の宝物だった。
 夜、それは二匹の獣が身体を貪りあう情熱の時間だった。

 最初に大佐に疑惑を抱くようになったのは、バスルームで後ろから貫かれている時だった。
「あ・・・あ、あ、あ、あ・・・あうん、はぁんっ!!」
「・・・ハマーン・・・ハマーン!」
 周囲に聞こえないように水音を大きくしながら行う秘め事。アクシズの指導者マハラジャ・カーンの娘と英雄シャア大佐の情事である。
 獣のようにお互いの身体の隅々まで求め合う。12才の私は大佐の手練によって、性の快楽を覚えさせられてしまっていた。紙が水を吸うように、幼児が文字を覚えるように、私は性のフロンティアを次々と開拓していった。
「あん、あん、あん、あ・・・もう、もうだめっ!!」
 脳髄を蕩かすほどの悦楽だ。全身に大佐の愛と絶頂を迎えていた私は、ほどなく達してしまった。
 その時だった。その時、大佐が愛情の塊を放つその刹那、私は確かに呟きを聞いていた。
「・・・ティシア・・・あっ!」
「ああんっ!!」

 もちろん直接大佐に問い質したりはしない。大佐が引き上げた後、調査機関を使って「ティシア」なる名前の女性を調べさせた。だが、アクシズには「ティシア」という女性は存在しない。似た名前はたくさんいたが、誰も大佐と関係のある様子はなかったのだ。
 もっと調査の範囲を広げてみることにした。旧ジオン公国まで広げて見ると・・・確かにいた。
「アルティシア・ソム・ダイクン・・・宇宙世紀0062年サイド3生まれ。父はジオン・ズム・ダイクン、兄はキャスバル・レム・ダイクン・・・!」
 即ちシャア大佐の妹である!
 まだ報告は続いていた。
「0069年、ジオン公国宣言の年、ザビ派とダイクン派の派閥抗争激化を恐れたダイクン家の侍従ジンバ・ラルによって二人とも地球に亡命、南欧の名家マス家へ養子縁組される。以後0074年まで二人は地球上で生活、仲の良い兄弟として知られる。」
・・・仲の良い兄妹か・・・だが、なぜ私と愛し合っている最中にその名が洩れるのだ?・・・
「0074年、キャスバル・レム・ダイクン、サイド3へシャア・アズナブルとして入国。士官学校へと入学する。」
 続く報告はシャア大佐の華々しい業績と戦果ばかりで、アルティシアの名前が一向に出てこない。
「0079年、アルティシアことセイラ・マス、サイド7へ移住。ここで連邦軍V作戦(モビルスーツ開発計画)追跡中のシャア少佐と接触。避難民として連邦軍新型戦艦ホワイトベースへ乗りこみ、以後準軍属として勤務・・・連邦軍本部ジャブローにて軍曹に任官。シャア大佐のジャブロー潜入の際、最接触するも宇宙へ。テキサスコロニーにて再々接触あり。宇宙要塞ア・バオア・クー陥落時も同様。」
 ここで報告が終っている。後の消息は、1年戦争終了のため判らないのは当り前のことだった。
・・・敵味方に別れた悲劇の兄妹か・・・普通の生活の中で心配し、名前を呼んでも構わない。だが、私といる時にどうしてその名前が出るのか?・・・
 入手した子供の頃の2人の写真を見ながら、いくら考えてみても判らなかった。ただ、セイラ・マスことアルティシア・ソム・ダイクンの美しいがどこか寂しげな微笑が、何となく私に似ているような気がしていた。

 次の疑惑は疲れきった大佐の寝言だった。
「ララア・・・ララア・・・私を置いていかないでくれ・・・」
 今度の調査は更に困難を極めた。何しろ、フラナガン機関という超国家機密の壁にブチ当たるのだ。私自身所属していた故キシリア・ザビ少将肝煎りのこの組織は、公国崩壊とともにその機密と資料が散逸してしまっていた。
 それでも大佐が、故ガルマ・ザビ大佐の戦死を妨げられなかったということで、故ドズル・ザビ中将幕下を罷免され故キシリア閣下に誘われ地球勤務を命ぜられていた時に、インドの娼家で故ララア・スン少尉を発見、スカウトしたということは判った。ララアはその後、ソロモン要塞陥落後に同宙域で大戦果を上げるが(『ソロモンの亡霊』とあだなされた)、『連邦の白い悪魔』ことアムロ・レイ曹長によって撃墜、戦死したようである。報告書の最後は、ご丁寧にも「シャア大佐とララア少尉は男女の関係だったらしい。」という下司な文句で締め括られていた。
 サイド6で撮影されたというヒスイ色の瞳の少女の写真が、やはりどこか悲しげなのは、その境遇と短い人生を反映してのことなのだろうか。

 一人は生死も定かでない実妹であり、もう一人は戦死しているのだ。生きているこの私が彼女達に負けるわけがない、と強がってもドス黒い想いが頭の中から一向に離れようとしない。思い切って父に尋ねてみることにした。
「・・・アルティシア・ソム・ダイクン・・・懐かしい・・・その名前は久々に聞いたなあ・・・」
 父マハラジャ・カーンは、執務室で読んでいた書類から顔を上げると、遠い目をして言った。
「どんな方なのです?」
 できるだけ冷静を装って父に尋ねる。
「ふむ・・・一言で言えば、強い娘だった。父上が亡くなった際にも決して取り乱すことなく・・・わずか6才の少女がな。それがかえって周りの悲しみを駆り立てたものだ。・・・私はザビ家に仕える者だったが、ジオン公とそのご家族のことは今もお慕いしている。もちろん、最近お前と仲のよいらしいシャア大佐のこともな。」
「いえ、決して・・・」
「隠さんでもよい。お前が大佐に夢中なのはよく判っているつもりだ。ただ、お前の進んでいる道は決して楽ではない。いばらの道なのだ。大佐を愛する、ということはそういうことだ。」
「・・・失礼します。」
 ララアのことを聞けなかったと気づいたのは、自室でひとしきり泣いた後だった。涙の理由もよく理解できなかった。判るにはまだ自分が幼すぎるような気がしていた。

 火星軌道と木星軌道の間のアステロイドベルトはしばらくの間、平穏だった。地球圏のような愚かな権力闘争は表面的には見えず、アクシズは静かに時を刻んでいた。アクシズ市民の心の拠り所は、故ドズル閣下の忘れ形見ミネバ様の成長と私の父を助けて政治を行うシャア大佐の一挙手一投足だったと言ってよいだろう。
 アステロイドベルト行きを拒否し軍事活動を行っているデラーズフリートという旧ジオン公国軍の残存部隊が、地球圏を賑わせているようだったが、私には関係なかった。
 私は静かに、そして穏やかに大佐に愛されていた。確かに大佐に愛されているような気がしていた。

 だがその平穏な生活も壊れる時が来た。
 父の死。それが静かだった私の生活を破壊する契機となったのだ。

 父マハラジャ・カーンの目指すアクシズ政権の路線は、現状維持かつ穏健であった。ザビ家を信奉する周りの政治屋どもはそれぞれ、己の勢力拡大を図るだけであった。いわくこのまま地球圏へ戻り戦争を挑むのだと。
 父の遺志は違った。このままアクシズを、言わばサイド8としてスペースノイドの楽園にする・・・それがジオンの遺志でもあったはずだ。そのことを大佐に泣きながら訴えた時、彼の獅子奮迅の活躍が始まった。そしてそれは思いがけぬものになった。

 私は、ベビーベッドですやすや眠るミネバ様のあどけない寝顔を飽きずにずっと覗きこんでいた。幼くして父上に戦場で逝かれ、地球圏から遠く離れたこのアクシズで母上ゼナ様にも逝かれたミネバ様は、不思議と私と父と大佐だけになついてくれていた。
・・・ふふ・・・可愛らしい寝顔・・・いつか私も大佐の子供をこのように・・・
 と考えてみては赤面するのだった。
 私はアクシズ議会招集中のミネバ様の宮殿に呼ばれていた。今日は大佐からミネバ様の御守りを言いつけられていた。
「今日の議会、長くなりそうだな・・・」
 時計を見て私は呟いた。大佐とその政敵でもある議員達は、朝早くから宮殿内の議会に篭りっきりである。議会の後食事でも、という大佐の誘いに私の心はときめいていた。食事の後のことを考えて、今日はおろしたての下着を着ているのだ。何とはしたない娘、と大佐に思われたりしないだろうか・・・
 そんなことを考えていたら、ドアが叩かれてた。大佐が急用で議会に来るように、との使いだった。
・・・議会に?・・・何だろう?・・・
 私は余り深く考えずに、ただ大佐の顔を見れる嬉しさで議会に行った。

 重々しい議会の扉を開けると、議員達全員の顔が私に集中した。父に近しい議員もいたが、無遠慮にも私の顔を半ば憎悪に近い視線で見るのだった。
 壇上で水を一杯飲んでいた大佐が私を呼んだ。
「おう、ハマーン殿、よく来られた。さあ、こちらへ。」
・・・ハマーン殿?何だ、その呼び方は・・・
 大佐の意図が判らず私は壇上へ登る。皆の顔が緊張していた。
「私、シャア・アズナブルは、未だ幼きミネバ様の摂政として、故マハラジャ・カーン殿の後継者にハマーン・カーン殿を推薦するものであります。どうか、皆さんの賛意を願いたい!」
 一瞬のざわめきに議会が揺れた。しばらくしてお互いをつつきあう議員達からまばらな拍手が始まり、やがて議会全体への大きな拍手に変わっていった。
「ではハマーン殿、摂政の役をお受け下さい。我々がハマーン殿をお助け致しますから。」
 拍手の後、大佐が私の手を取って、服従の証のくちづけをした。もう一度大きな拍手が起きた。
 私といえば、何が何だか判らず戸惑っていた。やがて大佐が私にある意図を持って近づいてきたことに気づき、怒りと屈辱にこの身を震わせていた。議員達が次々と次代の権力者たる私に握手と手への接吻を求めてきていた。

「これがあなたのやりかたか、大佐!」
「しかたなかろう、アクシズが分裂するのを黙って見てはいられん。大丈夫、私達が補佐していくから。」
・・・違うの、そんなことじゃないの、私に人格はないの?、意見も聞いてもらえないの?・・・
「以前、年端もいかぬ少女、と言ったのは誰か。後ろから操るつもりか!それならば、いっそ大佐ご自身で指導者になるがよかったろうに!!」
「・・・これでも敵が多いのでね。それに私は指導者の器ではない。」
・・・違うの!私なんかじゃ何もできないの、シャア大佐、逃げるの?それがあなたの弱さなのに・・・ああ・・・
「では軍事面のみ助言を頂くことにしよう。・・・失礼する。次の議会に備えて、それまで政治というものを勉強する必要があるので。」
 意思と反した言葉がぽんぽん飛び出していく。私は絶望しながら、部屋を出た。
 その晩の食事の約束は反故となった。

 それからのアクシズ議会は私と大佐のいがみあいとなった。アステロイドベルトでのスペースノイド国家樹立を説く大佐と、反アズナブル派(要するに大佐のこれ以上の勢力拡大を望まない俗物ども、地球圏帰還を望む愚劣ども)に擁される私との闘いである。
 大佐の反対を押し切って、デラーズフリート支援のために先遣艦隊も派遣する。再軍備拡張のための予算認証、ニュータイプ研究組織への援助などこれら一連の行為は、大佐への反抗だったのかもしれなかった。

「ハマーン・・・」
 私はベッドから跳ね起きたが、すぐに忍び寄っていた大佐に抱きすくめられてしまった。
「た、大佐・・・何をする!」
 うなじにくちづけされた時にはもう既に遅かった。私はめくるめく官能の世界にいた。
「た、大佐ぁ・・・あ、あ、あ、あ、ああん!!」
 いつのまにか大佐の下で歓喜の声を上げていた。大佐がたくましいその身体で私を責めたてるのだ。
「ハマーン・・・ハマーン・・・可愛い女・・・すてきだ・・・可愛いよ・・・」
 くわっと官能の世界が昇華する。血管が沸騰したようにざわざわと蠢いていた。
・・・ああ・・・私・・・いく・・・いく・・・
「あん、あ、あ、あ、あ、あん!」
・・・幸せ・・・アルティシアよりも、ララアよりも・・・そう、ハマーン・カーンは大佐の第1にして永遠の情人なんだわ・・・あ・・・幸せだわ・・・
「ああん、シャア!シャア・アズナブル!!・・・愛しています、あなただけを!あ・・・んっ、ん、もうだめっ!!」
 大佐にくちづけをせがんだ。唇が何度も重なった時に頂点が訪れていた。私は泣き、叫び、喚き、そして達した・・・

 翌日。晴れやかな気分で官邸へ行った。昨日、久し振りに愛し合ったために精神も肉体もすこぶる快調だった。人間の身体など何ていい加減なんだろうと我ながら思ってみたりもした。
 秘書官達も鼻歌を歌う私を奇妙な眼差しで見ているに違いない。
「ハマーン様。」
 いつものように書類の決裁の山と格闘するつもりだった私は顔を上げた。秘書がいた。
「何か?」
「朝1番でシャア大佐がお見えです。どうしてもお会いしたいそうで。」
・・・大佐が来た・・・
「すぐにお通ししなさい。」
 秘書は奇妙な顔をしながら出て行った。最近の情勢では私と大佐が政敵である、というのが常識だったからだ。
 鏡を取り出してみた。少し顔が赤いものの、大丈夫、いつもの私だ・・・
「失礼します。」
 私はやや失望した。大佐が独りでなく、議員を数人連れて来ていたからだ。いずれも反アズナブル派の長老だった。
「私にご命令頂きたい。」
 大佐が忙しく言う。
「?・・・何を?」
「デラーズフリートが壊滅した後、何やら地球圏で動きがあるようだ。強力な地球連邦軍の組織が出来るらしい。私に偵察を命じて頂きたいのだ。」
 続いて反アズナブル派の議員達が喋り出す。ジオン残党狩りが始まる、デラーズの生き残りを救うべきだ、地球連邦軍強化の阻止など、威力偵察の必要がある、大佐がそれに適任だ、と。
 要は邪魔な大佐を駆逐したいだけなのだ・・・だが何故、聡明な大佐までが自ら言い出すのだ・・・?
 考えが閃いた。
・・・!・・・そうか・・・ここから出て行きたいのだ・・・私から離れたいのだ・・・昨夜はお別れを告げに来たのだ・・・大佐はまたもや逃げ出すのだ。愛してる私をここに据え置いて、自分だけ、さっさと違う場所へ行きたいのだ・・・
 おかしくなった。笑いたくなった。
 何のことは無い、私は用済みになり、棄てられたのだ。
「よかろう。シャア大佐に地球圏偵察を命ずる。距離が距離だけに、戦艦でも何でも好きに使うがよい。」
・・・行かないで・・・お願い・・・私を棄てないで・・・こんな宇宙の果てに私を独りにしないで・・・ねえ・・・私も連れてって・・・
 私のあっさりとした同意にほっとした空気が流れた。大佐だけが私を真剣な眼差しで見ていた。
「腕利きの部下を何人か連れて行きたいのだが。」
「結構だ。で、いつ出発されるのか?」
「明日。・・・許可を頂き、感謝致します。では。」
 大佐と議員達がいなくなった執務室で声を殺して、私は泣いた。明日がお別れだと思うと涙が止まらなかった。
 翌日、超長距離航行用のシャトルで大佐は出発した。最後の言葉は、ミネバ様をよろしく頼みます、という極めて儀礼的なものであった。私への個人的な伝言はまったくなかった。

 シャア・アズナブル大佐不在のアクシズにおける私の政権は、急速に不安定になった。議会は一刻も早く地球圏への帰還を主張し、第二次ジオン独立戦争を挑むのだと迷いごとをほざいていた。
・・・俗物どもめ・・・そんなに青い地球が恋しいか!・・・今のアクシズの人口・生産力で連邦に勝てるものか!・・・
 辛抱強く議会の長老達を説得した。時にはミネバ様を盾にして、考え直すように仕向けた。
 だが、私は何を待っているのだろう?一刻も早くシャア大佐からの偵察報告が欲しかったのか?・・・違う!地球の報告などどうでもよい!!大佐の・・・手紙でも何でもいいから連絡が欲しいのだ!
 元気か、病気はしていないか、変わりはないか、顔を見たい、会いたい、抱きたい、何でもいいのだ。地球ではこんなものが流行っている、どこそこが名所で面白い、とか普通の恋人のようにしてみたいのに!
 私は小さく見える太陽を見ながら、星屑の輝きを見ながら、大佐の連絡を待っていた。いつまでも父の帰りを待つ子供のように待っていた。

 他の地球圏偵察の任についてる人間から連絡が入った。
 いわくティターンズという旧公国軍残党狩の部隊が連邦軍内に結成されたいうこと。いわく反地球連邦政府運動(エウーゴ)が起き、軍事行動を伴う組織だということ。そして・・・そして、シャア・アズナブルが非合法に連邦軍の軍籍を所得し、クワトロ・バジーナの偽名を用いてエウーゴに走った、ということ。
・・・大佐・・・何をしているのだ、あなたは・・・もはやアクシズのことを、私のことを忘れたか・・・
 私は迷うことなく議会において地球圏への帰還を宣言し、挙国一致の協力を求めていた。皮肉なことにアクシズが始めて一本化したのである。
 愛情が凍りつき、冷たい憎悪に転化するような予感がしていた。

「いやあ・・・シャア・・・あ、あ、あ、あ、ああん!」
 私は指で自分の秘所を掻き混ぜている。ちゅくちゅくと牝の湿った音が高まっていく。よつんばいの体制のまま、ぐいっとお尻を上げる。自分を慰める時、私は決して道具など使用したりしない。指の方が妄想しやすいのだ。
 大佐が嫌がる私を無理矢理ベッドに押し倒し、泣いている私の後ろから欲望の塊を押しこんでくる、というのが最近のお気に入りの妄想だった。
「いや、いやあ・・・あううう、あ、あ、あ、あ、ああっつ!!」
 妄想の中で、大佐は暴力的に振舞う。哀れな子羊のように泣いてすがっても、冷笑を唇の端に浮かべたまま私を徹底的に犯すのだった。
「もう許してえっ!お願い、許してえ!!」
 もちろん大佐は止めたりしない。私が乱暴にされるのが好き、だとばれているのだから。牝奴隷の媚びた眼差しでいやいやと言いながらも、私の身体は疼いているのだ。そしてもっと大佐に激しく凌辱されることを乞い、願っているのだから。
「あ・・・はぅん、あ、ああ、もういくう!!」
 大佐の冷たい笑顔を想像しながら、私は四回目の絶頂を迎えていた。

 

……シャア……お前は今、何をしている? 何を考えている? お前に……逢いたい……抱かれたい……

 宇宙世紀0087年10月。アクシズはようやく地球圏に達した。
 ティターンズのサイド1の30バンチに毒ガスを注入し住民を虐殺した愚行により、反発したスペースノイドやエウーゴが軍事活動を活発化している、という情報が前々から伝わってきていた。そして地上戦も展開されている情報も入手済みだった。
 どっちが先に来る、と思っていたらやはり戦力に劣るエウーゴが先に来た。
・・・シャアが来る!・・・
 私の胸に万感の思いが去来していた。
 三年振りか・・・
 冷たい憎悪がどうなるのか自分にも予想が立たないが、アクシズとエウーゴの会談が始まった。何故か少女のように胸がときめくのを否定できなかった。
 エウーゴの代表として、シャア・アズナブル大佐ことクワトロ・バジーナ大尉以下数人と例の少年・・・カミーユ・ビダンが来ていた。
「ザビ家の正統な後継者、ミネバ・ザビ妃殿下である!」
「やあ、シャア・アズナブル。変わりないようだね。また会えて嬉しいよ。長い間の偵察ご苦労だった。いよいよアクシズが動き出す時が来た。ザビ家再興のため、力を貸してくれ。」
 ミネバ様が鈴の音のような軽やかなお声で言われる。私は打合せ通りうまく言えたミネバ様が自慢だった。よくぞここまで言えた、と思った。
・・・見たか、シャア!お前がいない間、私はここまでまとめあげたんだぞ・・・
 サングラスの男、シャアはつかつかと壇上に近づいた。
「スペースノイドの真の繁栄は、ジオンの復興如何に懸かっている。ジオン・ダイクンの遺志を継ぐのは我がザビ家だけだからな。」
「黙って頂きたい・・・ハマーン!」
 シャアがサングラスを外して、ようやく瞳をこちらに向けた。
「ハマーン・カーン、よくもやってくれたな、偏見の塊の人間を育てて何とする!?」
「何が偏見か!ミネバ様は、スペースノイドの頂点に立たねばならぬお方だ。ザビ家の後継者として、正しいものの見方をなさっておられる!」
・・・どうして、また会えて嬉しいって、何で言ってくれないの?・・・よく帰ってきたね、って何で言えないの?・・・言ってよ、大佐!
 シャアの大立ち回りによって、会談は決裂した。
 続く展開は、私が予期せぬままに動いた。
 今度はティターンズがアクシズと連合を申し出たが、ティターンズの汚い動きにこの共闘は破れた。ティターンズには、もはやザビ家再興など視野に入れてなかったのだ。続く三つ巴の戦いの中で、カミーユ・ビダンという多感な少年と共感を感じはしたが、事ここに及んでしまえば、ただそれだけのことでまったく意味はない。
 そして私の乗るMSキュベレイの前に、シャアのMSが立ち塞がったのである。
「シャア・・・私と来てくれれば・・・」
 シャアの半壊したMSの無様な動きを見ながら私は呟いていた。そして心の中で思っていた。
・・・言って、シャア・・・『お前に従う』って言ってよう!・・・
 ファンネルを無数に飛ばしながら、駄々っ子のように振舞う。
「口の利き方に注意してもらおう!」
 『赤い彗星』のなれの果てに、私は急速に嫌悪感を抱いていた。パプティマス・シロッコとかいう男ではなく、かつての情人の手で葬ってやるのが、せめてもの慈悲であろう。
 だがその時、エウーゴによるコロニーレーザーの発射の時が迫っていた。ティターンズの総帥になったばかりのパプティマス・シロッコが、カミーユ・ビダンに撃墜された気配を機に、私は脱出した。
・・・結局、シャアに止めを刺せなかった・・・
 苦い笑いが込み上げていた。
・・・結局この戦争で、私は何をしたのか?何をしたかったのか?・・・ティターンズが崩壊、エウーゴが満身創痍になっただけだ、ただそれだけに過ぎない・・・
 捨てられた男にまだ逃げられた、ということだ。
 シャアの匂いがまだしている戦場を後に、私はアクシズへ戻る。早急に次の戦略を練らねばならなかった。
「ふ、所詮、血塗られた道か。」
 次の敵は連邦の俗物どもだった。
 この手が真紅に染まっていても、私はアクシズのために戦い続けねばならないのだ。もちろんそれは言い訳に過ぎないのだが。

 次の作戦は地球攻略だった。
「艦隊の士気を高める!ホロスコープを!」
「はっ!」
「栄光あるネオジオンの兵士たちよ!かつて我々を暗黒の世界に押しやった者共は今我々の足元にいる、愚かなる人間達に思い知らせる時が来たのだ。今や地球圏は我々ネオジオンのものだと。機は熟している!共に戦おう、ネオジオンの為に、ネオジオンの栄光の為に!!」
「ネオジオン万歳!ハマーン様万歳!」
 だがその寸前、私はエウーゴのニュータイプと2度目の邂逅を果たした。カミーユ・ビダンではなく、ジュドー・アーシタである。
 今更ながら連邦の底力には驚かせられた。アクシズにはない層の厚さだった。心からの呼びかけにジュドーは応ずることなく、姿を消した。もはや敵の1人なのだと思うようにしていた。
 地球の制圧は半ば成功し、サイド3譲渡を条件に宇宙へ戻ることになった。ダブリンへのコロニー落下が効いたようだ。幾人の人間が死んだか、想像もつかないがこれも修羅の道である、と自分を納得させていた。
 だが・・・部下のグレミーが謀反したのである。前々から怪しいとは思っていたが、ニュータイプ部隊を擁してこのタイミングで叛乱するとは・・・
 再び三つ巴の戦いとなったのだ。

「グレミーが死んだか・・・」
 アクシズを占拠していたグレミーが死んだ気配がした。それが例のジュドー達によるものだという予感もした。これでグレミー軍もお終いであろう・・・だがアクシズの艦隊も全滅の危機に瀕していることに間違いはない。
 私は久し振りにノーマルスーツを着て、純白の死の天使、キュベレイに乗った。後ろからキャラ・スーンとその副官達が慌てて止めに来たが、もう構わなかった。
「キュベレイ、出るぞ!」

 回想の時間はもう終わりだった。ジュドーの迫る気配がしていたのだ。
「もらったあ!」
 私はジュドーの駆るZZの真上から襲いかかった。だがその瞬間、信じがたいことが起きた。ジュドーは私の渾身の一撃を受けとめたのだ。ガクガク揺れるこのキュベレイの機体が、そのジュドーの驚くべき反射神経を証明していた。
「ハマーン!」
 衝撃で開いたキャノピーの向こうに、ジュドー・アーシタの姿が見えていた。
「相打ち、といいたいが私の負けだな。」
 私は激痛に喘ぎながら言った。
「なぜもっとファンネルを使わなかった?」
「ふん・・・一騎打ちと言ったろ。」
 少年の懸命さが眩しく思えていた。
「その潔さを何でもっと上手に使えなかったんだ!?持てる能力を調和と協調に使えば、地球だって救えたのに!」
「ふふふ・・・アステロイドベルトまで行った人間が戻ってくるって言うのはな、人間がまだ地球の重力に引かれて飛べない、って証拠だろ?」
 そう、だから死ににきたのだ、と言いかけて止めた。男に振られたせめてもの腹いせに、たくさんの人間を道連れにしたかった、なんて格好悪くて言えそうにもない。
 男に愛想を尽かされ、追って、追いかけて、最後まで無視され続けた孤独な女の復讐だと知ったら、この坊やはどんな顔をするのだろうか。死に場所を求めてさすらっていただけと知ったら・・・
「だからって、こんな所で戦ったって何にも!」
「そうさ、賢しいお前等のおかげで地球にしがみつく馬鹿どもを抹殺できなかったよ・・・ううっ・・・すべてお前達子供が!」
「おい!?」
「下がれっ!」
 ジュドーの伸ばした手を拒否した。気持ちは嬉しかったが、甘える訳にいかないのだ。これ以上の生き恥はもうご免だった。早く楽になりたかった。
・・・ジュドー・アーシタ、お前を受け容れる事はできない。だが、あの男がいなければ、きっとお前と判り合えただろう。今、私は満足している。私のような苦しみを抱く者が2度と出ないような世界を志すお前と出会えた事が、私を斃せるお前と出会えた事が、地球へと帰ってきてしまった過ちの中で、たった1つの喜びなのだから・・・
 ザビ家再興も、ネオジオン復活も、そして優しかったシャアの顔も、今はもう遠い夢の彼方のような気がしていた。
 キャノピーを閉じてバーニアを噴射した。
「帰って来てよかったよ・・・うっ!」
「あ!」
 ZZがだんだん遠ざかっていく。
「ハマーンッ!!」
 最後の力を振り絞ってノーマルスーツのヘルメットを開けた。
「強い子に遭えて・・・」
 アクシズの岩隗が目前に迫っている。
 シャアに抱かれて以来、ようやく初めて穏やかな気持ちになれたような気がしていた。そしてそれは、この身をも焦がした、情熱の恋の終焉でもあった。

 

(了)

 

亭主後述……

うわ!全然、えっち小説じゃないようっ!!
ハマーン様の伝記を書いてしまった。分量が多いだけの失敗作ですなあ。
ZZの第4弾ですが……S★D★A★さん、ITAさんに叱られそうだ・・・
やっぱり料理の材料が難しいのかな?
なお、ハマーン様の最後の述懐はS★D★A★さんの「ハマーン様に関する考察」から無断借用しております。
すんまそ~ん。
リンク先のしのさんから、物憂げ(物欲しげ?)なハマーン様を頂戴しました。とってもステキです。ありがとうございます。