雨が降っていた。11月の雨が。
悪天候のせいで、山頂からの景色は何も見えなかった。
ここに向かう飛行機が揺れたからだろうか、5800メートルの高地にいるせいなのか、どうも私は酔っている様だ。
酔い止めの薬を水で流し込み、ブランディを垂らしたコーヒーを飲むと、容赦なく視察の仕事が私を待っていた。
視察の途中、立ち寄った医療施設の中から、苦しげで悲しげな絶叫が絶え間なく響いていた。厚い壁に覆われていても、それは決して小さくないのだった。
案内の者に尋ねると、捕虜を拷問している訳ではなく、「治療」と「調整」をしているのだと言う。
「あれではパイロットの身体がもたんだろう。ひどいものだな」
「はっ、しかし」
思わず洩らした感想に顔色を変えた女性研究者が、眼鏡越しの瞳に怒りを浮かべて、予測される効果の説明を始めようとした。
「小難しい説明などいらん。使えるようにしてくれればそれでよい」
「ですが、閣下」
「くどい」
手を振って、私は繭状のカプセルの上で苦悶する被験者の顔を見た。
ヘッドセットを装着させられた、まだ若い女性だ。時折、首を振り、呻吟し、悲鳴を上げている。私にはよく判らない実験だったが、痛ましいとさえ思わせるものだった。
「実戦に出せるのか?」
例によって、眼鏡の女性研究員がたどたどしく説明をする。その長さに耐え切れなくなって、途中からは聞き流すようにした。
「ああ、うう!!」
分厚いガラスであっても、音は完全に遮られるものではないようだった。
「そろそろお時間です」
護衛達が繭を見つめる私に声を掛ける。
もう一度、繭の中の少女の表情を眺めてから、私は部屋を出た。
参謀や幕僚が提出してきた資料の山を見飽きると、ふと先程見学した医療施設の光景を思い出していた。苦しんでいた少女の顔は、どこか儚げで、美しくも凄惨な色気が漂っていた。
どうせ今晩中には仕事は終わらないのだ。そう見切りをつけて、私は廊下に出た。
怪訝な顔をする護衛達を制して、
「少し散歩でもしてみることにした。独りで構わん」
護衛達の抗議をどうにか押さえて、廊下を徘徊する。
新しくできたばかりの基地には人気がない。おかげで、誰にも見つからずに目的地にたどりつくことができた。
IDカードで扉を開けると、ガラスの向こうの少女は繭の中で眠っていた。
耳を澄まして寝息を伺う。穏やかな、静かな、そして痛みを忘れて、少女、ナンバー4と資料にあった娘は、眠っていた。
ナンバー4の匂い、それは薬品の匂いとともに花の香りでもあった。甘い匂い、切なくもあるほのかな香りを肺の奥まで吸うと、ある破壊的な衝動が突然に私を襲った。
私が触れてみても、診察用の白いガウンを着た少女は眠ったままだった。恐る恐る抱き上げてみても、反応がない。
それをいいことに、繭の横にある診察台に運んでみた。足を広げさせて、多目的用診察台の外側のフックに足を引っ掛けさせる。
ガウンの裾をめくり、ナンバー4の中心を見つめてみる。そこには、淡いピンク色の可愛らしい花弁が息づいていた。
花弁に顔を近づけて、かすかな匂いを嗅ぐ。寝る前にシャワーを浴びたようで、清潔な少女の芳しい香りがする。
我慢できずに唇で触れる。ぴくり、とナンバー4の身体が震えたが、起きた気配はなかった。
舌先が少女の体内に入る。わずかに沁み出し始めた分泌液は苦く、作りたての若い白葡萄酒を思わせた。
「ん、ん、んっ」
吐息が洩れた。無意識なのに、少女の手が伸びて私の頭を押さえ込もうとする。
感じているのだ、と思った。濡れていると思った。夢うつつのままナンバー4は、悦楽に飲み込まれようとしているのだ。
愛液と思しき白葡萄酒が湧き出している。どこか甘く、しかしほろ苦い。舐め取って味わい、存分に若い身体を楽しんだ。
顎まで伸ばしていた髭まで濡れてしまった。一息ついて、顔を上げてみる。花弁は蜜と唾液で輝いて、淡い色から鮮やかなピンク色に変化しつつあった。
指を伸ばし、そっと押し込んでみる。少女の体内は、最初は抵抗なく受け入れたものの、先に進むに従って、徐々に狭くなっていく。
猫の舌を思わせる粘膜の手触りに、私は震えた。
「あっ、あっ、ん」
こんな辱めを受けているのに、声を洩らすもののナンバー4は一向に目覚めようとはしない。ニタ研の処方した向精神薬か、安定剤が効いているのか、どちらにせよ少女を愛撫する私には都合がよかった。
差し込んだ指の感触を楽しみながら、ガウンの胸をはだける。露わになった、抜けるように白い肌と形のいい乳房が眩しいと思った。
そっと乳房を唇に含むと、感度のいいナンバー4の身体が更に痙攣した。
若い身体は素晴らしい。私にもかつてこの少女のような青春の時があったはずなのだが、遥か遠い過去の年月の向こうに置いてきてしまった。
老いたるこの身を奮い立たせるには、格好の獲物だ。
小ぶりだが充分に張りのある乳房を含み、その頂きをねぶる。唾液で一杯舐め回した後、次にナンバー4の唇を奪った。最初はそっと静かに吸う。
息が荒れただけで少女は眠ったままだから、舌先を口の中に潜らせて強引に吸った。
「ん、ん、んっ」
眉を歪めて浮かべる苦悶の顔。しかし実験中の苦しみよりはマシというものだろう。
ナンバー4の舌に自分のそれを絡めて、充分にくちづけを交わす。
私の興奮は最高潮になっていた。こんなに欲望が高まったのは久しぶりだ、後で血圧降下剤を飲まなくてはならないと思った。
くちづけの間にナンバー4の体内を探っていた指が、締めつけられて痛くなっていた。引き抜いた指は蜜に濡れ、糸を引いているのだった。
指を口に含み、ナンバー4の蜜の味を愉しむ。意識がないながらも、この娘は身体だけを反応させていたのだ。
準備はよし、いよいよ全裸に剥いた少女に挿入を試みるとしよう。
「あ、ああ、あっ」
身体を押し当てると、おとぎ話の眠れる森の美女はかすかな声を上げた。そのまま腰を押し込んでいく。
どれ位前だろう、こんなに若い少女を抱くのは、一体何時以来だろう、過去を振り返る。
自問し、また目前の肉体に溺れようとする自分を自嘲しつつ、夢中になる。ギシギシと診察台が軋み、聞こえてくるナンバー4の喘ぎと共に大きくなっていく。
次第に、大きく。年老いた私にもたらされる快楽と一緒に。それは押し寄せるのだ。診察台の上で若い肉体は弾み、官能は加速する。
「あっ、ああっ、やあっ」
熱い声で悶えるくせに、夢の世界を彷徨っている女を、私は抱いているという訳だ。
意識がないというのに手を回して私を抱き、よがり声を出している。若い割に、それなりの経験があるのだろうと思わせた。
ナンバー4は、
「ああ、カ、カミ、カミーユ……」
と、夢の中で相手の名を呼んでいた。その名を呼ぶ度、少女の花弁が私をきつく締めるのだった。
「カミーユ、ああ、カミーユ」
少女の想い人は、今何をしているのだろうか。かつての恋人が、まさか私に抱かれてるとは思いもすまい。
ん、カミーユ? カミーユという名前、何かの資料で見たことがある……幕僚達が持ってきた資料の中で……まあ、いい。今は目の前の美しい少女と楽しむ時だ。
頭の隅に「カミーユ」という言葉を残したまま、私は今だに目覚めぬ幽境の狭間を漂うナンバー4を突くのだった。
花弁からクチャクチャと濡れた音が響く。甘い蜜と濡れた粘膜が私を包む。性器が擦れ、絡み、可愛い声で喘ぐ、無意識の快楽に反応する白い肉体。
「あんっ、あんっ、あんっ」
か細くも甘い声を聞き続けたいのに、唇を奪い、塞ぎ、また舌を吸った。少女の舌が私を求めてくるのを意外に思いつつ、私も熱中していく。
睡眠状態、或いは昏睡状態にあっても、身体は正直なものなのだ。快感に反応し、それを追い求めるためには、自らの身体を揺らすことも厭わない。腰を振り、使い、動かしていく。
原始時代からの本能の行為なのかもしれなかった。
「んっ、あ、カミーユ!」
また違う男の名を呼んでいる。
「いいよぅ、カミーユ、ああ、カミー……いいのぉ、そこ、いいのっ!!」
私の腕の中で別の男の夢を見て、哭いているのだった。それでもいい、この瞬間は私の生贄なのだ、少女は絶対権力者である私の獲物なのだ。
「ああっ、もっと、もっとぉ、突いて、突いてぇ」
ナンバー4がとうとう絶叫する。私を抱いて、喚き叫ぶ。
「あ、いい、ああっ!」
両の腕が私を抱きしめた。細い腕なのに、強い力だと思った。
そしてナンバー4は閉じていた眼を開けた。その瞳に私が映っているかと思うと、背筋がゾクゾクとした。
「やっと逢いにきてくれた。カミーユ、私に逢いにきてくれたのね、嬉しい」
私が見えていない。誰だか判っていない。他の男に抱かれているとは知らず、「カミーユ」という男に抱かれたつもりになっている。
少女の体温が一気に上昇し、花弁の内壁がいよいよ絡んでいくのが堪らない。
「あ、ああっ、いいよ、いく」
身体をピンク色に染めて、少女が哭いた。まもなく彼女にエクスタシーが訪れるのだと思うと、私の快感も増していくというものだ。
「い、いく、いくのぉ!」
診察台の上でビクビクと身体を痙攣させ叫ぶ姿を見ていると、もう我慢ができなかった。花弁に搾られながら、私もナンバー4の中へ精液を放っていた。
久方ぶりの射精は長く続き、何回にも渡って放ち続けることとなった。奥底を精子が打つ毎に、少女は低い呻き声を上げていた。
「う、うう、ん」
口を吸い静かにさせた後、身体を放してナンバー4を見下ろした。
力なく開いた太腿の中心に花弁が見える。肉の襞に蜜と精子が入り混じる卑猥な光景だった。
「ナンバー4、楽しませてもらったぞ」
白いガウンをどうにか着せながら、私は囁いた。
「嬉しい、嬉しいよう」
と未だ目覚めぬ少女は、媚態を見せて言うのだった。
ナンバー4を繭の中に戻して立ち上がった。行為の痕跡は、その肉体に残っているだろうが仕方ない。疲れ果てた私は、少女を洗ってやる程の余力を残してはいなかった。
せめて、今後の「治療」と「調整」の成功を祈ってやることしかできないのだった。
医療施設の外に出た。窓から外を眺めると、まだ天気は悪いものの、もう11月の雨は上がっているようだった。
息を吸うと、私の身体には花の香りが残っていると思った。
(了)
亭主後述・・・
フォウ・ムラサメ。
初めて貴女を見たのは、テレビ版のDVDでニューホンコンでした。
「キスしたことある?」の名台詞に、ドッキュンでした。
カミーユを宇宙へ送り出す時、そして続いて生きていると知ったキリマンジャロでの「バキューン」
力さえ強くなければいい子なんですが。(笑) 後は電波さえ(以下略)
やっぱり、キリマンジャロのシーンは映画でも欲しかったですね。
今まで書かなかったのは、単に書けなかったからです。
カミーユを相手にしたかったのですが、成行きでこうなりました。
ま、カミーユにはファがいるしね。
閣下もお元気ですよね、この後ティターンズからは幸運の女神がいなくなってしまいますが。(笑)
やっぱりお声は島津冴子さんがいいなぁ。(しつこい)