「早く着替えなさい!!」
と叱る声が聞こえた。
振り返って声の方角に目を向けると、二人の子供達と格闘する彼女の姿がそこにあった。子供達は風呂から出たままの裸で、彼女は着替えをさせようと懸命になっているようだった。
「嫌だよ!」
男の子の方、シンタが抗った。次の瞬間、容赦ない彼女のゲンコツが彼の頭の上に落ちた。
「言うことを聞きなさい!」
だが彼女は、もう一人の子供の動きを見逃さなかった。手が伸びて、女の子のクムの腕を捕らえる動きは速かった。
「シンタもクムも言うことを聞かないと、自習室よ!」
鬼神のような形相で叱れば、逃げ回っていた子供達もおとなしくなって、彼女のタオルで拭かれるままになるというものだ。
「はい、オーケー。いっていいわよ」
蜘蛛の子を散らすように二人の子供は、ハロと一緒に休憩室を出ていった。
「もう、全然緊張感がないんだから」
ため息混じりの彼女に、
「いよいよお母さん振りが板についてきたね」
と言うと、彼女、ファ・ユイリィが驚いたような顔をして、それから頬を赤く染めた。
「やだ、アポリー中尉、見てたんですか」
「あんなに大騒ぎしてればね、いやでも目につくよ」
飲み物のチューブをオーバーに振ってみせ、ファが隣に座ってくれるのを期待した。
「全然、私の言うことを聞いてくれないんです」
「あれくらいの年代の子供は仕方ないさ」
「そうでしょうか」
不安気に言うファの顔が曇り、果たして思惑通り、俺の隣に腰掛けた。
クリーム色っぽいエゥーゴの制服はノースリーブのせいでむっちりした肩と腕のラインを覗かせ、タイツを履かないことにより見事な生足の脚線美が露出されている。
だから時々下着が見え、俺達男達は大騒ぎすることになる。もっともファはカミーユのものだという先入観があるから、それだけの話ではあったが。
そう、それだけのことである。
「カツも心配です。ティターンズの女性パイロットのせいで」
「若さだな、カツはいかれてるんだろ、あの娘に?」
無責任に言うと、ファは鳶色の瞳に憂鬱の色を濃く浮かべた。
前々から思っていたことだが、東洋系の娘の瞳はひどく物悲しいし、頼りなくはかなげである。それは美しい。どこか惹かれてしまうのだ。
「元気を出せよ、ファ」
と肩を叩いてやっても、ファは肺腑の奥からため息を吐くだけだった。
「はい、そうします。中尉」
漆黒の髪と白い陶磁器のように滑らかな素肌を持つ少女は、ただ元気なく返事を寄越した。
ベッドに寝転がってまどろんでいる間、夢を見た。
夢の中では、ファはやけに献身的であった。寝そべる俺の股間に舌を這わせ、暗い部屋の中でも神秘的に白い肌を震わせていた。濡れた口内に収まった俺の怒張は、とっくに固く、太く、たくましく変身を遂げ、ファの唾液でベトベトになっている。
「う、うん……ん、ん、んっ、あ、ああん」
熱い熱い火のような吐息を吹き吹き、怒張を舐め回す。また蛇のような舌が絡みつく。ファ・ユイリィはエゥーゴの制服のまま、奉仕を続けていた。
ただしゃぶりながら、ファは欲情していた。身体を振り振り、腰を揺らしながら、一気に体温を高めて、そう炎のように。
「あ、ああ、も、もぉ……」
声をかすれさせて、振り絞って、絶句した後は、ピチャピチャ舌を鳴らせて舐め続けて、沈黙と共に。
もう、何だと言うのか。どうしたいというのか?
「もう、何だって?」
意地悪く聞くと、ファは身体を震わせて俺を見つめながら、
「ほ、欲しいんです、中尉が」
「欲しい?」
「え、ええ」
「自分でやってご覧」
少女はにっこりと嬉しそうに微笑んだ。
似つかわしくもない、いやそれともやはり似合っているのか、とにかく妖艶な笑みのまま、いそいそと身体を起こして、怒張に手を添えながら跨るのだった。
少女のそこは愛撫の必要などなく、薄い恥毛の間にある桃色の亀裂は、透明なしずくが溢れんばかりである。
それも充分な程に。
指で亀裂の上の方にある突起に触れると、
「あ、あん」
ファはとうとう濡れた声を洩らした。白かった肌がほのかに赤く染まり、怒張を握り緊める手に力が入った。
そのまま己の幼い亀裂に、怒張の幹をなすりつけるように腰を揺らし出した。
「お、おおっ!」
不思議な感覚に俺は声を上げた。
いまだ少女の体内に侵入していないというのに、この感触は何だろう。怒張の先端が亀裂の筋に引っ掛かり、微妙な感じを生み出している。
互いの腰の動きがそれを加速させた。
「あっ、あっ、ああっ」
押し殺すような声がファの快感を示していた。
「入れて、いいですか……」
だが我慢ができなかったらしく、返事を待たずに怒張に手を添えたまま、ファは腰を沈めた。ぬぷっという卑猥な音と共に、俺は彼女の体内に飲み込まれてしまった。
「う、ううっ、熱い」
「あ、やん、やぁん、ああん!!」
ファは、俺のことなど忘れてしまったかのように、ただ一心不乱に動き続けていた。自分の快感だけを追い求めて、貪欲なほどに。
その姿はある意味、どこか物悲しくも美しく思えた。
明日をも知れない戦場の中でこんなことも許されるのだろうと、俺は夢の中で思った。もちろん夢だと判る自分が、情けないことこの上ないのだが。
そんなことを思っている間に、俺は果てた。果てて、ファの中に体液を放っていた。それなのに満足できないのか、素肌に汗を浮かべたファ・ユイリィはまだ俺の上で蠢いていた。
「あっ、ああっ」
短く叫んで。
「あん、ああん!!」
身体をほのかに赤く染めて。
目が覚めて、気持ち悪く汚れたパンツを洗濯機に放り込むと、嫌悪感が募った。いい年をして夢精なんかしてしまった自分に対してである。
最後に生身の女をいつ抱いたか、もう忘れてしまった。確か月のグラナダの酒場女だったような気がするが、定かではない。
思えばカミーユではないが、アーガマには女が多過ぎると思う。
鋼鉄の女エマ中尉、アーガマを飛び出してしまったレコア少尉、そしてファ。
前の戦争にはなかったことだ。
「男が死に過ぎて、腑抜けばかりが残ったのさ」
自嘲気味に呟いた。
「なあ、ロベルト、そうだろ?」
先に逝ったロベルトは、もちろん答えてくれはしなかった。脳裏にジャブロー攻略失敗直後にたどりついたケネディ基地の青い青い空が思い出され、不意に嗚咽がこぼれた。
ゼダンの門。そんな名前はどうでもよかった。
俺にとっては、独立戦争の聖地であり、熱い思いと苦い思い出の交差するア・バオア・クーという場所だった。
「中尉は昔あそこで戦ったことがあるんですよね?」
屈託もなく、ファが俺に話し掛けてきた。
「ああ」
「……さぞかし辛い戦いだったんでしょうね?」
しかし返事を待たずに、ファは俺を置いて、休憩室に入ってきたカミーユの方へいってしまった。
……だけどな、ファ。ア・バオア・クーだけじゃないんだよ。あのアクシズだって、俺にとっては!
前の戦争が終わって、命からがらアクシズに逃げ延びて。そこで過ごした俺の青春の日々。
辛いことばかりではなく、どうやって再び独立を勝ち取るために戦うか、酒場で騒いだ楽しくも懐かしい時が思い返された。
そのアクシズが地球圏に還ってきて、エゥーゴと共闘する動きを示しているのは、運命の不思議としか言いようがない。これを知ったらロベルトだって、呆然とするだろうと思った。
「まったくさ」
「……どうしたんです、アポリー中尉?」
「何でもないよ、ただ呟いただけさ」
不思議そうな顔のカミーユに、この俺の思いを話したところでどうにもなるまい。
「だから、アクシズを信用しちゃいけないって言ってるんですよぉ!」
子供っぽく喚くカミーユ。今更ここで騒いだところで、エゥーゴの路線変更はない。それに最も複雑な思いなのは、我々旧ジオン出身の者達なのだ。
だが、それをたかが十代の少年に理解しろというのは無理ではないのか。
そもそも、カミーユやカツ、ファみたいな少年少女が、アーガマの一員として戦っている現実そのものがおかしい。絶対、間違っていると思った。
俺はどうやら欲求不満らしい。戦場を迎えるに当たって、性欲は高まるばかりだった。ハサン先生からもらった薬の効き目は薄く、まったくと言っていいほど意味がないのだった。
しかもその性欲の対象が、なぜファ・ユイリィなのかが自分でも理解できなかった。
例えばこうだ。
「いや! 中尉、いやですっ!!」
俺は無言で、嫌がるファを押し倒し、その肌の匂いを嗅いだ。
しばらくその香りを楽しみ、思いきり吸ってやった。時折、抗おうとするファの手首を押さえつけ、
「ほら、叫べよ! もっと叫べよ、うん?」
「や、やあーっ!!」
平手で頬を二三発叩けば、ようやく黒髪の少女は力を弱めた。そこで彼女の胸元に手を掛けて、一気に制服を脱がすことにした。
「ひ、ひっ!」
脅えて、瞳を涙で潤ませたファが愛しかった。その震える首筋に唇をつけて、柔肌を吸う。
「あ、や、やあっ」
ファはかぶりを切る。
背中からまだまだ小さい尻へ唇を移動させる。ファは震え、そのくせ身体をひくひくと蠢かすのだった。
「お前は、どうして足を剥き出しにしているんだ? みんなに見られたいからか?」
「あ、ああっ!」
「そうなんだろ、露出してみんなの視線を、みんなに見られるのを楽しんでるんだろ? 違うか?」
「ち、違います、違うんです!!」
それには構わず、盛り上がった曲線の頂上に唇を寄せた。割れた谷間の奥、薄い体毛の間から、透明な泉が湧き出している。
それに舌を近づけ、少女の蜜を派手な音を出して啜った。
「や、や、やあ、いやあ!!」
ファの泉は恐ろしく美味である。濃厚で、舐め取るうちに次第に粘り気が増していく。
更に舌を潜り込ませ、肉の襞の奥へ奥へ進む。これ以上入り込めないところまで到達し、ざらざらする感触を楽しんだ。
ちゅちゅと音を立てて、ファを飲む。抵抗する力は今はまったくなく、舌の蹂躙に身を任す肢体は痙攣するばかりだ。
「は、はぁ、はぁ、ああ、ダ、ダメ、だめえっ!!」
愉悦の声が聞こえれば頃はよし、準備万端という訳だ。
充分湿ってぱっくり開いた亀裂に、怒張を押し当てた。ゆっくりクレパスを開いていくと、
「あっ、あっ、あっ!!」
背を反らして、ほのかに肌が赤く染まった。早くも柔肌の締めつけが強くなり、俺を包んでいく。遅い抽送でもファは悦び、今度は自ら尻を振り出した。リズムが早くなり、別の快感が訪れた。
俺はファを犯す悦びに、ファは俺に犯される悦びに、二人して悶えているのだ。
危うく俺は達しそうになった。ファの尻を押さえて動きを止めると、
「……?」
涙目の少女は不審そうに俺を振り返った。動きが止まってしまったことが、不満の顔つきなのである。
そこで俺は、白い尻をピシャッと叩いた。
「ああ!」
また一つピシャリ。
「あ、い、痛いです」
憐れみを乞う声に興奮して、二回三回と尻を張った。
「い、痛い、痛い!!」
とうとうベッドに顔を伏せてしまった。痛がるのにまったく止めさせようとしないのだ。それどころか、怒張を包むファの花芯は打ち震え、新たな蜜を滴らせていく始末なのである。
「売女め、この娼婦め!!」
俺は内から込み上げてくる激しい衝動に駆られるまま、ファを罵倒した。散々に罵倒してやった。
ファは首を振るが、涙声で何かを呟くだけで、凌辱の嵐の間を漂うだけである。
「許して、許、あっ、してえっ、あん、ああん……」
再び突き始めると、もう喘ぎ声だけになる。時折、尻を赤くなるほど叩いて、高い声で哭かせてやった。
「あ、いい、いいのぉ、あっ、感じるう!!」
結局、極まったファの背中に放ったところで夢は終わった。
戦争の神は、そう無慈悲ではないらしい。俺がことを終えるところまで待ってくれたからである。その証拠に、目を開いて時間を確認しようと思ったところで、ブリーフィングルームに集まるよう指示が出された。
次の作戦は、ア・バオア・クー、いやゼダンの門にアクシズをぶつける作戦の援護だった。衝突から逃げられないと悟ったティターンズの艦艇が、ゼダンの門から脱出するのを食い止めるのである。
「要はモグラ叩きの要領さ」
柄にもなくそう言うと、気のせいか、ブリーフィングルームの連中が落ち着いたような顔になった。
「モグラ叩きね」
カミーユが首を振り、出ていく。あの世代はゲームを知らないのだろうか。
「援護よろしくボティ」
「了解、アポリー中尉」
ボティやトリッパーに声を掛けているうちに、ファを見失ってしまった。
俺が守ってやる、と言いたかった自分に気づいて、ふと俺は愕然とした。
守ってやる? 俺がファを?
それは俺が、ファを愛してるってことか?
年端もいかないファ・ユイリィを?
この俺が、一年戦争だって生き延びてきた、このアポリーが?
単なる欲望の対象だろ、アポリー、しっかりしろよ、ロベルトに笑われちまうぞ。
「アポリー中尉、何してる?」
「……す、すまん」
うっかりしたことに、ブリッジのトーレスに叱られてしまった。
「発進願います」
「了解、リック・ディアス発進」
ゼダンの門目掛けて俺は発進した。
混戦が続いていた。
叩いても潰しても、ティターンズは無限に戦力を持っているような錯覚を感じた。これでは、一年戦争当時の連邦である。
「ちぃ!」
よたよた出てきたハイザックを落とし、俺は戦場を疾駆する。
それでもティターンズ艦隊はゼダンの門から思うように出られず、釘づけになっていた。大方作戦通りになっていて、もうアクシズが間近に迫ってきていた。
「アポリー中尉!」
ボティがお肌の触れ合い会話で話し掛けてきた。
「おう、そろそろいい頃だな」
「弾あります?」
「そろそろ補給が必要だ」
「こっちもです」
「カミーユとファは無事か?」
「見かけてませんが」
「よし、衝突も避けられないだろうし」
「アーガマを支援しますか?」
「そうだな」
全機をまとめ、アーガマ付近へ引くことにした。
ファはともかく、カミーユについては心配などする必要がないだろう。次々敵が新型を繰り出してはいるが、Zガンダムは今のところ敵なしであったからだ。
それより、ファの乗るメタスの方が心配だ。
引き上げる途中、素早い動きの機体を二機見つけた。
「あれは……Zガンダムと敵か!」
どっちかと言えば昆虫型の敵機がやや、Zガンダムを押していた。考えるもなくそちらへ向かうと、俺より先に黄色いメタスが二機の間に割って入っていた。
「フ、ファ!!」
愚かなことに、メタスは身を挺してZを守ろうとしたのだ!
「よ、よっせえ!!」
俺は絶叫した。奇跡が起きて、リック・ディアスは立ち尽くすだけのファの前に躍り出ることができた。だが次の瞬間、昆虫型の敵機から放たれたビームがリック・ディアスの腹を貫いた。
ロベルト、俺もそろそろそっちへいくぜ……
計器がスパークするコックピットの中、ふとロベルトの顔とケネディ基地の青い空が思い出された。
ア・バオア・クーの側、みんなの元にいけるかと思うと、死ぬこと自体は怖くはなかった。ただ不満なのが、ファの顔だけが思い出せなくなってしまっていることだった。
(了)
亭主後述・・・
Zガンダムの映画版記念!(笑)
赤い彗星の従者、アポリーとロベルトについて考えてみました。
思えば、アクシズにいかなければ、また地球圏にこなければ、変わった人生だったんでしょうねえ。
本当に不幸なことです、シャアなんぞに騙されなければよかった……のかな?(笑)
ロベルトが死ぬシーン、アポリーが涙ながらにシャトルを発進させる回は、秀逸です。私、大好き。
映画版では再び美しい「戦死」を見たい訳なのです。