ダブリンの夜 ~機動戦士ガンダムZZ~


 両手で踏ん張らないと、身体が崩れてしまいそうだった。下からの突き上げが、ますますひどくなるからだ。
「ううっ・・・う、う、ううっ!!」
 タオルを噛んで、声が洩れないように必死に堪える。それでなくても夜の病院では、音が鋭く響いてしまうのだ。
「ファ、ファちゃん、キスいいかい?」
「・・・う、う、うう、だ、だめ・・・キスは嫌です・・・あん、あ、あうううっ!」
 医師のキスの求めに首を振って拒否をした。諦めた医師が、私の白衣の上から強く乳房を握りしめた。キイキイと医師の座る椅子が耳障りな音を立てる。
 辺りを警戒しながらも、密やかな情事が続く。
「ん、んう、あううう、ううっ!!」
「・・・ああ気持ちいいよ、ファちゃんのあそこ・・・ああっ!!」
「あんっ!」
 医師が私を貫いたまま、机の側のベッドに押し倒した。後ろから犯される格好のまま、私は目をつぶって快感に耐えた。今度は、私が身体を預けたベッドがミシミシ揺れていた。
 にゅぷ、にゅぷっ、にゅぷ、
 医師が、ペニスを出口まで引き抜いて私の反応を窺うと強く押し込んでくる。
・・・だめよ、だめだったら、ファ!・・・
 私は自分に言い聞かせる。
・・・声、出したらだめっ!・・・
「深く入れると、気持ちいいだろ?ほらほらっ!!」
 調子に乗った医師がリズムを取る。ペニスが私の1番敏感な箇所を突いた途端に波が来た。
「うううっ!!ああん、あ、あ、あ、あ、あうううっ!!」
・・・し、死んでもいく、なんて言わないから、あ、あ、あ、あ、も、もうだめえっ、ごめん、ごめんね、ごめんね、カミーユ!!・・・わ、私、いくかも、いっちゃうかも!・・・あ・・・あ・・・あ・・・カミーユゥ!!・・・
 医師が射精した。体内に入った避妊具を通して、彼の熱い熱い体液が注がれるのを感じていた。
「あ~気持ちよかった・・・なあ、ファちゃんはどうだった?」
 避妊具をティッシュの中に丸めながら、医師が聞いてきた。いつもの問いだった。
「はあはあはあ・・・す、すごくよかったです。」
 こう言えば医師の機嫌とお手当てが良くなる。生活のためなら、私はこんなことまでするのだ。
「そうかい、嬉しいなあ・・・じゃあ、これいつもの。」
 医師が差し出した食糧配給のチケットと何がしかの現金を私は受け取った。
「すいません・・・」
「いやあ、いいんだよ。こっちも気持ちいいし、ファちゃんも喜ぶし、ギヴアンドテイクだから。・・・でも考え直してみない?俺の愛人にならないかい?!」
 これもまたいつもの問いだった。私はチケットと現金をしまいながら、鏡で化粧と髪の毛を直していた。
「いえ・・・カミーユがいますから。」
「・・・だって植物人間じゃないか、直る見込みも無いし、あきらめて俺の所に来いよ。なあ?」
「そんなことはありません!直ります!!」
 私は怒りに任せて医師の方を向いた。
「おお、こわ!・・・判ったよ、じゃ、また頼むな。」
「・・・はい。」
 廊下に出た。
 もうすぐダブリンは冬になる。冷えた空気が火照った身体に少し気持ちいい。
 私はカミーユの部屋に向かった。

 ずっと眠り続けるカミーユの顔をそっと撫でていた。
・・・カミーユ・・・
 ずっとこんな調子だった。
 これでもサイド1にいた頃から比べるとかなりいい方だ。
 グリプス戦役を終えた後のカミーユは・・・言いたくないけど、まるで植物人間だった。シャングリラコロニーの医師達ですらお手上げだった。
 その後、ネオジオン軍との戦闘で搭乗していたメタスを破壊された私は、何とかシャングリラに帰りつくと、カミーユの世話をするという生活になった。
 幸いというか何というか地球に降りるチケットをエウーゴの闇のルートで入手できた。グリプス戦役の英雄カミーユ・ビダンのことはみんなが知っていた。誰もがお気の毒に、と世話人の私に言うのだった。
 エウーゴのルートでダブリンの一流病院に入院したのはいいのだけれど、お医者さん達ですらカミーユにはお手上げだった。長い時間、カミーユを診察すると私の方を見て首を横に振るばかりで、何も変わらないのだった。
・・・虚ろな眼で天井を見つめ続けるカミーユ・・・
 それでも時間が少しずつカミーユを癒していくような気がした。
 寝言を言うようになったのだ。
「エマ中尉・・・レコアさん・・・ヘンケン艦長・・・カツ・・・サラ・・・」
 女の人が多いのも、ご愛嬌だ。みんな死んでしまった。その人達のことを考えると私も悲しくなってしまう。
・・・だけど、だけど・・・
 夜苦しそうに汗をかきながら、カミーユはこんな寝言まで言うのだ。
「フォウ・・・行かないでくれ・・・フォウ・・・ロザミィ・・・ロザミィ・・・死なないで・・・フォウ・・・」
 私は泣きたくなる。カミーユは夢の世界でも「ファ・・・」と私の名前を呼んでくれたことがないのだった。まして夜通し私が看護してるなんて知らないに違いない。
・・・カミーユ・・・フォウって誰?何でロザミーのこと思い出すの?そんな人達より、私のことを思い出して・・・ね・・・カミーユ?・・・お願い・・・ファって呼んで・・・ファ、愛してるって言って・・・
 心の中で呼びかけたって、何も始まらない。カミーユが苦しそうに喘ぐのをじっと見守るだけだ。タオルで汗を拭いてあげるだけだ。
「今日ね、カミーユ・・・初めて患者さんからプレゼントもらっちゃったのよ。」
 眠っているカミーユに向かって囁き続ける。私は今、ダブリンの病院で看護婦見習の修行をしていた。病院に入院させるだけでは生活ができなかった。ささやかなエウーゴの援助はあったけれども、それだけではとても生きていくことができなかった。
・・・だから、だから、身体を売るような真似をして、医師に身体をひさいで生計をたてているのよ・・・ね、判って・・・カミーユ・・・
 それにいつか戦争の終わる日もくるだろう、看護婦の資格を取っておけば使える日もくるだろう。
「あの患者さん、えっちなのよ。お尻触ってくるんだから・・・でも可愛いブローチもらっちゃったんだあ・・・」
 もう夜の11時だ。私は小さい声で話しかけながら、目をつぶっているカミーユにブローチを見せた。
「これ・・・可愛いのよね・・・チューリップかしら・・・あの人、私に気があったりして・・・もういやん!」
 思わず1人でしゃべって、1人で赤くなって、カミーユの肩を叩いてはっとする。だけどカミーユは少しだけ身体を動かすと、また静かになってしまった。
・・・カミーユ・・・
 虚しくなった。だがこれが私の日課だった。起きていようが寝ていようが、カミーユに語り続けること。これも私がカミーユにできる、数少ない治療なのだった。
「・・・フォウ・・・フォウ・・・死なないでくれ・・・フォウ・・・」
 また寝言が始まった。悔しかった。悲しかった。私は涙をこらえながら、そうっとカミーユの毛布をめくった。そして汗ばんだパジャマを脱がす。暖かいお湯につけたタオルでカミーユの身体を拭くのだ。寒い季節でも、病院の中は完全暖房だから心配ない。
「フォウ・・・いかないで・・・フォウ・・・」
 肩を拭く。
「・・・サイコガンダムに乗ってちゃだめだ・・・」
 首と胸を拭く。
「止めろ!・・・フォウ・・・止めるんだ・・・」
 お腹を拭く。
「あっ・・・」
 私の手が止まる。カミーユのペニスが屹立していた。
・・・フォウのことを思い出しているのね・・・私じゃなく・・・
 ポタッと熱いしずくが私の腕に落ちた。
・・・フォウを考えているのね・・・
 私は固くなっているペニスをタオルで拭いた。タオル越しにカミーユの熱い脈動を感じる。そこだけがカミーユの生きている証のようだった。
・・・カミーユ・・・
 そっと唇をペニスに近づける。
・・・ちゅ・・・
「フォウ、フォウ・・・うっ!」
 身体を拭っても反応のなかったカミーユが呻いた。びくっと身体を震わせたのだ。
 ちゅ、ちゅっ、ちゅうっ、
「ああ・・・フォウ・・・」
 舌先でカミーユの先端をちろちろした。カミーユの味がしている。私は切なくなって右手を添えて咽喉まで含んだ。
・・・ああ、カミーユ・・・カミーユ・・・こんなに熱いのに・・・こんなに固いのに・・・何で?何で起きてくれないの?・・・ああ・・・
 ちゅぱ、ちゅぽ、じゅぽっ、
 私は身体を上下させ、舌をペニスに絡みつけながら愛撫をした。だんだんペニスが固くなり、苦い液体が滲んできていた。
「ん・・・んうっ・・・ん・・・んっ・・・あ・・・んうっ、ん、ん、ん、んっ!」
 苦しくなってきた。辛くなってきた。私は愛撫を続けながら、スカートの中に左手を入れて下着の上から自分自身に触れた。
 ぬちょ・・・
 指で触れるとすでに私も濡れている。私はこんなに悲しいのに、さっき医師に抱かれたばかリだというのに、もう濡れているのだった。
「ああ・・・カミ-ユ・・・ひどいわ、私をこんなにして・・・ひどい、ひどい!」
 口を離してカミーユを責めながら、私は自分自身の濡れたそこへ指を潜りこませる。くりっくりっとした固い突起をダイヤルを捻るようにいじるともう我慢できなかった。
・・・私、カミーユが欲しい・・・欲しいのっ・・・あん、あんっ!・・・
 下着の片方を脱いだまま、カミーユの上に乗った。私の唾液でてらてら光っているペニスを、ゆっくり私自身へ導いていく。
・・・もう少し・・・もう少し・・・あん・・・ああっ!・・・
 入った。入ってしまった。私はカミーユを犯しているのだった。
「あん!あんはっ・・・ああ・・・カミ-ユ!カミーユ・・・こんなに好きなのにい・・・ああ、あ、あ、ああんっ!」
 カミーユのペニスだけが意思を持っているような気がした。腰を強く振って快感を求めていく。カミーユの先端が私の奥底を突いた時、私は達した。
「あっ!ああっ!!・・・いいよ、いいよう、カミーユ!!・・・カミーユも動いてよっ!」
 求めても詮ないことと知りつつ、私はカミーユの動かない身体にしがみついた。彼を求めた。快感を求めた。まだまだカミーユのペニスは固いまま、私の体内で息づいている。
・・・まだ、まだ・・・もっと、もっとカミーユが欲しいっ・・・あう、あ、あ、あ、あ、ん、んっ!!・・・
 唇を重ねた。それでも目を覚まそうとしないカミーユに苛立ちを感じて、私は唇を無理矢理割って舌を送りこんだ。舌を捕まえて、絡めていく。
・・・起きてよう・・・起きてよ・・・ん、ん、あん、あ、熱いよ・・・感じちゃうよ・・・ああ、カミーユ・・・好きじゃない人なんかより、カミーユに抱かれたいよう・・・
「ああん・・・あ・・・私、私・・・いいよう!」
 その時、またカミーユが口を開いて寝言を言った。
「・・・フォウ・・・気持ちいいよ・・・」
 じわっと涙がにじんで、カミーユの顔がぼやけた。私を抱いてるんじゃない、夢の中でフォウを抱いているのだ。
 虚しい行為だった。カミーユは私を透して、フォウ・ムラサメと愛し合っているのだ。
「・・・カミーユのばか!ばか!ばか!!・・・でも、大好きだから、ね・・・あん、あん、ああっ!」
 上体が反っていく。不意に2回目の波が訪れていた。私は自分で乳房を揉んだ。
・・・あ、あ、あ、すごい、すごい、あ、あ、すごいよう、あん!!あ、あ、あ、ああっ!!・・・
 来た。絶頂が来た。白い光に包まれて私は達した。宇宙を漂う星くずになったような気がした。
「ああ、カ、カミーユッ!!あ、いくうっ!!」
 大きくペニスが膨らんだような気がして、カミーユが中で射精した。ちっとも構わなかった。お尻を振って、私は最後まで快感を貪りたかった。
・・・いいの、中に出されたって・・・カミーユが気持ちよければ・・・私もいいし・・・
 生理など、ここ1年程満足に来やしない。グリプス戦役の途中から、私の身体は変調をきたしたらしい。それにもし、カミーユの子供を宿したとしてもそれはそれで構わない。カミーユが元気にならないのなら、子供をカミーユの代りに育てるだろう。それはそれで素晴らしいアイデアのようにも思えた。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」
 カミーユのペニスが力強さを失っていく。身体を離してキスすると、私はタオルでもう1度カミーユの身体を拭き直した。

 シャワーを浴びていたら猛烈に悲しくなってきた。
・・・これって、これって私の自慰行為じゃないの・・・何やってるの、ファ・・・
 私はカミーユとこうする度に泣くのだった。

「何を夢見ているの?」
 カミーユの頬に自分の頬をすり寄せる。ほのかに暖かい頬がたまらなく愛しかった。たとえカミーユが私を思い出さなくても、構わない。このまま、ずっと側にいてあげる、だからたまには私を見て、ね、カミーユ・・・
 精一杯カミーユを抱きしめて、私は下着姿のまま同じベッドに潜りこむ。カミーユがベッドを暖めていてくれていた。寒いダブリンの気候も、これなら平気だった。
「余裕ができたら、暖かい南ヨーロッパでゆっくり治そうね・・・」
・・・ああ、こうしていると昼間の疲れもどっか飛んで行くよ、カミーユ・・・
「私を見てよう、カミーユ・・・」
 そう、もう死んだフォウとかロザミィとか、エマ中尉、レコアさんのことなんて忘れて・・・私を見て・・・クワトロ大尉もカツもみんないないの、私だけが側にいるの・・・
 私はギュッとカミーユに抱きついた。そしてキスをした。
「おやすみ、カミーユ・・・」
 こうして、朝までささやかな眠りに落ちるのだ。

 月面のグラナダ基地から木星に出発するジュドー・アーシタとルー・ルカを見送ったばかりのブライト・ノアは、地球から来た連絡文書の山を見てうんざりしていた。
「?」
 その中にただ1つ、ピンク色の可愛い封筒があったのだ。殺風景な書類の山にひどく似つかわしい手紙だった。
 妻のミライからかな、と思って差出人をみるとファ・ユイリィと書いてあった。
 手紙にはこう書いてあった。

 拝啓 ブライト艦長様

 戦争後、おかげさまでカミーユは体調が良くなり、今では少しくらいの距離なら走れるようになりました。
 これからは、カミーユと手を取り合って生きていこうと思っています。
 彼の体調次第ですがもう1度、宇宙に上がってみようとも思います。その時はどうかよろしくお願い致します。

 地球より愛をこめて ファ・ユイリィ&カミーユ・ビダン

 1枚のスナップに、海を背景に仲良く並んだカミーユとファの笑顔が写っていた。

 

(了)

 

亭主後述……

ZZ4部作第2弾です。実は私はZから通して、ファがあんまり好きにはなれませんでした。
子供達やカミーユを叱り、ヤキモチを焼くヒステリックなファをよく思えませんでした。
しかし、ZZの地球編でその印象が変わりました。
かつてガンダムで、こんな献身的なキャラクターがいたでしょうか?
精神崩壊、酸素欠乏症など、なんやかんやで廃人と化したカミーユに尽くすファ。
あの姿にはマジで感動しました。
だって健気さ爆発のフラウ・ボゥですら、後半ではアムロに見切りつけてしまいましたからね。
その意味では、「無償の愛」を貫くファ……ステキです。
だからあのエンディングはよかったなあ、と思ってます。
まあ、私の物語では彼女を汚してしまいましたが、ご容赦を。
そういやファ命のHP見たことないなあ。人気ないのかな。(涙)
願わくは「シャアの逆襲」でもMSに乗ることなく、ひっそり暮らしてもらいたいモンです。
え? 私? あ、私はあくまでルー・ルカとハマーン様親衛隊候補生。(笑)