ゴムまりのような乳房が重たげだった。そこは汗を浮かべ、揺れる度にしずくを俺の顔に撒き散らす。
指でそっと掴むと、
「あっ……ああっ……」
と声が洩れた。
顔を赤く染め、固く目を閉じる美樹。
腰を恥ずかしげに振りたてて、上を仰ぎ見る美樹。
白い首筋が見えた。
俺の体内で、止まらない衝動が走っていく。
それは。
それは、噛みつきたい、という破壊衝動だった。歯茎が鈍く疼き、牙が今にも外に出そうになる。
獣人化現象の前兆だ。
必死の思いで、それを押さえ、殺し、俺は耐えた。
耐える代わりに、美樹の細い腰を激しく揺すった。
「ああっ!! ああ!!」
跨った美樹が、その白い手で何もない空中を掻きむしる。そして声を高めて叫ぶ。
「ダメ!! もうダメえっ!! あ、ああっ!!」
そしてぴくんぴくんと震えて、いきなりどさっと俺の上に崩れてきた。
「はあ、はあ、はあ……」
弛緩する美樹の首筋に、また目がいっていた。
しかし噛みつくわけにはいかない。俺は美樹を殺したいとは、思っちゃいないのだ。
美樹をうつぶせにして、今度は後ろに回った。大きな桃のような尻を持って、ペニスを突き込んだ。
「あ……あ……」
肩で息をしていた美樹が悶えた。愛液で濡れたペニスを、根元まで押し込み、腰を振る。
「ダメ! 私、死ぬ、死んじゃう!!」
美樹が哭いた。吠えた。
何度、達しているのだろう、美樹は俺の見ている前で、いった。
「明君!! 私、私、ああ、いく、いくう!!」
首を振り、カチューシャが飛んでいった。そのまま、ベッドに沈み込み、死んだように静かになった。
「おい、美樹!」
声を掛けても返事はない。繋がったまま、美樹の身体をごろりとひっくり返してみた。
白く、眩しい身体が露わになった。
年齢の割によく発育した身体。ジャジャ馬娘の、伸び切った肢体は、美しい。
大きく、実りのある胸の果実に俺は触れた。どこまでも指が沈んでいき、離すとたちまち元の形に戻っていく。
花芯に目をやった。
濃い陰毛の間に、ほのかに赤い花芯が顔を覗かせていた。もうにじみ出た愛液は、透明ではなく白く濁りかけている。
猛り立ったままのペニスの先端を押し当てると、貝殻のような花芯が、徐々に開いていく。
「ダ……メ……」
美樹が反応した。しかし、すかさず俺は最後まで侵入する。途端に美樹が目を剥き、
「あ! ああっ!! こ、壊れ……壊れちゃううっ!!」
「じゃ、壊れちゃえよ」
美樹をいじめたくなり、耳元でそう囁いた。
「明君のバカ! あ、あ、本当に、もう、本当にダメ!!」
ぴくぴく震える美樹の唇をそっと吸った。
「ん~ ん~ ん、ん、ん、うっ、ああっ!!」
汗だらけになった美樹が、俺を強く抱きしめた。再び、目の前にある白い首筋にがぶりとしたくなった。
悪魔人間となっても、牧村美樹を愛していることに間違いはない。しかし俺の中に巣食うデーモンの血と本能が、殺戮を欲していた。
もちろん美樹どころか、人間を襲う気は、さらさらない。もしそうなったら、俺は悪魔人間ではなく、デーモンそのものだ。一体、何のために合体したのか、さっぱり判らなくなってしまう。
ただ時々、破壊欲が、何かを壊したいという、殺したいという、デーモン族の性が、無性に暴れ回りそうになる。
首筋に、がぶりとではなく唇を当てて、思いきり吸った。美樹の匂いを吸った。汗を吸った。しなやかな肌を味わった。
奥歯、いや奥歯ではなくて、不動明の犬歯が、カタカタ鳴ったような気がした。事実、犬歯が牙に変化するのを、こらえなくてはならなかった。
「ああ! すごいっ!! 明君、明君、私、また、またっ!」
大きな喘ぎ声に我に返った。ずっとしなやかな肉体を突き続けていたらしい。
絶え間ない快感の狭間に身を置きながらも、ひたすらに俺を求めてくる美樹のいじらしさに、この身が打たれていた。
親友の飛鳥了、俺をこの生き地獄に追いやった男だ、が言っていた、悪魔人間になる条件の理性、人間らしさが、デーモンの破壊本能を抑制し、愛情を育まさせていた。
「美樹……」
美しく頬を染めた美樹が俺を見つめた。快感に歪むその目尻から、涙がこぼれていく。
「どうして、泣くんだ?」
答えはなく、美樹は首を振った。ただ振るだけだった。
「美樹!!」
「明君」
美樹はようやくその口を開いた。
「何だよ、改まって」
「私の側にいるって約束して」
「どうした、そんな真剣になって」
不安そうな固い顔になって、美樹は続けた。
「茶化さないで! 真面目になって」
「ああ」
俺は美樹の迫力に気圧されていた。
「いるよ、ずっと側に」
「本当?」
「ああ、くどいぞ、美樹は」
「ありがとう、明君……私、嬉しい」
白い歯がこぼれ、美樹が抱きついてきた。笑顔を見れて、俺も幸せだった。
美樹の笑顔。これがあれば、俺は戦える。この笑顔のために、俺は明日を生きる。
「大好き」
美樹。俺の天使。
悪魔人間の俺が言うのもおかしいが、美樹は俺の天使で、愛し続けていきたい。未来永劫に渡って、愛したいと思った。
「本当に約束よ」
美樹は繰り返し、確かめるように言った。
「そろそろです」
その声に俺は目を覚ました。瓦礫の向こうに仲間が立っていた。
「奴ら、集まってきたか?」
仲間は、異形の姿をした仲間がうなづいた。こいつは植物系のデーモンと合体したらしく、人間の頭部の位置が、いやらしくどぎつい色した花になっていた。
触手を震わせて、
「はい」
「そうか」
「了……飛鳥了、いや堕天使サタンもいるのか?」
仲間はいると言った。
「ようし、悪魔人間軍団に号令を出せ!」
「はい、勇者アモン」
人間とデーモンの戦い、そして愚かにも、人間同士の戦争によって荒廃した中国大陸に、悪魔人間軍団とサタン率いる悪魔軍団が集まりつつあった。
黙示録に記される最終戦争の始まりである。
「アモン」
「どうした?」
仲間は黙って、俺が持っていた頭蓋骨を指した。
「その骨、どうなさるおつもりで?」
「これか……」
数年も前の骨。黄色に変色しつつ、ひからびた頭蓋骨だった。
眼窩の穴を眺め、
「おとなしく待ってろよ」
俺は瓦礫の間に頭蓋骨を埋めた。
「アモン、もう時間がありません」
俺を催促しながらも、仲間は待っていた。埋めてから追いついてみると、花弁を震わせて、かすかにそいつが微笑んだような気がした。
「おかしいか?」
「いえ、別に、ただ……」
「ただ?」
大きな花弁が開いて、閉じた。
「アモン、あなたが羨ましく思えます」
もう俺は返事をしながった。
美しい十二枚の白銀の羽根を持ち、デーモンに跨った堕天使サタンの姿が、遥か彼方に見えたからである。
「サタン!!」
俺は咆哮した。
最後に骨を埋めた辺りを振り返り、
「美樹、必ず帰ってくるからな」
俺は、飛んだ。
さっきの夢は、デーモンの一人、サイコジェニーが見せた幻夢なのだろう。
だがそれは、心優しき堕天使サタンが、俺にくれた贈り物なのかもしれなかった。
(了)
亭主後述・・・
♪誰も知らない、知られちゃいけない♪とか♪あれは誰だ、誰だ♪に親しんできた私は、漫画版を見つけて小躍りしたものです。
けれども、いざ読んでみて、顔が青ざめたことを覚えています。
そして思いました。こんなの、デビルマンじゃないやい!(笑)
でも、成長するにつれ、漫画版デビルマンの奥深さが、判ってきたような気がします。
人間の奥深いところには、デーモン以上のデーモンがいるのかもしれない、そう思いました。
妖鳥シレーヌ編で、美樹が見せてくれた入浴シーンにドキドキしたのは、きっと私だけではないはず。(笑)
そして「シレーヌ、傷ついていても君は美しい」というカインの台詞に痺れたのは私だけではないはず。(笑)
あのクライマックスに震えたのも、私だけではないはず。
ん? デビルマンレディー? そんなの知りません。蛇足かと思うのであります。