I Was Made for Lovin' You#1 ~太陽の牙ダグラム~

 デロイアに妖怪が現れた、民主主義という名の妖怪が。

 古き地球とすべてのデロイア権力が、この妖怪を打ち倒すため、神聖な同盟に加わっている。

 地球連邦評議会とデロイア人民解放政府、メドール州等の首相とヘシ・カルメル。

 すべてのデロイアの労働者よ、団結せよ!!

 

 昔、多くの人の魂を掴んで揺さぶったという何とか宣言を真似たビラを読んで、心が少し痛んだ。

 長期に渡って政権を握るヘシ・カルメル達デロイア人民解放政府に対する反発が、あちこちで起きていた。人々達は、サマリン博士の写真を掲げてデモをしたり、政府に対する激しいアジ演説を行っていた。

 

 曰く、「今こそ腐敗した政府に破壊を! カルメル的日和見主義ではなく、サマリン博士が理想とした民主主義を!!」

 

 その後彼等は、治安軍や警察に拘束されるのが眼に見えていた。

 

「今晩、カーディナルにいくんでしょ、大丈夫かしら?」

 新聞を置いた。妻が心配そうな顔で見ているのに気づき、笑顔を浮かべてやる。

「心配ないよ。もう出かける時間かい?」

「そうなの、孤児院の子供達の数が増えて、最近忙しくなってきたの」

 妻はそう言って、僕の頬にキスをしてきた。

「気をつけていっておいで」

 靴を履いた妻は、玄関で見送る僕に振り向いた。

「じゃ、いつもの……」

 手馴れた手つきでパジャマを脱がしていく。妻になされるまま立っていると、たちまちのうちにペニスが露にされた。

「まだこちらもお休みかしら」

 冗談めかして悪戯っぽく微笑みながら、うなだれたペニスを握る妻の瞳は、やけに輝いていた。

「うん、まだ寝てるかもしれない」

「じゃ、早く起きますように」

 言うなり、ペニスは暖かい粘膜の感触に包まれた。柔らかくって、暖かかくって、妻の口の中は気持ちいい。

 僕は快感に震えた。妻は咽喉の奥まで飲み込んだ後、ゆっくりと唇を絞りながらペニスを出していく。それの繰り返しが加速度を増していき、朝の眠気が晴れていくのだ。

 金髪の頂きの丸い部分を撫でて、

「ああ、デイジー……気持ちいいよ」

 と褒めると、嬉しそうに笑う。

 口の中から現れたペニスは、濡れて輝き、早くも固く屹立していた。

「ようやくお目覚めね」

 チュ、と舌先が触れる。そして手で握って固さを確かめた後、ペニスに唾液を吹き掛け、また奥まで含んでいく。ん、ん、ん、と一見苦しそうな音が聞こえるが、もちろんそうではない。僕を挑発する声なのだ。

 だから僕は金髪を掴み、ペニスを妻の口の中に思い切り押し込んでやる。

「ん!! んぐ、んむっ」

 ぽこんと突き出た頬の感触を楽しむ。その中に、はちきれんばかりに膨らんだペニスがあるかと思うと、ますます僕は興奮するのだった。

「んっ、んっ、ん」

 少しばかり涙目になっても、それでも口の奉仕を止めようとはしない。それどころか潤んだ瞳で僕を見上げて、訴えていた。

 今日一番優しい声を作って、囁いた。

「欲しいかい? 入れて欲しいかい?」

 咥えたまま、うんうんとうなづく。

「時間がないんじゃなかったっけ?」

「だ、大丈夫……」

 何が大丈夫なのかよく判らないが、愛妻の懇願を聞いてやらないほど僕は意地が悪くない。

「じゃ、立って。そうお尻をこちらに向けて」

 無言のまま、しかし期待に顔を赤く染めた妻は、おとなしく従った。

 青いワンピースをめくると、暑いデロイアでは無用に等しいストッキングはない。

 まだまだ発達中のお尻を包む純白のショーツを指で横にずらし、現れたヴァギナに顔を近づけた。鮮やかなサーモンピンクの亀裂の周辺は、日光浴が好きで水着姿になるのを好む妻の趣向で、ほとんど無毛状態だ。

 そこは早くも蒸れた美獣の匂いがしており、神秘の谷は、早くも泉を湛えているようだった。

「いや、いや、匂いを嗅いじゃいや」

 くんくんと鼻を鳴らした僕に首を振ってみせた。弱々しい抗いの声を聞くより、悦びの喘ぎが聞きたいと思った。

「ようし、じゃいくよ」

「ん、あっ、あっ」

 夜ならばもっと時間を掛けて愛してやるところだが、時間がないから仕方がない。

 蜜で濡れるヴァギナにペニスを当てて、いきなり挿入する。そして未だに狭い肉壁の摩擦を跳ね返しながら、突き進んでいく。

「あ、あんっ、ああっ!」

 ペニスの進撃に身悶えする妻の身体が反った。そうして一番奥深い場所に到達して、

「奥まで入ったよ」

「ん、んっ、ク、クリン、すご、凄いのぉ、わ、私」

 もう、妻は言葉を発することができないでいた。

 お尻を掴んで一気に律動を開始する。

 ヴァギナから現れては吸い込まれるペニスはいよいよ濡れ、白く濁った蜜に鈍く輝くのだった。

「あ、あ、ああん」

 薄桃色に染めた頬も悩ましく、せっかくきれいに整えてあった金髪が振り乱れる。デイジー・オーセル・カシムは、さながら取れたての水蜜桃のように美しかった。

 睾丸の辺りから痺れ始めた快感のさざなみを堪え、細い腰を引き寄せて、

「デイジー、感じるかい?」

「い、いいのぉ、クリン、いいのぉ、気持ち、あっ!」

 玄関に預けた腕が、外れそうになったのだ。

 再び体勢を整えて持ち直した華奢な身体を支え直してやる。そして片足を高く持ち上げて、更に深く挿入する。

「あっ、ああっ」

「……ワトキンスに聞こえちゃうよ」

 妻を送るために外で待っている執事のワトキンスが、僕等のしていることを知ったら一体どう思うだろうか。彼はどんな顔をするだろうか。

 囁きの効果はあった。ヴァギナの締めつけがきつくなったのだ。同時に脅えた眼差しで振り返るものの、ピストン運動を続けるから、

「んっ、あんっ、あんっ」

 少し小声になった。

「い、意地悪言わない、でぇっ」

 持ち上げた足の根元で僕を咥え込むヴァギナは卑猥な音を発するから、僕は止まらない、止められない。

 妻を突く、突く、突く。唇を貪って吸い、彼女も吸い返す。そして汗が飛び、長く美しい金髪が舞う、ダンスを踊る。

「ん、んっ、んっ、私、私、いきそうなのぉ!!」

「僕もいきそうだよ、デイジー」

 急速に昂ぶりを覚えた。背筋を快感が貫き、そろそろ限界という時、

「あっ、い、いっ、いくぅ!!」

 妻ががくがくと身体を震わせた。達したのだ。

 出勤前のお洒落した妻の身体の奥に出す訳にもいかないと思った。引き抜いたペニスを、力の抜けてしまった彼女を抱き起こし、その唇に含ませた。

「う、うっ、うぐ」

 妻はお尻をぺたんと玄関の床に着けたまま、ペニスをしゃぶった。射精する間も吸い続けられたから、思う存分放つことができた。

 終わった後、精液を飲み干した妻はペニスを舐め続ける。まるで僕のすべてを味わうように、一滴も残さず、清めるのだった。

 と、その時、ためらいがちな声が聞こえた。

「クリン坊ちゃま、奥様? ワトキンスでございます」

 妻は出勤時間ギリギリだったのだ。彼女は顔を赤らめて、そそくさと立ち上がった。

 

 妻とワトキンスを見送った後、シャワーを浴びてから農園に出てみた。集まってきた小作頭達の報告を聞いて、異常はないか尋ねてみる。

 穀物、果実、紅茶、コーヒー、乳製品とすべて予定通りの進行だった。

「判った。じゃ今日もよろしく頼む」

 頭を下げる彼等に見送られると、それだけで午前中は終わりになってしまう。メイドの作った昼食を味わった後、小作頭の一人が話があると言ってきた。

「賃金交渉は、終わったはずだけど?」

 応接室に通されたことで緊張しているのかもしれないと思って、小作頭に冗談を言ってみた。そこでようやく緊張が解けたようで、紅茶を飲むと彼はこう言った。

「旦那様、デロイアはどうなっちまうんで?」

 小作人の大半の意思を代表して、農園の主人である僕に聞きにきたと言う。

「……さあ、僕にも判らないな。カーディナル周辺は騒がしいようだけど」

「また戦争になっちまうんですかね?」

「……戦争か。みんなはどうなの? どう思っているの?」

 小作頭は朴訥な口調で、戦争など誰も望んでいない、ただ戦火に巻き込まれることが不安です、と言う。

 そしてこの農園の労働条件がよく、ずっと皆働きたいんですと、農場主である僕が嬉しくなるようなことをつけ加えてくれた。

「僕にも異存がない。みんなによく言ってくれ、普段通りやってって」

 安心したような表情の小作頭が、何度も頭を下げるのには閉口した。

 時計を見ればもう夕方である。今晩はカーディナルで飲む予定だったことを思い出し、妻の帰りも待たず出かけることにした。

 

 待ち合わせ場所になったカーディナル近郊の酒場は、煙草の煙と汗の匂いと、そして懐かしい顔で満ち溢れていた。

 ロッキーはキャナリーと結婚して二児の父。兄の自動車工場を手伝って、今は二号店の店長だ。キャナリーは、今三人目を妊娠中とかで今日はきていない。

 チコは親父さんの後を継いで修理屋さん。壊れた農機具を直してもらうことがよくある。ナナシもジョルジュも彼の店に出入りしたり、農園の繁忙期には僕のところを手伝ってもらうことがあった。

 ビリーはカーディナルの大学を目指している受験生だし、ハックルに至ってはデロイア治安軍に復帰し、工兵部隊に所属しているということだった。

 

 みんな、変わらない。いや、変わらないように見えるのは、上辺だけかもしれない。

 よい夫のロッキーとその妻キャナリー、経営者というよりは町工場の親父さんになったチコを見ていると、何だか微笑ましくなる。

 冗談を言ってビリーに突っ込まれて、怒り出すジョルジュもなだめながらもからかうようなナナシ、爆笑するハックル。

「なんば言うとね、このオジンは!!」

 今は軍曹になったハックルが、

「ジョルジュさん、僕じゃないですよう!」

 掛け合いは、昔と変わらない様に見えるが、牙はもうそこにはない。折れてしまったのだ。

 

 太陽の牙はもう存在しないのだ。

 

 僕の農場でできた赤ワインを静かに味わっていると、ロッキーが肩を叩いてきた。

「どうしたい、クリン。農場はうまくいってんのかい?」

「何とかね。とんとんかな」

「噂じゃ儲かってるらしいじゃないか」

「そんなことはないよ、ただ赤字が出てないだけさ」

 これは本当だった。種や肥料に飼料、そして人件費と経費を払えば、二人で暮らせるのがやっとの思いなのだ。 それでもロッキー達と比較すれば、いい暮らしなのかもしれない。

「キャナリーは元気?」

「おお、ここだけの話、怖くなったぜ」

「昔より?」

「そう、昔より!」

 そこで僕達は大爆笑になった。すると聞きつけてきたジョルジュが、

「デイジーちゃんはきれいだったばい」

 何も言えずに苦笑していると、

「あ~悔しかばい! もうやってられんばい!」

 とボナールの方言で帽子を叩きつける。ジョルジュは早々と酔っているのだった。

 その時、酒場の入口が賑やかになった。顔を向けると、そこには酒場のオーナーのバックスさんとJ・ロックさんがいた。

 驚く僕達の側に二人はきて、

「牙の諸君、一瞥以来だな」

 と相変わらず深みのある声で言う。

「J・ロックさん、お元気でしたか!」

 迷彩服こそきてないが、彼は昔と変わらず精悍そうな顔のままだった。

「バックスのとっつぁんも久しぶり」

「ロッキーも変わんねえな。と、髪は薄くなったんじゃねえのか」

 酒がうまかった。美酒に酔った。もっともデロイアのワインにではなく、苦しかったがよき思い出が、僕達をノスタルジックにさせるのだ。

 

 夜も更け、チコとジョルジュはつぶれてしまった。ナナシとジュースだけを飲まされていたビリーも、うつらいつら居眠りをしていた。

「クリン、農園の経営はどうかな?」

 デロイアの星のリーダーだったJ・ロックさんがボトルを傾ける。バックスさんとロッキーとハックルと一緒にそれを受けた。

 もう僕を含めて5人しか起きていない。

「さっきもロッキーに言ったんですけど、どうにか食べれてます」

「謙遜か。クリンの農場は破竹の勢いだって聞いたぜ」

「バックスさん、それは誤解です」

「君に頼みがある」

「何でしょう? 僕にできることなら何でもやりますよ」

 4人が顔を見合わせる。それを見て、今更ながら気づいた。誰も酔ってなどいなかった。ロッキーすら口を湿らす程度にしか飲んでいなかったのだ。

「人を独り雇って欲しい」

「独りなら余裕はありますけれど」

 季節労働者かなと思うが、見当は大体外れることの方が多いものだ。そしてこの時もそうだった。

「……ザルチェフを雇って欲しいのだ」

 J・ロックさんの隻眼が光ったような気がした。

「だって、少佐は刑務所の中でしょう!」

 禁固30年の刑がたとえ恩赦になっても、後10数年は塀の中のはずだ。

「シーッ、声が大きいです、クリンさん」

 ハックルが慌てて言う。そもそも彼は治安軍の人間だったはずだ。衝撃とアルコールで頭をくらくらさせながら、詰問すると、

「ザルチェフ少佐の身柄は治安軍が引き取ったんです」

「そう。そしてこの間我々が脱獄させた。彼をしばらく匿って欲しい」

 J・ロックさんの言葉に声が出ない。

「まさか……また戦うんですか? おい、ロッキー!」

 眼を閉じたロッキーの胸倉を思わず掴んで叫んでいた。

「お腹の大きくなったキャナリーはどうするんだ! 2人の子供は! 自動車工場は!」

「カルメルは堕落した。誰かがデロイアを救わなくてはならない」

 J・ロックさんが低く言い、バックスさんもハックルも首を縦に振った。

 僕は……込上げる涙を堪え切れずに泣いた。我慢できずに泣いていた。

「サマリン博士が生きていれば、恐らく同じ行動を取っただろう。クリン、君に反政府運動に加われと言っているのではない。ザルチェフを預かってくれるだけでいい。もちろん危険を承知で頼んでいる」

「……雇うだけならいいですよ。ただ有名人だから、変装してもらいますけれど」

 J・ロックさん、バックスさんとハックルが安堵した顔を浮かべる。ただロッキーの表情だけが曇っていた。

「助かりますよ、J・ロックさん、バックスさん、よかったですね」

 ハックルが加わっているとすれば、軍をも巻き込んで結構大掛かりなことになっているのだろう。

「俺は正直迷ってる。この間、結構大きな契約が取れたんだ。クリンのところみたいに人は雇えはしないけどな」

 グラスを呷ってロッキーが言う。家族のことに触れないのは、彼らしい物言いだった。

「だけど、やっぱりデロイアを見捨てることなんかできない」

 彼の決意は、固く、そして翻ることはないのだ、と知った。

 

「ね?」

「う、うん?」

「何を考えているの?」

「……何も。違う、何もじゃないな、君はずっときれいだな、ってこと」

「クリンったら」

 頬を染めて照れたような妻は笑った。

 でもその瞳の向こうには、どこか翳りがある。見通されているのかもしれない、と思った。

 髪を撫でてその柔らかさを楽しんでいると、再び妻は僕を口に含んでいく。濡れた口内の粘膜の感触、優しい手が起こす刺激、舌先がペニスに絡みつき快感が送り込まれていく。

 ん、ん、ん、と喘ぎ声を洩らして、可愛く作業に熱中する妻が愛しい。愛しいのだ。

 時折妻はペニスの固さを確かめては、頬ずりをしていく。

 欲しがっている、と思うものの、僕は自分からは切り出してやらない。妻が自分自ら言い出すのを待ってやるのだ。

「ね、クリン……もう、いい?」

「え? 何が?」

 物欲しそうな視線を受けても、焦らしてやる。

「い……意地悪。いいわ」

 唇を噛みながら、妻は僕に跨っていく。ペニスを摘んで、ヴァギナに当て、そのままゆっくりと……触れてもいないのに、ぐっしょりと濡れたそこへ導いていく。

「んっ、んっ、ああっ」

 乳房を掴んで、突き上げたのだ。二回、三回腰を揺らす。妻もヴァギナを押し当てていく。羽のように軽い身体を振りつつ、汗を飛び散らせて、朝の陽光を浴びて悶えるその姿。

 本当に可愛い、愛しい。

「あっ、やっ、やあっ!」

 微妙に揺れの起動が異なる乳房を掴む。妻は普段、サイズのことを気にしているが、手に触れる質感には、十分な重みと柔らかさがあった。大体、女性は自分が思うほど乳房は小さくもないし、肥満でもないものなのだ。

 結合部分から覗くペニスは愛液で濡れ輝き、だんだん白濁してきていた。それは妻が昂ぶりつつある兆しでもあるのだ。

 夢中になって腰を振る、踊る、舞う。妻は恍惚とした表情を浮かべ、悶えている。

「ああっ、ああっ、ああっ、クリン……」

 僕の名を呼ぶその熱い身体を抱き寄せて、唇を吸う。おずおずと差し出された舌と舌を絡めて、しばしの間、休憩時間。

「ん、ん、ん」

 火の吐息は情熱的。素晴らしい曲線は官能的。頬を染める朱色は魅惑的。深窓のお嬢様は、今では僕だけの娼婦。

「あ、や、やぁっ」

 唾液の交換に倦み疲れた舌先の方向を変えて、妻の頬、肩、胸元に移っていく。身悶えする妻は激しくしがみつき、僕の庇護欲を掻き立ててやまないのだった。

 繋がったままで今度は上になる。動き出すとともに妻が哭く、喚く。

 

 声が大きいね、と辱めるように囁いてみれば、更に身体を紅潮させて、震えるのだった。聞こえてくる淫らな音を聞きつつ、もう一度口づけ。離れる時、名残惜しげに伸びた桃色の舌が可愛い。

 

 柔らかな乳房の曲線にそっと唇を押し当てて、吸うのだ。吸い続けるのだ。

「あっ、いい、あんっ、でも、あ、朝からこんなこと……」

 しなやかな金髪を輝かせながらも、朝っぱらからの情事に後ろめたいものを感じてるのかもしれなかった。

「お、おかしくなって、し、しまいそう、やあっ、やっ、ああっ!!」

 荒々しく突き上げることによって、妻は途中で恥ずかしさ、後ろめたさを忘れていく。

 押し寄せる快感が高まって、眉間のしわが深くなる。

 僕を抱く腕に力が入り、体温が熱くなる。

「デイジー、愛してる」

「私も、愛してる」

 刹那、妻が僕にしがみつき、歓喜の声で泣き叫ぶ。

「あ、い、い、いく、いくっ!!」

 その声を聞いた途端、ペニスが膨らんだ。もう我慢できなくなって、妻の体内目掛けて発射していた。どくどくと注いでいた。

「あっ、あっ、ああっ!」

 妻は弛緩しつつ、まだ悶えていた。

 

 出勤したくないなぁ、とベッドでごねる妻を何とか叩き起こして、急いでシャワーを浴びさせる。

「ほらほら、子供達が待ってるんだろ」

「クリンがいけないのよぉ」

「よく言うよ、朝から発情してたくせに」

 言い終わらないうちに、頬を思い切りつねられた。

「痛てて」

「もう一回言ってみる?」

「何でもありません。僕が悪うございました」

 今日は淡い水色のスーツに決めたらしい妻は、にっこりと微笑んだ。

 またもや外で躊躇していたワトキンスに送り出され、ようやく妻は出勤していった。

 

 バックスさんが連れてきたザルチェフ少佐は、ひどく痩せていて、片足を引きずっていた。禁錮生活の苦しさだろうか。髪を短く刈り込み、ちょっと見では昔の面影はないけれど、鷹の様に鋭い眼差しだけは変わらない。

「こちらはデビッド・ボイド。おい、デビッド、農園主のクリン・カシムさんだ」

 ザルチェフ少佐は、サハリン博士と義兄さんの名前を混ぜて偽名としていた。

 本来であれば手を取り、お元気でしたかの一言も言いたかったが、ここでは初対面の雇用主を演じなくてはならない。

 細々したことは小作頭に言いつけて、農園内の宿舎に宿を振り当ててやる様に命じた。少佐……デビッド・ボイドが荷物を運び込む間に、小作頭に足の様子を見ながら気をつけるようにと、指示を出すのが精一杯だった。

 バックスさんを応接間に招いて、コーヒーをご馳走することにした。

「アイアンフット社がいいものをくれたんだよ」

「コンバットアーマーのメーカーでしょう?」

「うむ。ダグラムの設計図なんだ」

 今更、コンバットアーマーの話をしてどうなると言うのだろう。それとも、蜂起するとでも言うのか。

「ハックルはずっと睨めっこさ」

「バックスさん、僕にそんな話をしても無駄です」

「おっと、そうだった。クリンは今やデロイアの大農園主だったな。ワハハ。ま、昔、ゲリラ時代の懐かしい話だと思って聞いてくれ」

 応接室には他に誰もいないのを見越して、バックスさんは語り出した。

「ダグラムの生産工場は連邦にやられちまったろ。あれからこっち、ダグラムを作ろうったって誰にもできなかった。技術者が全員死んじまってボン、さ」

「……」

「設計図も部品もまったくない。あるのは背中に背負えるターボザックだけだったな」

「そうでしたね。J・ロックさんが運んでくれたんです」

 思わず昔を思い出していた。ほんの数年前まで、僕は太陽の牙の一員、だった。地球生まれなのに、デロイア人に対する差別、蔑視に反発して、戦ったのだ。

 あの頃、僕にはまだ牙があった。

 

「実は、ダグラムは地球のアイアンフット社が技術を提供していたんだ。その線で当たってみたら、倉庫から設計図や資料が出てきた」

「なるほど」

「地球連邦に知られたら、まずいとでも思ったんだろうなあ。人民解放政府に打診があって、資料一式を治安軍が引き取ってくれ、だとよ」

 話はまだ続く様だった。

「今となっては旧式だがな、まだブラックボックス的なところがあって、治安軍でも工兵部隊のハックルに白羽の矢が立った。ほれ、何せ奴は唯一ダグラムの運用に当たった男だからな」

「……コーヒーもう一杯どうです?」

「すまねえな、頂くよ。奴さん、夢中になってダグラムの解析に励んだらしい。で、結果、新型の図面を起こして組み立ててるみたいだぜ」

 バックスさんは真剣な眼差しになって、僕を見た。

「お前さん、よかったら、乗ってみないか?」

「じょ、冗談でしょ」

「案外、本気だぜ。昔、ダグラムに乗ったクリンは無敵だったじゃねえか」

「もう無理ですよ、治安軍の若いパイロットがいるじゃないですか?」

「肝っ玉の据わった奴なんかもういねえよ。そういや、ビリーがパイロット目指すって言ってたなあ」

「……ずるいですよ」

「あん?」

「ビリーの名前なんか出して。もう帰って下さい。さぁ、早く!」

 乱暴にドアを開けて、メイドを呼ぶ。胸につかえた熱いたぎりを吐き出すように、

「お客さんがお帰りだ!」

「お、おい、クリン?」

「お引き取り下さい!」

 諦めた様なバックスさんは、コーヒーカップをテーブルに置くと、

「邪魔したな。奴のことよろしく頼むわ」

「……判っています」

 そんなこと言われなくたって、判り切ったことだ。一度引き受けたのだ、少佐の身の安全は守ってみせる。

「ビリーは大学生になるんでしょ。絶対パイロットなんか辞めさせて下さい」

「そりゃ同意見だが、本人が乗り気だから仕方あるまい」

「説得します、必ず。彼には乗らせません」

「そうか」

 もうバックスさんは、何も言おうとはしなかった。

 

 ビリーがパイロットになるなんてひどい話だ、と思った。せっかく大学を目指して勉強しているのに、今更血の匂いのする戦場になんか赴くことはない。

 と昼一番の来客である銀行家を相手に談笑しながらも、意識はビリーのことに飛んでいた。

 商談も落ち着き一服していると、銀行家は世間話のついでにこう切り出した。

「レーク・ボイド氏はカシムさんの義兄さんでしたかな」

「はい、そうです。姉の夫になります」

 眼鏡の奥を光らせて、銀行家は言う。かつてパルミナの行政官を務めた義兄だが、どうしてここで話題になるのかなと思った。

「この度、カーディナル大学の教授になられるそうで。いや、おめでとうございます」

「え? そうなんですか?」

 姉夫婦からは連絡がなかったので、知らなかった。驚いて、銀行家に詳しく尋ねると、汗を拭き拭き説明してくれた。

 父の遺産を管理していた義兄だったが、大学からの招きがあって、政治学の教授に就任すると言う。元々、パルミナ自治州での経験もあり、民政家としての手腕を買われたらしい。

「来月から、だそうですよ」

 それは急な話だ。銀行家が帰った後、手紙類の束の中に姉夫婦からのそれを見つけた。DM類の山に紛れていて、僕達もワトキンスも見落としたのだろう。

 中身は、財産管理を行いながらも、デロイアにきて生活する旨が書いてあった。二人の兄からは、遺産を融通するようしつこくされて困っているともこぼしてあり、それから逃げるためでもあったらしい。

 もっともこちらにくることは、ラビン兄さん、ロイル兄さん、ともに諸手をあげて賛成したようだ。うまくいけば遺産を手中にできると思っていたらしいが、父も義兄もそんなに甘い人ではなかった。

 遺産管理人の義兄は、しっかりした信託銀行と弁護士に協力を仰ぎ、父ドナンの遺志ということで、滅多なことでは遺産に触れられないようにしていたのだ。

「そうか姉さん達がくるのか」

 これからは賑やかになるだろう。姉夫婦には二人の子供がいる、僕達にもいずれ子供ができたら、さぞかしうるさいことになるだろうと思った。

 

「ね、お家、探してあげなくていいのかしら? あっ」

「手紙の最後に書いてある。カーディナルに見つけたようだよ」

「あ、本当だわ。結構町の中心ね。孤児院からも……近いみた……い」

「楽しくなるね、これから」

「そ、そうね……あっ、くっ、ダメ、ダメよ」

「そんなこと言ったって無駄さ」

「だ、だってぇ、ま、まだっ、読んでるもの」

「いいよ、読んでても」

「ダ、ダメ、クリン、集中できない、わっ」

「気持ちよくって?」

 下着の横から忍ばせていた指を引き抜くと、妻は手紙を放り出して、ベッドに沈むのだった。

 指先についた滴は、快楽の証しだ。中指も人差し指も蜜にぐしょぐしょ濡れている。ペロリと舐めて味わうと、妻の味がするような気がした。

 朝、抱いたのに、あれだけ愛し合ったのに、僕も妻も物足りないのだった。

 改めて観察すると、ヴァギナが透明な愛液を湛え、しかもクリトリスが大きくなりつつあった。

「朝だけじゃ、不足みたいだね」

「い、いや。言わないで」

 濡れた指をかざして感想を洩らすと、怒られた。でもまたヴァギナに手が触れると、

「あ……ああっ、そこ、そこぉっ!!」

 と濡れた声が聞こえるのだった。ひくひくと身体を震わせて、ああっと叫んで。また愛液をどっとにじませて。

 指はピンク色の柔らかい峡谷の中を進んでいく。妻が痙攣する度に、返って奥へ奥へと飲み込まれていくのから不思議だ。そして内側のザラザラとした壁が、僕を包み、覆うのだ。

 壁をつるりと撫でる。途端に、

「あっ、ああっ、やぁっ!」

 出口まで指を戻して、また中へ入っていく。それを繰り返す、繰り返す。

「あ、あん、ああっ!!」

 妻が僕の指を掴もうと手を伸ばすが、何も掴めずに空を切った。

「ダメ、いく、いきそうなのぉ」

「指だけで?」

「ウン……あ、いき、そう、いき」

 指を休めない。愛液でふやけてしまいそうになり、愛撫で腕が痺れそうになり、それでも僕はヴァギナの中を掻き回し続けた。

「……っく、いい、ああっ、も、もうダメェ!!」

 とうとう達してしまった。その間もヴァギナは指を締めつけ、全然離そうとしない。逆に妻は身体をよじっている。

 快楽に全身を蕩けさせながら、ベッドの上に逃げていこうとしていく。僕は逃がさない、逃がしてやらない。

「いった?」

 こく、と頷くが、言葉は出てこない様子だった。観察すると、愛液に満ちて濃厚な妻の匂いを漂わせて、パックリと開いたヴァギナが僕を誘っている。

「入れちゃうよ、デイジー」

 返事も待たず、勃起したペニスをヴァギナに宛がう。ピンク色の亀裂は息づいていた。確かに僕を待っているに違いないと思った。

 ひくひくとまた妻は身体を震わせて、

「き、きて」

 と求めてくる。

「お願い、き、きて」

 催促とともに、ペニスを突っ込ませた。窮屈な門を通過して、その先の奥を突く、突く、突いていく。

「あっ、あっ、あっ」

 中の襞が絡みつく感じだ。収縮してくる感じが、何だか心地いいのだ。

「クリン、クリン、すごい、すごい」

 思い切り妻の身体を折り曲げて、奥まで届けと突きこむ。

 苦しそうな、切なそうな表情に玉の汗を浮かべて、真っ赤な顔した妻は言った。

「私、あなたを愛してる、あ、ああっ」

「デイジー、僕もさ」

「嬉しい」

 口づけを交わす。

 改めてこんな時、唇は美味しいと思うものなのだ。ひとしきりキスに夢中になって、お互いの舌を絡ませてロマンスを感じた後、再び腰の回転を上げてやる。

 また妻が哭き始める。喚き始める。貞淑で美しいながらも、淫らな我が妻デイジーの艶姿に、見惚れてしまいそうになる。

「も、もうダメ、なのぉ」

「早いね、デイジー」

「だってぇ、あれだけ触られたら……おかしく、なっちゃい、なっちゃう、あ、ああ!!」

 いとも簡単に、しかもこんな早くに達したようだった。まだ余裕がある僕は、達した妻を苛む作業に取り掛かる。

 もはや夢うつつの境地の汗だらけの肢体は、言葉を出さず、ただ悶えるだけ。炎の息を吐き続けて、むせび泣くだけ。

 それでもやがて僕が高まりを感じると同時に、声が洩れ始めた。

「あ、あ、あっ」

 という喘ぎはすぐに、

「何だか、おかしく、おかしく、なっちゃいそうなのぉ、私、おかしく」

 おかしくなる、という意味は、またいきそう、達しそうということだ。これ程嬉しいことはない。

 柔らかい乳房に触れ、可愛く尖った頂きを口に含み、舌先で転がす。

「ま、また、いき、いき、あ、ダメダメ!」

 僕の視界にも火花が散っていた。高揚感とともに、眩暈とともに、愛しい妻の体内目掛けて射精した。それを全身で受け止めようとする彼女は、淫らながらも美しいのだった。

 

 ある日、独りで倉庫で棚卸しをしていると、そこにザルチェフ少佐、今はデビッド・ボイド氏が入ってきた。何か備品を探しているようだったが、僕を見つけると頭を下げた。

 思えば、少佐と二人きりになるのは初めてのことだったが、未だに会話をしたことがない。

 他の人がいるところでは、ゲリラ時代の話はおろか、本名すら呼ぶことはできないでいたのだ。ただいざ二人だけになっても、話題が見つからない。刑務所の中のことなど、彼には触れられたくないはずだと思ったからだ。

「ど、どうですか、慣れましたか」

 これが関の山だ。返事は、黙って頭を下げられることだけだったが。

 小作頭に聞いたところでは、ボイド氏は不自由な身体を押してよく働く、ということだった。農園労働者の間では、すでに一目置かれているらしい。

 探していた備品を見つけた少佐は、さっさと倉庫を後に出ようとする。慌て、

「ちょ、ちょっと待って下さい」

「……旦那様、皆が待っていますから」

「そんな他人行儀な言い方はやめて下さい」

「小作頭に言われてますので」

 冷たい声だった。

「クリンで構いません」

 昔のように、とは続けられなかった。少佐の横にいき、倉庫の入口にもたれながら小声で話し掛けるのが精一杯だった。

「では、クリンさん。これでいかがでしょう」

「辛くはありませんか? 何か不自由はありませんか?」

 できるだけ皮肉にならないように言った。

「いえ、皆さんにはよくしてもらっています」

「そうですか……あの」

 辺りには誰もいない。低く声を落として、今一番気になっていることを尋ねてみた。

「……あの、J・ロックさん達は、いつ頃決起するんでしょうか?」

 眼を大きく開けたものの、少佐はすぐには答えなかった。いろいろ頭の中で計算しているのだろうと見当をつける。

 やがて、こう言うのだった。

「あなたの」

「は、はい?」

「あなたの兄、レーク・ボイド氏がやってきたその後のはずです」

「レーク義兄さんが?」

 話が判らなかった。

「カルメル氏に対抗する旗頭として、かつてパルミナ自治州で民政官の経験のあったレーク・ボイド氏を迎えて、デロイア人民解放政府に異を唱える。そして」

「また戦争ですか!?」

 少佐は頷いた。

「おそらくそうなるでしょう。カルメル氏は、きっと反政府運動を強硬に弾圧するはずですから」

 義兄が犠牲になるのではないかという不安が過ぎった。きっと以前のサマリン博士のように。

「バックスやJ・ロック達は、他に反政府運動のまとめ役になれる人物がいない。地球出身だが、公平にしようと努力していたボイド氏ならそれができると思っています。民衆も彼ならついていくと」

「少佐もまた、軍事参謀として馳せ参じるのですか?」

「戦争になったら、やむを得んでしょう。私はJ・ロックに恩義がある。彼に尽くしてやることが、最後の生きがいなのです」

 この人は既に「死」を意識しているのだ。農園主の僕などとは、まったく違う人生観に至っているのだ。

「J・ロックさんと死ぬって言うのですか?」

「彼のためになら、死ねるでしょう。いや、死んでやらなければならないと考えています」

 妙に覚悟のできた、それでいて澄み切った眼差しには、いつもの少佐とは違う柔和な笑みが浮かんでいる。

「友のためなら、それが正しいことと思うなら、何でもできるのですよ、クリンさん」

 逆に言えば、逡巡するくらいならお前はもう戦うな、ということだ。

 少佐に掛けられる言葉は、見つからなかった。黙って立ち尽くす僕に一礼して、彼は倉庫を出て行った。